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第4話 思い出す

「この娘の特殊能力が俺の中に入ってくるのが分かる。瞬間記憶能力と言ったか、これは使えそうだ・・・・。思えば、ここ数日の処刑で得た能力はどれもパッとしないものばかりだった気がする。"炭酸飲料の炭酸が何分で抜けるか分かる能力" "初めて見た虫の生態が分かる能力" "バスから降りる時、絶対に自分がボタンを押せる能力"・・・・etc、もちろん数時間前の"服のサイズを自由に変えられる能力"もそうだ。処刑人なのだから、やはり力や攻撃に関するものなど処刑に活かせるのが良いのだが、なかなかどうして、そんな都合良くはいかないものだな。しかし、今回の能力は使えそうだぞ!!どれどれ、まだ血を吸い切ってはいないのだがフライングで使ってみるか」

 ドラキュラは吸血しながら、女性から得た能力を使った。

 するとドラキュラの頭の中に映像が流れ始めた。



「ミーツ、どうして僕じゃなくてヴァーニーを選んだんだい??僕はこんなに君のことを愛していたというのに・・・」

 映像の真ん中にいる男は、とても悲しそうな顔をして、視線を少し右斜め上に向け話している。

 手には剣が握られている。

「やめてクロス!!あなたはそんな人じゃなかったはずよ!!」

 声が聞こえた方へ反応するように映像は右斜め上を向いた。

「うるさい!!うるさい!!うるさい!!僕の気持ちを踏みにじっておいて、自分は何も悪くないみたいな顔をしやがって!!」

 映像はまた男へと移る。男は錯乱しているように見えた。

「殺してやる・・・・。君を殺して僕も死ぬ!!そうすれば、君は永遠に僕のものだ!!」

 そういうとクロスは剣を強く握りなおし、ミーツに向かってきた。

 ミーツが映像に覆いかぶさる。

 ミーツの筋肉に力が入るのがわかる。

 それはクロスに対抗するためではなかった。

 大切なものを守るためであった。

「さようならミーツ・・・・」

 クロスは全力でミーツを殺そうとした。

 その証拠にクロスが一瞬にして視界から消えたのである。

 

 ドスッ・・・・

 剣が刺さる音がした。


 ドサッ・・・・

 刺された者が崩れ落ちる音がした。


「ヴァーニー!!!!!!!!!!」

 ミーツの声がした。

 映像が倒れた男を映した。

 どうやら、その男がヴァーニーのようであった。

「ククククククククク!!よう、ヴァーニー久しぶりだなぁ。どうした??背中から血なんて流して??」

 クロスはうつ伏せに倒れたヴァーニーを見下ろしながら言う。

「ク・・・・、クロス・・・・。どうしてこんなことを・・・・??」

「どうしてだって??本当にわからないのか??」

 

 ドガンッ!!

 クロスが倒れたヴァーニーの横腹を蹴飛ばした。


「やめてぇぇぇぇ!!」

 映像は再びミーツをとらえる。

 ミーツは涙をまといながらクロスに必死に呼びかけた。

 しかし、それがクロスの怒りをさらに震え上がらせた。

「お前が僕のミーツをとったからだろうがぁぁぁ!!!!」


 ドガンッ!!

 再びクロスはヴァーニーを蹴飛ばした。


「ヴァーニー!!!!」

 ミーツの声が突き刺さるように響く。


「憎い・・・・。俺はお前が憎いんだヴァーニー!!!!」


 ドスッ!!

 クロスは動けなくなったヴァーニーに剣を突き刺した。


 ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!

 ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!ドスッ!!

