第2話 彼女が最後に言いたかったこと
「すみませんドラキュラさま・・・・。女性とばかり思っておりまして・・・・、まさかこんなに幼いとは・・・・」
前から近づいてくる自分と年の近いであろう少女を前に、ニニは困惑していた。
「構わん気にするな!!しかし・・・・」
もちろんドラキュラも困惑していた。
というのも、ここまで子供じみた罪人は初めてだったからである。
「本当にこの子が罪人・・・・??」
ニニはまだ信じられないでいた。
そんなことはお構いなしと言わんばかりに、少女を連れた兵士は牢獄の中を奥へとどんどん進んでいく。
「では、ドラキュラさま。この罪人はこのまま処刑室へ連れていきます!!」
ただただ上からの命令を遂行するだけの素直な兵士は、目の前の罪人に何も感じていないように見えた。
あまりに事務的で、ニニにはドラキュラよりも兵士の方がよっぽど感情のない人間に思えた。
「わかった。今、鍵を開ける!!」
牢獄の奥には処刑室が存在する。
処刑室は処刑人一人につき一部屋与えられており、"必ず処刑を成功させる"ことを条件に内装は自由にして良いと決められていた。
食べ物も可。武器も可。魔導書も可。全て許されている。
六畳ほどのスペースはドラキュラの性格を表すには十分な広さであった。
何も置かれていないのだ。
ドラキュラの処刑室はただの箱のようにものが一切ない。
賃貸の内見にでも来たかのように殺風景である。
罪人だけでなく、内装までも殺していた。
兵士に処刑室の中へと押し込まれた少女は、その部屋の様子に驚いていた。
処刑室を初めて見たからではない。
想像していた処刑室とあまりに違っていたからである。
全体的に白で統一された室内を見回した少女は、一瞬自分が無罪になって休憩室にでも案内されたのかと錯覚するほどだった。
「ドラキュラさま!!この少女はホッカ王国三番隊隊長ボリべに剣で切り掛かり、隊長を庇おうとした兵士に重傷を負わせた罪で捕まりました。庇った兵士は意識不明。取り押さえようとした兵士数名も傷を負っています。周りには多くの国民がいたようで、目撃者も多数。言い逃れはできない状況です。死人こそ出てはいませんが、国家反逆とも取れる行為。このまま野放しにしておくのは危険とボリべ隊長は判断されました。以上がこの少女の罪状になります!!よろしくお願いいたします」
「わかった!!もう戻っていいぞ!!」
ドラキュラは無表情で兵士を返した。
兵士はお手本のような返事をして処刑室を出ていった。
ニニは部屋に残っている。
「ふぅ・・・・。どうしたものか・・・・。いくら俺に感情がないとはいえ、こんな少女をいきなり処刑とはいけんだろ」
頭をポリポリさせながら、ため息混じりにドラキュラは言った。
「ですがドラキュラさま。少女は立派な罪人ですよ!!」
ニニがドラキュラに冷静になってくださいと言わんばかりに伝える。
「立派な罪人って・・・・」
と、ドラキュラは心の中でツッコんだ。
「・・・・・・・・」
少女は俯いたまま何も話さない。
ここまでのいきさつを考えると、もう何を言っても自分は処刑されるのだと諦めているからである。
それでも腹立たしい。
どうしても言っておきたい。
それは黙っていても体に現れていた。
プルプルプルプル・・・・
少女の肩は丸くなるように縮こまったまま俯く震えていた。
感情のないドラキュラにとって唯一とも言える長所は、感情が無い分、主観で物事を判断しないことだった。
目の前の少女の肩の揺れを"処刑されることへの恐怖"と判断したニニに対して、ドラキュラは"何か言いたいことを我慢している"と判断した。
「少女よ。何か言いたいことがあるのではないか??」
「・・・・」
少女はドラキュラの問いかけに答えない。
だからこそドラキュラは少女が何か言いたいことがあるのだと確信した。
「罪に納得していない罪人はたくさん見てきた。しかし、お前のような少女が未練を持ったまま死にゆくさまは見ておれん!!何か言いたいことが有るのなら言ってみろ!!無礼を言ったところでこれ以上お前を咎めることなどできんのだから!!」
ドラキュラはせめてもの救いの言葉をかけた。
「私・・・・ない」
ドラキュラの言葉に背中を押されたかのように少女は口を開いた。
しかし、緊張による喉の渇きからか、少女の言葉は上手く聞き取れなかった。
「なんじゃ??遠慮せずとも良いぞ!!ハッキリ言ってみろ!!」
「私・・・・じゃない」
幾分聞き取れない部分はあったが、それでも先ほどよりはっきり聞こえた。
"私・・・・じゃない"つまりこの少女は濡れ衣を着せられたということか。
しかし、それをここから証明することは難しい。
何よりもそれは私の役目ではない。
私はあくまで処刑人。
ここに連れてこられた罪人を確実に処刑することが仕事だ。
罪人が罪人であるかの確認は私の仕事ではない。
ドラキュラの冷静な判断は、ドラキュラにこそふさわしい"無情"という言葉が良く似合った。
しかし、話は斜め上から着地しようとしていた。
「私は少女じゃないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」
『へ・・・・??』
ドラキュラとニニの目が点になった。
「私は18才だ!!全然少女じゃない!!」
『・・・・・・』
まさかの主張にドラキュラもニニも言葉が出ない。
「少女、少女、少女って、私は立派な大人なのに・・・・。それなのに・・・・」
少女の肩がプルプルと震えていた理由、それは"処刑されることへの恐怖"でもなければ、"何か言いたいことを我慢している"わけでもなかった。
周りが自分のことを"少女"ということにただただ怒っていたのである。
ある意味、"何か言いたいことを我慢している"は正解かもしれないが、ドラキュラはそういう意味で"何か言いたいことを我慢している"と思ったわけではなかった。
だからこそ少女・・・・。もとい。女性の主張を聞くや否や、驚き、そしてすくんだのである。
「何なの??罪人だったら何言ってもいいってわけ??ただの暴力だけでは飽き足らず、言葉でも暴力を奮うってわけ??私の心と体から生命につながる全てを殺そうというわけ??」
罪人、よく喋る。
急によく喋る。
"どうせもう終わりだし"という開き直りが舌をステージにして踊っているかのように捲し立てる。
「すまん・・・・」
ドラキュラは女性が何に怒っているのかを理解できていない。しかし、第六感的なものが"お前は無礼をはたらいたのだ"と自分を咎めているような気がして反射的に謝った。
「すまんじゃないわよ!!すまんじゃ!!どうせ謝ったって、心の中じゃまだ私のことを"少女"だと思ってるんでしょ??」
ドラキュラは火に油を注いだ。
あまりの勢いに押され気味になっていた。
しかし、すぐに女性は静かになった。
開き直りのステージは終幕を迎えた。
「はぁ・・・・。スッキリした!!」
女性は、半分本音、半分強がり、そんな笑顔を浮かべていった。
「さぁ、一思いに殺しなさいよ!!覚悟はできてるんだから!!」
そう言って女性は目をつぶり、両手を広げて、ドラキュラに体を捧げた。




