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第3話 瞬間記憶能力

 ギルティ王国の王クバーサ・バーツはだだっ広い王の間に構える玉座にどっしりと腰を落とし待っていた。

 顔を合わせるのは一昨日ぶりだろうか。

 一日会わないだけでも寂しい。

 それがクバーサにとっての家族というものだった。

 顔には出さずに、しかしソワソワしながら、クバーサは玉座の手すりを人差し指でコンコン叩き、今か今かと待ち人を待つ。


 コツコツコツコツ。

 ゆっくりと力強い足音が王の間に近づいてくるのが聞こえた。

 足音を聞くだけでわかる。

 "緊張をしていない"

 それは、近づいてくる者が自身の待ち人であることを確信させた。


「どうしたじいちゃん??何か用か??」

 そう声をかけたのはドラキュラであった。

 ドラキュラはクバーサの孫だった。


「最近会っていなかったので、仕事はどうなのかと心配になってのぉ・・・・!!」

 クバーサは真剣な面持ちで話す。

 しかし、心の中では・・・・。


「はわわわわ!!孫がやって来たぞい!!ワシが会いたいと言ったら会いに来てくれたぞい!!なんだかちょっと見ない間(一日)にまた大きくなったんじゃないのか??いやぁ・・・・、我が孫として鼻が高い!!今日はどのくらいお話しできるんじゃろうなぁ・・・・」

 などと思っていた。

 クバーサは俗に言うツンデレなのだ。


「最近どうもこうも、一昨日会ったばかりだろうが!!」


「オホン!!そうじゃったかのう・・・・」

 クバーサは咳払いを一つして、冷静さを演出してみせた。

 しかし、心の中では・・・・。


「はわわわわ!!覚えててくれたんだぁ!!!!そうそう一昨日会ったんだよ!!嬉しいなぁ、嬉しすぎるなぁ!!言葉遣いは刺々しいけど、そういうところはキッチリしてるんだから!!もしかしてツンデレ??ワシの孫、ツンデレなの??いやだぁ・・・・、可愛すぎるんですけどぉぉぉぉ!!!!」

 などと思っていた。


「用がないなら帰るぞ!!」


「まぁ、待て!!」

 クバーサは、(きびす)を返し広間を出ようとしたドラキュラを低く重たい声で引き止めた。


「最近どうじゃ??何か困っていることはないか??もしくわ何か欲しいものはないか??」


「どうした、いきなり??」


「ワシはこの国の王であると同時にお前の祖父でもある。孫に何かしてやりたいと思うことがそんなに不思議か??」


「・・・・」

 クバーサの言葉にドラキュラは黙った。


 窓からは空を自由に飛び回る鳥が何十羽も見えた。

 それは息苦しさのない、開放的な様子だった。

 王の間の静まり返った雰囲気とは対照的だった。


「まだ俺の"このこと"を気にしてんのか??これはじいちゃんのせいじゃねぇだろ!!」

 "このこと"それはつまり"ドラキュラに感情がないこと"を指している。

 もちろんクバーサも知っている。

 むしろ、そうなった原因も知っている。


「これは死んだ母ちゃんが俺に掛けた魔法のせいなんだろ??」


「・・・・」

 今度はクバーサが黙った。


「別に恨んでねぇよ。そもそも恨むなんて感情がねぇよ。母ちゃんにも何か理由があったんだろ・・・・。まぁ、息子の感情を失くしたくなる理由なんて考えても想像つかねぇけどな・・・・」


「辛くはないか??」


「だから辛いとかって感情がねぇんだわ」


「そうか・・・・」

 もちろん、ドラキュラが苦しむことなどはない。

 クバーサは自分でも余計な世話を焼いていると自覚していた。

 しかし、ドラキュラの母(自分の娘)のためにも、ドラキュラ自身のためにも、何かをしてあげたいという思いが勝ってしまうのだ。

 それを会うたびにいつも反省している。

 国を守るための王が孫一人守れない。

 それが苦しかった。


「また頼みがあったら来るわ」

 今度こそ踵を返してドラキュラは王の間を出て行った。

 ドラキュラはわかっていた。

 祖父が自分のことを本気で心配していることを。

 それでも、何かお願いしたところで何も変わらないことを知っている。

 それではかえって祖父を苦しませてしまう。

 ドラキュラはそう考えていた。

 少し不器用な孫なりの思いやりだった。


「いつでも来いよ」

 クバーサは迷いなく真っ直ぐ遠くなっていく孫の背に向けて言った。


 それが昨日のことである。






「この女性に猶予を与えてやってくれ」なんてじいちゃんにお願いしたら聞いてくれるのかな??と、ドラキュラは両手を広げて処刑される覚悟を決めた女性を見ながら思った。

 足だけでなく、閉じた瞼も、唇も、震えている。

 広げた両手は罪を受け入れた覚悟ではなく、"お前らには最後まで屈しない。自分は間違っていない。だから処刑など怖くない"そんな決意の表れに思われた。

 しかし、実際は恐怖心をカモフラージュするためのものだった。

 ドラキュラは"すまない"と心で呟きながら女性の首筋に噛み付いた。

 何が"すまない"のか自分でもよく分からなかった。

 それでも、せめてもの情けとして早く終わらせてやろうと思った。


 ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 不気味というよりも半ば下品な音が処刑室に響き渡る。


「私、噂で聞いたことがあるんだよね!!あんたドラキュラでしょ??」

 女性は瞼を開け、自分の血を吸い続けるドラキュラを見ながら語りかけた。


「確か処刑した罪人の力を自分のものにできるとか??私にもね特殊な力があるんだ。それあげるね。大切に使ってよ!!」

 女性は少し微笑んだ。


「ほうひったひはらふぁ(どういった力だ)??」

 処刑を実行しながらドラキュラは言った。


「結構使えると思うな。私の力はね。一度見たものや、聞いたことを忘れないっていうやつ!!」


「瞬間記憶能力ですか??」

 喋りにくそうなドラキュラを気遣って、離れて見守っていたニニが言った。

 女性は優しい笑みを浮かべてゆっくりと頷いた。


「そう!!だから私、学校に行ってた時も全然忘れ物をしたことがないの。どう??羨ましいでしょ??」


「普通に生きていくのであれば、最も実用的な能力と言えるかもしれませんね・・・・」


「あんた会った時からずっと無表情だから、今から楽しい思い出いっぱい作って・・・、そしてこの能力を使って、夜思い出し笑いとかすれば良いわ!!」

 皮肉ではない。

 女性なりに本気で心配して言ったのだ。

 さっき会ったばかりの、しかも自分の命を取ろうとしている男に・・・・。


 そう言っている間にもドラキュラの処刑は執行されている。

 今、ドラキュラの体内には女性の血がドクドクと流れ込んで来ていた。


 ポワァァァァァァァァァァァ

 ドラキュラの体が明るい光を放ち始めた。

 これは吸血によって相手の特殊能力を取り込んでいる最中であることを意味している。


 先に言っておく。

 女性は自分の特殊能力を勘違いしている。

 そして、女性の本当の特殊能力の効果によって、ドラキュラの運命は大きく動き出すのであった。

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