第48話 その日もだろ
「チヨ婆はどこにいる??」
ドラキュラはやたらとぶっきらぼうに見張りに尋ねた。
「はっ、チヨさまは第二ガサ王国の中心部ターカミという場所におられます」
「どれくらいで着く??」
「はっ、3日ほどあれば着くかと・・・」
『3日・・・!!!』
ニニとムーンは声を揃えた。
「はっ、第二ガサ王国もまた、第一ガサ王国に引けを取らない立派な国であります!!領土も広く、自然も豊か。そのためチヨさまのお住まいまでも険しい道のりとなっています。短く見積もっても3日は掛かるかと・・・」
「まぁいいだろ!!早いに越したことはないが、特段急いでいるわけでもないのだから」
「いや、ドラキュラさま。3日も歩きっぱなしは嫌ですよ!!しかも、変な生き物みたいなのまでいるんですよね??絶対やめた方が良いですって!!」
ドラキュラの判断の軽さに若干の苛立ちを覚えながら、ニニが言った。
「ここで止めれば、あの虫の話は頓挫するぞ!!それこそ遠回りになるのではないか??」
「ドラキュラの言う通りかもな!!それにチヨ婆に会いにいく道中にアチ兄に会えるかもしれないしな・・・」
「はっ、ポロ・アチチさまのことでしょうか??」
「おっ・・・もしかしてアチ兄がここを通るのを見たのか??」
「えっ??ガサ王国にいらっしゃるのですか??」
「いや、それを聞いているんだが・・・」
シナは少し呆れて言った。
それと同時に見張りがポロ・アチチを見ていないのだと悟った。
「すみません。私、ポロ・アチチさまの大ファンでして・・・」
「へぇ〜、そう!!他国の王子の大ファンねぇ〜・・・。自国の王子を目の前にそんなこと言うんだ・・・」
シナのジトっとした目が見張りにまとわりついた。
「器ちっちゃ!!」
その様子を見ていたムーンが思わず言った。
「クククククク」
それを見ていたツシカは思わず笑った。
「ですが、すみません。ポロ・アチチさまがこの入り口を通ったと言う情報は入っていません」
"やはりか・・・"
と、シナは思った。
「大ファンが言っているんだからそうなんでしょうね」
ムーンは見張りの言葉に説得力を感じた。
「では、何か最近、気になることは起きなかったか??」
「うぅぅぅ〜〜〜〜〜んんん・・・」
見張りは腕を組んで真剣に考え始めた。
根が真面目なのだろう、少し考えて出てこないのであれば、そう答えれば良いものを、ドラキュラたちが心配になるほどに男は考え続けたのである。
そして・・・、
「まぁ・・・あえて言うならですけど・・・」
見張りの言葉には覇気がなかった。
思い出した事柄に自信がないのだろう。
それでも力になれる可能性がゼロではないので、見張りは勇気を出して切り出した。
「笑わないでくださいよ??」
と思ったら、見張りは勿体ぶった。
「おぉ、何んだ??教えてくれ??」
ドラキュラの目はキラキラしていた。
「早く言いなさいよ!!」
ムーンがしびれを切らしていた。
「実は・・・」
ゴクリ・・・
殺伐とした自然が目の前に広がる中、何とも生々しい人間の固唾を飲む音が鮮明に聞こえた。
「幽霊を見たのです!!」
『・・・・・・・・』
ドラキュラ以外の全員の目が点になった。
「はぁ・・・・・」
ニニはため息までつくしまつ。
「何かと思えば・・・」
ムーンも呆れていた。
「みんなすまんな・・・。俺が見張りたちの労働時間にまで配慮が行き届いていなかったせいだ。無理な労働をさせていたんだな・・・幻覚が見えてしまうほどに疲れていたとは・・・」
シナは兵士たちの労働時間や職場環境を直すために、本気で家出を少し自粛しようと考えた。
「やっぱり誰も信じてくれませんよね・・・でも、この目でハッキリ見たんです!!本当なんですよ!!信じてくださいよ!!」
切り出した時の控えめな見張りはどこへやら、一度口に出したことでタガが外れたのか、見張りは幽霊話を信じて欲しいという気持ちに駆られ始めたのである。
「あれは今日みたいに良く晴れた日のことでした・・・」
見張りは急に目を閉じて自分の世界に入り始めた。
『うわぁ〜〜〜、始まっちゃったよ・・・』
と思いながら、ニニたちは見張りの話に渋々耳を傾けた。
「その日の私は見張りをしていました・・・」
"その日も"だろ!!
