第47話 シナ
「すまん。回覧板とは何だ???」
「おぉ!!!回覧板がわからんか???流石はバーツさんの孫!!!大切に育てられたのだな・・・」
ガサ王の言葉は皮肉にも聞こえそうだが、本人に全くその気はない。
それよりも回覧板を知らないほど、俗世としっかりと分けられた環境で育てられてきた。
それを嬉しく思っていた。
何故なら、ガサ王は噂でドラキュラが感情を無くしてしまったことを聞いていたからである。
「で、この回覧板をどうすればいいのだ???」
「第二ガサ王国にいる、チヨ婆に届けてくれんかの・・・」
そう言いながら、ガサ王は何かを回覧板に書き込んでいた。
チラチラこちらを見ながら、何かを書き込んでいる。
俺たちに見られるとまずい情報なのだろうか・・・???
ガサ王の様子が気になるドラキュラであった。
「チヨ婆???」
「そうだ、あの第二ガサ王国の治安を守る最強の戦士チヨ婆!!!・・・と言っても、あそこには人がおらんからのぉ、植物などを管理しておる者と言った方があっておるかもしれん」
「チヨ婆か・・・俺も一緒に着いていっていいか???」
パンジーがドラキュラにお願いをした。
「何を言っているパンジー!!!もとよりそのつもりだ!!!」
一瞬ヒヤッとした表情を浮かべたのち、パンジーは笑顔になった。
「何じゃ???そのパンジーというのは???」
ガサ王が不思議そうな顔でドラキュラに尋ねる。
「おいおいおいおい、いくら中々会わないからって、自分の息子の名前を忘れたんじゃねぇだろうな!!!」
「ち・・・ちが・・・」
慌ててドラキュラの言葉をかき消そうとするパンジー。
しかし、時は既に遅かった。
「ぷぷぷぷ、どうしたパンジー???そんなに焦って」
まるで子供のような笑みを浮かべてガサ王がパンジーに言った。
その言い方は、わざとらしいほどに芝居掛かっていて、明らかにパンジーをからかっているのがわかった。
「やめろ親父!!!」
「ふん!!!自分の本名も名乗れんようなヤツが親に偉そうな態度をとりおって!!!」
先ほどの表情からは一変。
今度は悪さをした子供を叱る時のように、厳しい顔をしたガサ王がいた。
「本名・・・???」
ニニが思わず尋ねる。
「こいつの名はシナ。パンジーなどと言う名前ではない!!!」
「まさか名前まで偽っていたなんて・・・」
ムーンの軽蔑するような目がパンジー・・・もとい、シナに突き刺さった。
「正体を隠すために偽名を使っていたんじゃない!!俺はこの名前が嫌いなんだ!!どうして第二ガサ王国で不幸を呼ぶ木と呼ばれている"シナ"と同じ名前なんだよ・・・。親としての神経疑うぜ!!」
「それは本当なのか???」
その話を聞いて、ドラキュラも流石にシナのことが不憫に思えた。
「それはなぁ・・・」
「いいよ、いいよ。どうせ俺が産まれたせいで母さんが命を落としてしまったから、その腹いせにこんな名前つけたんだろ!!俺だって物心ついてからは少しずつ責任感じ始めてんだ・・・それでもさ、こんな名前つけなくても・・・」
シナは俯いた。
だから表情を確認出来ないが、声が少しだけ震えているように聞こえた。
「ま・・・まぁ・・・、私たちも時間があまりないことですし、そろそろ行きましょうか??」
ニニが取り繕うようにして言った。
「そ・・・そうね。ポロ・アチチのことも心配だしね。はは・・・ははは・・・」
ムーンも無理やり笑顔を作って誤魔化した。
"これ以上、この場にいたくねぇ〜"
それがニニとムーンの本音だった。
「すまんな。色々と頼む・・・」
ガサ王が深々と頭を下げた。
「構わん!!迷惑を掛けられることには慣れている。何と言っても俺は処刑人だからな!!」
「助かる・・・」
そう言ってガサ王はスグに俯いたままのシナに目をやった。
父だな
その様子を見たドラキュラは、改めてガサ王を信じることにした。
「では行くぞ!!!」
ドラキュラがシナの肩を叩いた。
シナはそれから一度もガサ王に顔を向けずに王の間を出ていった。
帰り際、ドラキュラはガサ王に近寄り何やらコソコソと話をした。
ニニだけがそのことに気がついていた。
途中でガサ王が首を横に振るのが見え、その後、会話はスグに終わった。
何事もなかったかのようにドラキュラはみんなと合流し、王の間を出ていった。
「もうスグ着きますよ!!」
ガサ王が手配してくれた馬車に乗り、あっという間にドラキュラ一行は第二ガサ王国の入り口にまで来ていた。
結局、あれからシナは何も話さなかった。
馬車の中には重たい空気が流れていた。
"こんな時、ドラキュラっていつも突拍子もないこと言って空気を変えるじゃない??"
"でも、今回は何も言いませんでしたね??ドラキュラさまも今回ばかりは何も言えなかったのでしょうか??"
"まぁ、不幸の木と同じ名前を付けられた子供に対して、どんなフォローをすれば良いのかなんて経験ないでしょうし・・・??しょうがないわよね"
なんて会話が馬車内でコソコソと行われているくらいだった。
第二ガサ王国とガサ王国とは大きな柵で区切られていた。
どちらもガサ王国に変わりはないのだが、まるで違う国だと言わんばかりに区切られている。
時折、風が吹いては落ち葉が柵に触れる。
その度に落ち葉が焦げて落ちていった。
どうやら柵には電流が流れているらしい。
ドラキュラ、ニニ、ムーン、ツシカ、全員がそのことに気がついた。
その柵の真ん中辺りが入り口なのだろう。
そこには小さな小屋が立っており、入口のようなものが見える。
見張りのような男も確認出来た。
「坊っちゃま!!」
その男がシナを見つけて声を掛けてきた。
「・・・・・」
軽く挨拶をしたように聞こえたが、何せ声が小さくて見張りはおろか、ドラキュラたちにさえハッキリと聞こえなかった。
"しょうがないわね"とでも言いたげにムーンはシナを見た。
「お前は気づいているのか??」
「えっ・・・??」
とっさにドラキュラに話しかけられ、シナはほんの少しだけ声が大きくなった。
「この男もそうだが、城にいた兵士たちもそうだ。みんなお前のことを"シナ坊っちゃま"ではなく"坊っちゃま"と呼んでいることに!!」
「!!!!!」
ドラキュラの言葉にシナはハッとした。
「みんなお前が自分の名前に嫌悪感を持っていることを知っているのだ。そして配慮してくれているのだ!!それなのにお前は何だ???お前は王子として、このまま何も応えないつもりか??」
ドラキュラの言葉でシナは今まで気づかなかった優しさに気づいた。
その気づきがシナの表情を柔らかくした。
シナの顔に正気が戻っていくのが分かった。
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
シナは両手で自分の頬を叩いて気合を入れた。
「悪い、迷惑掛けた!!もう大丈夫だ!!」
ホッとしたドラキュラたちの表情もまた、柔らかくなった。




