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第5話 笑うドラキュラ

 ドサッ・・・・

 ドラキュラに処刑されていた最中の女はその場に倒れた。


「ドラキュラさま、処刑終了でございますか??」

 ニニがいつものように訪ねた。


「いや、そうではない・・・・」

 ドラキュラの言葉に"えっ??"と一瞬驚きを見せたが、それよりももっと驚いたことがあった。


「ド・・・・、ドラキュラさま、それは・・・・??」

 ニニはドラキュラを指差した。

 正確に言えばドラキュラの"顔"を指差した。


「そうか・・・・私は捨てられたのではなかったのだな・・・・」

 ドラキュラは安堵した。

 自分が今ここにいる理由、父と母がいない理由。

 常に心にまとわりついていた、重くねっとりとした泥のような闇が晴れたのを感じた。

 "自分は両親に捨てられたのではないか??"

 そんな思いが、いつも心のはじっこから自分に意地悪をしていた気がする。

 それが怖くてバーツには両親のことを深く聞くこともなかった。

 だが、今分かった。

 "自分は捨てられたのではなかった"と。

 それどころか、自分は両親に愛されていたのだと。

 父と母が自らの命をかけて守ってくれたから今の自分があるのだと。

 嬉しかった。

 胸の奥が温かくなった。

 気がつくとドラキュラは笑っていた。

 それはそれは優しい笑みで・・・・。


「ドラキュラさまが・・・・、笑っている・・・・」

 ニニは目の前の光景に対して、目を擦ってみたり、自分のほっぺをつねってみたりした。

 その全てからもこれが現実なのだということはわかった。


「ニニ!!」

 

「はい!!」

 ニニはただ名前を呼ばれただけだった。

 しかし、その呼び方は今までのドラキュラの呼び方と違っていたのである。

 "ニニ"というたったの二文字にも抑揚があった。

 "ドラキュラさまが何か変わった"とニニは感じた。

 それは悲しいことではなく、とても喜ばしいことであるとも直感で理解した。


「この女を介抱してやれ!!」


「えっ??介抱ですか・・・??」

 ニニの目と耳に次から次へと理解を超えたことが起こっていく。


「そいつはまだ生きている!!」


「え・・・・??ですが、罪人ですよ??」


「そいつは罪を犯してなどいない!!」


「え・・・・??」

 ニニの頭はパンクしそうになっていた。


「そいつは無罪だ!!」


「無罪・・・・??なぜそのようなことがわかるのです??」


「流れ込んできた・・・・」


「"流れ込んできた""??」


「そうだ!!この女の力は瞬間記憶能力ではない!!記憶を思い出す力だ!!」


「"記憶を思い出す力"??」


「人はなんでも忘れてしまうものだ。それをすぐに思い出すことが出来る!!それがこいつの力だ!!おかげで、俺も自分の秘密を知ることができた・・・・。そして・・・」


「"そして・・・・"??」


「どうやら忘れていた"感情"とやらを思い出すことができたようだ!!」


「"忘れていた感情"??」

 ニニのおうむ返しが止まらない。


「うむ・・・・。どうやら俺の無感情は体質ではなく、俺の母の力によるものだったようだ!!勘違いしないでほしいが、母は俺にそうするしかなかったからそうしただけのこと。母としては"俺の嫌な思い出を消す"というのが目的だったようだ。しかし、その思いが強すぎて、いつも以上の能力を発揮したのだろう、俺は感情まで忘れてしまったというわけだ。きっと母にも想定外だったであろう・・・・。」


「ドラキュラさまが感情を取り戻したことは理解できました。しかし、それがこの女を介抱する理由になるのですか??」


「そうではない。どういうわけかこの女の血を吸っていたところ、女の記憶も俺の中に流れ込んできたのだ」


「えっ・・・??そんなことあるんですか??」


「さぁ・・・・」

 ドラキュラは両手をWのように折り曲げて首を傾げた。


「はぐらかさないでくださいよ!!」

 ニニはちょっとムッとしながら言った。


「まぁ、あるのだろう!!そうだろ、ムーンよ??」

 ドラキュラは倒れた女に呼びかけた。


「痛たたたた・・・・。何よ、途中で処刑をやめたと思ったら、急に名前を呼んで・・・・。処刑に焦らしプレイなんていらないんだけど!!」

 ムーンは頭を抑えながらフラフラと立ち上がった。


「それよりも吸血って本当にヤバイわね!!まだ頭がクラクラするわ!!」

 しっかりと意識はあるようだ。


「ドラキュラさま、なぜその女の名前を・・・・??」

 ニニがそう言うのも無理はない。

 ドラキュラは今まで、処刑する罪人に関する個人情報は、できる限り耳に入れないようにしてきた。

 もちろん名前もである。

 しかし、ドラキュラは女を"ムーン"と呼んだ。

 そして女はそれに応えた。

 ドラキュラが罪人の名前を知っていたのだ。

 それはニニの中で、ドラキュラの"記憶が流れ込んできた"という言葉が揺るぎないものになった瞬間でもあった。


「記憶が流れ込んできたのだから当然だろう」


「なるほど・・・・」

 納得するニニはなんだか嬉しそうだった。


「なぜ処刑を途中でやめたのだ??」

 ムーンは半分怒ったような口調で言った。


「お前が罪人ではないからだ!!」


「・・・・」

 ムーンは目を見開いた。

 ドラキュラの言葉が図星だったからである。


「俺の仕事は罪人を処刑することだ!!罪人に仕立て上げられたものを処刑することではない!!」


「私は・・・・。罪人だ・・・・」

 ムーンの言葉から力強さが無くなった。


「いいや違う!!」


「違わない!!早く私を処刑しろ!!」


「そうしないと姉の命が危ないからか??」


「!!!!!!」

 "なぜそれを・・・??"ムーンの表情がそう語っていた。


「お前は俺に隠し事などできんぞ!!」


「それでも・・・・。私は・・・・、自分の命と引き換えにしてもお姉ちゃんを助けたいんだ!!」


「では一度整理しよう!!お前の目的は"姉を助けること"で合っているな??」


「だから、さっきからそう言っているだろ!!」


「ということは、"自分の命を捨てること"は、お前にとって"目的でもなんでもないということ"だ!!言い換えれば、姉が助かるのであれば、お前の命を犠牲にすることもないということだ。違うか??」


「それが出来ないから、私がここに居るんじゃないか!!」

 ムーンは言葉を張り上げた。

 処刑室の中が一瞬静寂に包まれた。

 その静寂を一番に抜け出したのはドラキュラだった。


「先ほどまで処刑しようとしていた者に、こんなことを言うのも変だと思うが、俺はお前のおかげで感情や記憶を取り戻すことが出来た。とても感謝している。だから・・・・、そのお礼としてお前の姉を助けてやろうと思う」


「!!!!」

 ムーンは目を見開いた。


「!!!!」

 ニニも同じように目を見開いた。


「助けるって言ったって、どうするんだよ??」


「本当の犯人に会って、本当の罪人を処刑すれば良いのだろう??」

 そう言ってドラキュラは再び笑った。

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