と、全員が心の中で突っ込んだことを見張りは知る由もない。
「するとどこからともなく、"クスン、クスン"とすすり泣く声が聞こえてきたのです。私は声のする方をよく見ました。すると子供がうずくまって泣いているじゃありませんか??」
ゴクリ・・・
先ほどよりも少し小さいが固唾を飲み込む音が聞こえた。
ニニたちは少しずつ見張りの話に集中し始めていた。
「ちょうどあの辺りです!!」
そう言って見張りは柵に沿った右側を指差した。
指の角度からすると距離的に1kmほどあるようだった。
「こんな危ない場所に子供が一人でいるのは危険過ぎます!!私はその子を保護しようと思って、その子の元へ歩み寄りました・・・すると・・・」
ゴクリ・・・
先ほどよりも大きな固唾を飲み込む音が聞こえた。
最早、見張りの幽霊話をバカにする者はいなかった。
「消えたのです。跡形もなく・・・」
『!!!!!!!』
ニニとムーンとツシカとシナは顔を見合わせるようにして驚いた。
良いお客さんである。
「それ以来、幽霊は見ていません!!ただ、あの時の恐怖は今でもしっかり覚えています」
見張りは自分の震える二の腕を反対の手でさすり始めた。
「なるほど・・・では、その場所まで一度行ってみようじゃないか!!」
ドラキュラの誘いに賛同する者はいなかった。
「何だお前たち・・・???」
ドラキュラはみんながどうして自分について来ないのかがわからなかった。
「私は遠慮しておきます・・・」
「私も・・・」
ニニとムーンがハッキリと断った。
「お・・・お・・・俺もいいかな・・・???」
シナも声を震わせながら言った。
「そうか・・・。みんなこれから3日かけてチヨ婆に会いに行くから、体力を温存したいということか・・・。なんて先を見据えた頼もしい仲間たちなんだ。では、俺がチラッと見てくるとしよう!!!」
そう言ってドラキュラは幽霊がいたという場所までテクテクと歩いて行った。
「な・・・なんだか・・・良いように勘違いしてくれたような気がしないでもないですが・・・???」
「ドラキュラの場合、本気でそう考えているからね。あぁなるとこっちとしては罪悪感が出てくんのよ・・・」
「なるほど・・・天然の強みか・・・」
ニニとムーンとシナがドラキュラの背中を見ながら聞こえない反省のようなものを語った。
「では、私が後を追って見てきますよ!!」
周りの返答も聞かずにツシカがドラキュラを追って行った。
ふと見るとドラキュラは立ち止まっていた。
すでに目的の地点に到着していたからである。
「どうですか??何かわかりましたか??」
数十秒遅れて合流したツシカがドラキュラに尋ねた。
「あぁ・・・どうやら思った通りのようだ。見てみろ!!」
ドラキュラは草の生い茂る地面を指差した。
そこは見張りが言っていた、幽霊が泣いていたという場所であった。
「黒くなってますね・・・??」
ツシカの言う通り、ドラキュラの指差した場所だけが黒くなっていたのである。
「そう。焦げているんだ・・・」
ドラキュラは自信満々の笑みを浮かべて言った。
「焦げている・・・??火・・・??」
と呟いた時点でツシカも気がついた。
「そう。ポロ・アチチだ!!」
ツシカはハッとした。




