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第53話 穴

「ウッシッシッシッ!!言っても俺はガサ王国の王子だぜ・・・みんなが知らない情報をたくさん知っていてもおかしくないだろ??そんなことにも気づかずこんな勝負を持ちかけるなんて、アイツらもまだまだあまちゃんだねぇ〜〜〜」

 などと独り言を言いながらシナは目的の場所へ急いでいた。


 シナは来た道とこれから行く道を繋ぐ道に対して90度山側に向かって進んでいた。

 と言っても、そこに道らしい道はない。

 自由に生い茂る自然を蹂躙しながら駆け抜けていたのである。


 第二ガサ王国は雄大な広さを誇る!!!

 しかし、"アイツ"が生息しているのはこの辺りだけ。

 そして、その場所へ向かう道らしい道などは無い。

 だったら後は、つけてくる者に気をつければ済む話だ。

 余裕の現れか、シナの足取りはドンドン軽くなっていった。


 俺の狙っている食材は"霜降りゴブリン"だ。

 ゴブリンは大前提、食する事ができない。

 しかし、この霜降りゴブリンだけは別格で、美味しく食べることが出来るのだ!!!

 口当たりが良く、脂身もちょうど良し!!!

 臭みもなく、霜降りと言いながらも適度な噛み応えがあり、その点も高評価!!

 その美味さに富裕層が喜んでお金を出すほどだ。

 そして、俺はこの国の王子という特権から"霜降りゴブリン"の生息地を知っているのだ。

 それがココ・・・。

 

 ほら見ろ。地面に霜降りゴブリン独特の足跡がついているじゃないか!!

 地面にはカメラの脚立を置いたような跡が点々と付いていた。

 

 近くにいるぞ・・・

 そう確信したシナは辺りをキョロキョロしながら足跡を辿り、霜降りゴブリンを探し始めた。

 

 すると・・・

 おっ、いたいた!!!

 シナは数十m先に霜降りゴブリンを見つけた。

 何故、霜降りゴブリンがいるとわかったのか??

 それは霜降りゴブリンが他のゴブリンと明らかに違う部分があるからである。

 それは色だった。

 通常のゴブリンが緑色なのに対し、霜降りゴブリンは赤色をしているのである。

 その他の見た目は足の形以外、際立って違うところはない。


 今、シナは遠くから赤色のゴブリンを見つけた。

 そして、目に入った霜降りゴブリンはシナに背を向けていた。


 これはチャンスだ!!

 シナは高揚した。

 相手の隙をつく、またとない機会だからである。

 霜降りゴブリンを早く捕まえたいと焦る気持ちを抑えながら、ゆっくりと、慎重に、それでいてテキパキと近づいて行った。


 そぉ〜っと、そぉ〜っと・・・

 そして、射程距離に入った霜降りゴブリンを捕まえようと、背後から手を伸ばした。


 どぉぉぉりゃぁぁぁ!!!霜降りゴブリンゲットォォォォォォ!!! 


 !!!!!


 霜降りゴブリンを掴んだシナは違和感に襲われた。

 

 冷たい・・・

 シナは急いで霜降りゴブリンの前に回った。

 霜降りゴブリンは絶命していた。

 シナが背後から近づいた時は、肺の辺りまで草で隠れていたため気付かなかったが、お腹に大きな穴が空いていたのである。

 霜降りゴブリンは通常のゴブリンと比べて身体能力が遥かに高い。

 特に俊敏さは比べ物にならないほどである。

 シナがゆっくりと近づいたのもその俊敏さをかっていたからである。

 そんな霜降りゴブリンがお腹を貫通するほどの穴を開けられ絶命している。


 この近くに何か途轍もない化け物がいる。

 シナの体に自然と力が入った。

 が・・・。

 

 まぁ、それはそれで・・・と。

 とりあえず、こいつはもらっていくか。

 そう言って、シナはお腹に穴の空いた霜降りゴブリンを抱えベースキャンプに戻って行った。

 本当は調理する瞬間まで生かしておくのが一番美味しいのだが・・・しょうがないな。

 鮮度は落ちるが、それでもまだまだ美味しいはず!!!

