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第44話 終わった

「ちょっと待って、吸血って人間にしか効果を発揮しないんじゃないの???」

 ドラキュラの行動に驚きを隠せないムーンであった。


「それは私も思っていました。一体、ドラキュラさまは何を考えているのやら・・・」

 ニニも何が何だかわからない様子だった。


「私も人にしか使えない技なのだとばかり思っていましたが・・・。どうしたのでしょう??まさか血迷ったなんてことはないと思うのですが・・・」

 ツシカは本当に心配しているように言った。


「まぁまぁ、自分の技のことは自分が一番分かっているいるだろうから、ここはあいつに任せてみようじゃねぇの!!!」

 パンジーの発言は、一瞬するとドラキュラを信じた言葉のように思える。

 しかし、ニニやムーンたちは、パンジーが"これ以上このことについて話しても不毛だ"と割り切って発言したように思えた。

 実際、そうであった。

 パンジーは、大きな考えがあるから言ったのではない。

 ただ単に楽観的な性格なのだ。

 今回に限らず、あまり難しく考えて発言のない性格なのである。


「いや、でもメジは元は人間だったんでしょ???だったら、吸血が可能なんじゃない???」

 ムーンが興味深い発言をした。


「確かに・・・。ムーンの意見も一理ありますね。だからドラキュラさまは吸血を使った・・・のか・・・」

 しかし、ニニにはムーンの予想があまりピンと来ていないようだった。


 ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 仲間たちの井戸端会議など気にせず、ドラキュラはメジの人で言うところの首筋あたりに噛みつき、吸血を続けていた。


「いや、それよりも、確か吸血って吸った相手の命を奪ってしまうんじゃなかったっけ???」


『!!!!!』

 ニニは思い出したかのようにハッと驚き、ツシカとパンジーは"そうだったの??"と言いそうなほど驚きの顔を見せた。


「ヤバイって!!!マジでヤバイって!!!」

 パンジーは慌てふためいた。

 しかし、その様子が何だか怪しい。

 メジの命を心配しているというよりも、何か別のことについて心配しているような雰囲気を醸し出していたからである。


「パンジーさんの言う通り、このままだとメジさんの命がヤバいですね」


「えっ???」

 パンジーは思わずニニの発言に反応した。

 自分の"ヤバイ"が、意図していない形に伝わっていたためである。

 しかし、パンジーは自分がヤバイと感じていることをあまり悟られたくなかった。

 そのため、この勢いに乗って誤魔化すことを考え、ニニに便乗した。


「そうそうそうそう!!!このままだとメジの命がヤバいって!!!みんなでどうかしねぇと・・・」

 さっきまでドラキュラを信じようと話していた者が、今度はみんなでどうかしようと言っている。

 その様子をムーンはゴミムシでも見るかのような目つきで見つめていた。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 メジの断末魔が響き渡る。