 何度も何度も剣を突き刺した。

 ヴァーニーから流れ落ちる血は、クロスの憎しみがヴァーニーの体の内側を突き破って出てきたかのようであった。


「やめて・・・・。クロス・・・・」

 ミーツの声がか細くなっていく。


「いたぞ!!ここだ!!」

 聞き覚えのある声とともに大きな男が入ってきた。

「クロス!!貴様、何をしたかわかっているのか!!!!」

 大男は激昂しながらクロスを羽交締めにした。

「おい!!早くヴァーニーに回復魔法を!!」

 大男は一緒に入ってきた部下たちに言った。

 そしてそのままクロスを抱え部屋の外へと行った。

 部屋にはミーツとヴァーニー、医療班が残された。

「ミーツ・・・・。すまない。こんなことになってしまって・・・・」

「ヴァーニー、もう喋らないで。大丈夫、安心して!!医療班が来てくれたわ!!」

 ミーツは気づいていた。ヴァーニーはもう助からないと。

 認めたくなかった。

 だから自分に言い聞かせるかのようにヴァーニーに言ったのである。

「愛しているよミーツ・・・・」

 ミーツの膝の上に頭を埋め話すヴァーニーの顔は濡れていた。

 滴るミーツの涙を優しく受け止めていたからである。

「死なないでヴァーニー!!!!」

 閉じゆく瞳のヴァーニーを見つめながらミーツは願うように言った。

「さようならヴァーニー。その子を・・・・、ドラキュラを頼む」


 父さん・・・・。

 母さん・・・・。

 そう、ヴァーニーはドラキュラの父であった。

 そして、ミーツはドラキュラの母であった。

 先ほど入ってきた大男は若かりし日のバーツであった。

 ドラキュラはバーツから何度も両親の話を聞かされていた。

 その登場人物の名がヴァーニーとミーツだった。

 自分にどこか顔が似ているヴァーニー、祖父にどこか顔が似ているミーツ。

 ドラキュラは映像を見ながら確信していた。

 これは自分の記憶なのだと。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 ミーツの泣き声が響く。

 膝の上のヴァーニーは瞳を閉じていた。 

 ドラキュラはヴァーニーにくっつくようにしてミーツに抱かれていた。

 ひとしきり泣いた後、ミーツは覚悟を決めた。

「ヴァーニー、ごめんなさい・・・・。あなたとの約束は守れそうにないわ!!だって、このままだとこの子が辛すぎるでしょ。こんな凄惨な現場を見せられて、いつ思い出すかもわからない、もしかしたら心に傷を負ってしまうかもしれないじゃない。そんなのかわいそ過ぎる。この子にはなんの罪もないのに・・・・。だからね・・・・」

 そう言ってミーツは幼いドラキュラを抱っこして強く抱きしめた。

「聞いてドラキュラ。私には"人の記憶を消す力"があるの!!それを今からあなたに使うわ。これでこの出来事も全部忘れることができる!!今までのことも忘れてしまうけれど、あなたなら大丈夫。私たちがいなくても強く生きていけるわ!!」

「ミーツ!!!!」

 クロスを連行し戻ってきたバーツが叫んだ。

「お父様。ごめんなさい」

「やめろミーツ!!お前の力は体への負荷がかかり過ぎる!!病魔に犯されたその体でその力を使えば・・・・」

「わかっているわ。だからね、最後にこんなダメな娘のお願いを聞いて欲しいの。この子を・・・・、ドラキュラを幸せにしてあげて・・・・」

 ミーツは最後の涙をこぼしていた。

「お前はダメな娘なんかではない!!わかった!!わかったから行くなミーツ!!」

「お父様・・・・、さようなら・・・・」

 ミーツとドラキュラを包んでいた光が消えた。

 ミーツはヴァーニーと同じように瞼を閉じた。

 膝の上のヴァーニーと、その隣で何ごともなかったかのようにスヤスヤ眠るドラキュラを、包み込むように覆いかぶさって。

 

 ミーツは願いを込めてドラキュラに力を使った。

 "愛する我が子の幸せを祈って"

 しかし、皮肉なことにその強い思いが、いつも以上の力を生み出してしまったのである。

 結果、ドラキュラは記憶だけではなく、感情までも忘れてしまった。

 

 そして月日は流れ、今、ドラキュラは一人の女性を処刑している最中。

 ドラキュラが処刑している女性の能力は"瞬間記憶能力"ではなかった。

 "忘れた事や物を思い出す能力"だったのである。

 ドラキュラは記憶と共に感情も思い出したのである。

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