 シナにとって、霜降りゴブリンの生死と料理勝負は別腹だった。




 ここはどこだ・・・???

 とりあえず全員が向かう方向を見定め、その上で誰も向かっていない方向へ突き進んだ結果、迷子になってしまった・・・。

 それが彼、この物語の主人公、ドラキュラだった。


 誰もいないところへ行けば、誰も手に入れていない食材を手に入れられると思ったが・・・。

 う〜〜〜ん、浅はかだったか・・・???

 確かに誰もいないのだが・・・生き物もいない・・・。

 ドラキュラは大自然の真っ只中に一人ポツンと立ち尽くしていた。

 俺は調理が苦手だからなぁ・・・。

 なんとかして、食材だけは良いものをと思ったのだが・・・。

 そんなに甘くないか・・・。

 しかし、これはこれで何だかおかしいな・・・。

 今この時もたくさんの生き物の鳴き声が聞こえているというのに、俺のこの周りだけ何もない。

 この大自然にそんな場所が存在するものだろうか???

 この周辺だけ殺風景過ぎる!!!

 だが、それもこう考えるとしっくりくる。


 いないのではなく、いなくなった。


 確かに俺の周りには何もいない!!!

 しかし、さっきからずっとここに存在しているものがある。

 それは死臭だ!!!

 ずっと俺の鼻に突き刺さっている。

 それも多種多様な死臭だ・・・。

 恐らくついさっきまで、ここにあったんだ。

 たくさんの死体が・・・。

 多分、ここら辺に生息している怪物たちだろう。

 そいつらが何かの理由で命を落とした。

 災害ならば、俺たちだって気づいているはずだ。

 ベースキャンプから離れているとはいえ、これほどまでの死臭を残すほどの災害であれば、目に入らないわけがない。

 もっと言えば、周りの自然に何らかの影響を与えているはずだ!!

 だが、周りは至って普通。

 例えば、火事であった場合、周りの草木が焦げているはずだ。

 しかし、そんな様子はない。

 では、毒ガスのようなものか・・・???

 それであれば、死臭と同じくらいにガスなどの匂いが残っているはずだ。

 それに死体がないのも可笑しい。

 ということは、考えられるのは・・・。

 何かがここら辺の生き物の命を奪い、食べたかどこかへ連れ去ったか。

 そう・・・。

 死臭に混じって、俺の五感を刺激するものがあった。

 それは殺気だ!!!

 この殺気の持ち主が、犯人と考えて間違いないだろう。

 本人は気づいていないだろうが、あまりに強過ぎて、殺気がマーキングのようになっている。


 ドラキュラは殺気が香る方へと歩いて行った。

 すると・・・、

 

 ほう・・・。

 前の茂みの方から、ジッとこちらを見つめるものがいた。

 

 あれは・・・。

 ドラキュラはそのものに見覚えがあった。

 そのものに近づくとその姿がハッキリとわかった。


 やはりオークか!!!

 しかもエメラルドオーク!!!

 その時、ドラキュラとエメラルドオークの距離は3mほどだった。

 ドラキュラはこのまま戦闘になると思った。

 しかし、構えそうになった両手を直ぐに下ろしたのである。

 何故なら、近づいて分かったからだ。


 生きていないな・・・

 そう、目の前のエメラルドオークは絶命していたのである。

 こっちを向いていたとはいえ、胸の辺りまで茂みに隠れていたため分からなかったのだ。

 それが分かったのは、ドラキュラが近づいても身動き一つなかったのと、目の焦点がずっと合わなかったからである。

 そして・・・


 ガサガサガサガサ・・・

 ドラキュラはエメラルドオークの胸の辺りまで生い茂った草をどかした。

 エメラルドオークの腹には大きな穴が空いていた。

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