「メジィィィィィィ!!!みなさん、メジは大丈夫なのでしょうか???ドラキュラさまは本当にメジを救ってくださるのでしょうか???」


『・・・・・』

 全員がメジの問いかけに黙り込んでしまった。


「どうして???メジを救ってくれるのではなかったのですか???」


「正直、もうあなたの息子さんは精神を植物に乗っ取られています。これではもう・・・」


「助からない・・・???」


「・・・・・」

 ニニは何も言わなかった。

 それが"あなたの言う通りです"という返事になっていた。

 メグの頬を粒のように溢れていた涙が、線のようになった。


「メジィィィィィィ!!!」

 ニニたちの言葉を聞く前から薄々気がついていた気持ちを振り払うように、メグはメジを大声で呼んだ。

 一縷の望みよりも希釈された希望を何度も何度も噛み締めながら。


 ジュゥゥゥ・・・、ゥゥゥゥゥ・・・、ジュッ・・・、ジュゥゥゥ・・・。

 残り少ないジュースを飲み干す時のような音が響いた。

 それは吸血し終わった音だった。


 ドサッ・・・・・

 メジはまるで地面に吸い込まれるかのように崩れながら倒れた。


「イヤァァァァァァァァァァ!!!!!」

 目の前の光景に絶望の声を上げ、誰よりも早くメグはメジの元へと走って行った。


「はぁぁぁぁぁ」

 吸血し終わった余韻に浸りながら、口の周りを舌でペロリとして、ドラキュラは天を仰いだ。


「メジィィィィィィ!!!」

 動く様子のない我が子へとメグは駆け寄った。


「終わったぞ!!!」

 ドラキュラの言葉にメグは瞬時に反応した。

 そして我が子をこんな姿にした張本人を鋭い眼光で睨んだ。


「どうしてこんなことに・・・」

 声を震わせながら、それでも理由を聞きたくてドラキュラに問いかけた。


「何を今更・・・。お前が俺に言ったのだろう!!!」


「私はここまでしてくれとは言っていません!!!」

 全ての苛立ちが声帯を押し上げたかのような力強い声だった。


「救いたかったのではないのか・・・???」

 ドラキュラはドラキュラで、メジが当初の依頼とは違うことを言っているように思えて、若干の苛立ちを見せていた。


「これをどう見れば救ったと言えるのですか???」


「どうもこうも、このままを見れば言えるだろうが!!!さっきから何なのだ、お前は???」

 ドラキュラはメグに感謝をされるとばかり思っていた。

 しかし、目の前のメグは激昂している。

 理解の追いつかない・・・。

 人間の感情というのは複雑なのだとドラキュラは改めて感じていた。


「だって・・・、メジが・・・、メジが・・・」

 メグは倒れたメジを抱き抱え泣き続けた。


「ドラキュラさまぁぁぁ!!!」

 遅れてニニたちもドラキュラの元へと駆けつけた。


「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

 何も言わずに目の前の光景を見つめる一行。


「ドラキュラさま・・・。どうしてこうなる前に相談してくれなかったのですか??」

 思わずニニが問いかけた。


「だから、何を相談する必要があったのだ???」

 ドラキュラは"お前もか??"と言いたげに反論した。


「見損なったわよ!!!無理なら無理って言ってくれればよかったのに・・・???」

 ムーンも悲しそうな表情でドラキュラに噛み付いた。


「え???え???え???」

 ドラキュラの目が点になった。

 しかし、それに誰も気が付かない。


「ドラキュラさま、今回ばかりはみんなの言う通りです!!!」


「はぁ???お前もか、ツシカ???」


「ドラキュラ・・・、やってくれたな・・・」


「・・・・・」

 "お前は大丈夫"

 そう思ったドラキュラはパンジーに何も言い返さなかった。


「ドラキュラさまにも出来ないことがあるのですね???」


「だから、出来ないことってなんだ???」


「この後に及んでしらばっくれる気ですか???もう良いです!!!ハッキリと言わせていただきます!!!メジを助けることが出来なかった。私たちはそのことを言っているのです。あまり口にはしたくないですよ、こんな悲しいこと。それぐらい察してくださいよ・・・」

 尊敬していた人物の失敗を目の当たりにして、さらにはそのことを誤魔化そうとする姿を見て、ニニは幻滅していた。


「だから救ったって言ってるだろうが!!!」


「これのどこが救ったと言えるのですか!!!見てください・・・」

 ニニは捲し立てるように言い続けた。

 その最中である・・・。


「うぅぅぅん・・・」

 何とメジが目を覚ましたのである。


「あれっ???ここはどこ・・・???僕の家・・・???」

 何だか先ほどまでとは様子が違い、口調も穏やかである。


「えっ・・・???起きた・・・???」

 ニニは目をパチクリさせた。


「母さん、どうしたの・・・???」

 母が自分を抱き抱えていることに驚いたメジが言った。


「メジ・・・???」

 驚きすぎてメグの涙が止まった。


「何で・・・???生きてる・・・???」

 ニニはまだ混乱している。


「生きているぞ!!!さっきから俺はそう言っていただろ・・・」


「いや、救ったって言ったから、命を奪うことで安らかに眠らせて・・・、それを救ったみたいな言い方して・・・、なんて思ってて・・・」

 ニニは自分が取り返しのつかないことを言ってしまったことに気がつき始めた。


「俺はしっかり救ったと言った・・・。それなのにお前はウジウジウジウジ意味のわからんことを口走って俺に噛み付いてきて・・・」

 

 パキパキポキポキ・・・


 ドラキュラが腕の骨を鳴らしながらニニに近づいてきた。

 腹の虫が治らないからである。


「は・・・、ははは・・・、はは・・・、私は信じて・・・、いましたけどね・・・」

 先ほどまでのメジのような歯切れの悪さである。


「ほう・・・。お前は信じている者に対して、あんなに無礼な言葉を浴びせるのか???」

 はらわたの煮えくりかえったドラキュラがジリジリと近づいてくる。


「はは・・・、ははは・・・」

 ニニに弁解の余地はなかった。

 そして、ドラキュラはニニの目の前に立った。

 ニニはドラキュラの怒りが収まらないことを察した。


「終わった・・・」

 ニニは悟りを開いたかのような清々しい顔をして目を瞑った。


 ゴッチーーーーーンンン!!!

 ドラキュラのゲンコツ音が町中に響いた。

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