第40話 初体験
「あんた、どこでもどんな人からも絡まれるのね???」
実際はパンジーが絡まれているわけだが、ムーンにはそうは映っていなかった。
正確に言うと、ムーンの中に今絡まれているのがパンジーだという認識はある。
しかし、そんなパンジーに絡んでくる人を呼び寄せたのはドラキュラに原因がある。
と、思考が流れ言葉が出たのだった。
「やれやれ・・・」
ドラキュラはこめかみをポリポリかいた。
ドラキュラはこう見えて静かが好きなのだ。
それは感情を取り戻す前からそうだった。
感情を取り戻してからも、そこに変わりはなかった。
ムーンに言われるまでもなくドラキュラ自身が思っていた。
こういった状況が次から次へと起こってしまうことに飽き飽きしていた。
「何だてめぇら・・・???パンジーの連れか???」
ドラキュラやムーンのうんざりした様子が顔から漏れていたのであろう、屈強そうな男たちのリーダーらしき人物が荒々しく話しかけて来た。
が・・・。
「わぁぁぁぁぁぁ・・・、っとっとっと・・・」
ピリついた空気を和らげようとしたのか、パンジーが声を上げながら両手をバタバタさせて男たちへと近づいていった。
そして、何やらゴニョゴニョと話し始めた。
1分〜2分が経った頃・・・。
「まぁ、そう言うことならしょうがねぇ、また今度だな!!!」
先ほどまで血気盛んだった男たちがすんなりと帰っていったのである。
「いやぁ〜、すまんすまん!!!あいつら俺の友人でさぁ、今日遊ぶ約束をしてたんだけど・・・。俺がすっかり忘れちゃって・・・。あいつらには本当に悪いことしたよ。でも、今事情を話したらわかってくれたよ・・・。ってなわけだから、町案内再開といこうぜ!!!」
パンジーは一方的に話して終わらせた。
それ以上詮索してくれるなとでも言いたげな様子をフットワークの軽い言葉にまとわせて。
今のパンジーの話は内容が分かりやすく話の筋も通っていた。
しかし、全体的に言いようのない違和感があり、どことなく腑に落ちない。
結果、ニニとムーンはパンジーに対して再び一抹の不安を感じ始めたのだった。
「さっ!!次はどこ行きたい??」
それからいくつかの店を回ったが、パンジーへの不安が和らぐことはなかった。
「一通り回りましたね」
ニニは満足げに言った。
その幸福感はパンジーへの不安とは別腹だった。
「ガサ城の城下町って広いですねぇ・・・」
ツシカはニニとムーンのペースに巻き込まれて町中を歩き回ったため、ヘトヘトになっていた。
「ガサ王国は隣国と比べても面積が広いからなぁ。俺にとっちゃ慣れっこなんだけど・・・。確かに観光で来た人たちにとっては大変だったかもな」
"体力あるんですよマウント"でも取るような口ぶりでパンジーが言った。
「じゃあ、最後にお城を案内してもらいましょうよ!!!」
「えっ・・・???」
全く想像していなかった言葉を聞き、それが何かしら都合が悪く、つい素の真面目な部分が出てしまった。
そんな感じの"えっ・・・???"だった。
そのパンジーの表情の一瞬の曇りをドラキュラは見逃さなかった。
「案内してくれると言ったのはそっちだぞ!!城下町だけとは言っていなかったはずだが・・・???」
自分でも意地悪なことを言っているなと自覚しながら、ドラキュラがパンジーの逃げ場を無くすように言った。
「うぅぅぅ〜〜〜んんん・・・」
パンジーは真剣に悩み始めた。
その様子がそのまま"何かを隠している"ことの裏付けになった。
「お城の前までなら・・・」
パンジーの声が先ほどまでとは打って変わって、聞き取れないほどの小声になった。
「何か問題でもあるのですか??」
ニニが直球を投げた。
「いやぁ・・・、問題というか・・・」
歯切れが悪いパンジーを見て、ムーンが苛立ちを見せた。
「はっきり言いなさいよ!!」
突然の大声にパンジーは一瞬ビクッとなった。
「わかったよ!!連れて行けばいいんだろ!!ただし、連れて行くだけだからな!!俺は中には入らねぇからな!!」
「何言ってんのよ!!そもそもあんたみたいなチャラい男がお城の中に入れるわけないでしょ!!お城まで案内してくれるだけで十分よ!!」
"だったら向こうに見えているお城を目指して行けよ。そうすれば勝手に着くんだから!!"
遠くに厳かにそびえ立つお城を眺めながらパンジーは思った。
しかし、ムーンの迫力に押され、口にするまでは出来なかった。
それでもこのままがなんだか嫌になったパンジーは少しだけ勇気を出して言い返してみた。
「じゃあ、あんたらだったら中に入れるっていうのかよ??」
「あんたこの男を知らないの・・・??」
ムーンはドラキュラを指差した。
「????」
パンジーはピンと来ていないようだった。
「聞いて驚きなさい!!!この男こそ、ギルティ王国最強の処刑人、ドラキュラその人よ!!!」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
パンジーは周りの人々が振り返るほどの大声を上げた。
「あ・・・、あ・・・、あんたあのドラキュラだったのか・・・???」
つま先から頭のてっぺんまで目でなぞりながらパンジーが聞いた。
「ほう、俺を知っているのか??」
ドラキュラはまんざらでもないようだった。
その証拠に、顔をポリポリするなどの分かりやすい照れが見られた。
「知ってるも何も・・・、この国で・・・、いや、隣国を含めてもあんたの名前を知らない人なんていないと思うぞ!!!」
「へぇ〜、そんなに有名なんですね」
ドラキュラの凄さをしっかり知っている者がいる。
それがニニにとってとても嬉しかった。
「毎回、毎回、何かある度に再認識するんだけれど、やっぱりあんたって凄い人なのね・・・」
ムーンもドラキュラの知名度が高いことに喜びを感じていた。
「ドラキュラさん凄いですね・・・」
パンジーも驚いていた。
「どうやらそのようだな・・・」
やはりドラキュラはまんざらでもないようだった。
今にも胸を張ってふんぞりかえりそうだった。
「そりゃあもう・・・、子供たちが親の言うことを聞かなければスグに言うくらいですからね・・・、"いい子にしてないとドラキュラが血を吸いにくるぞ"って・・・」
「えっ・・・???」
はっきり聞こえたのだがニニは聞き返した。
「まるでモンスターね・・・」
そう言っている途中でおかしくなってしまい、ムーンは笑った。
「それで子供が言うことを聞いて、良い子になるのであれば俺はそれで構わんがな!!」
ドラキュラは言い切った。
そこに悲しさや虚しさなどは一瞬もなかった。
「あのぉ・・・」
ドラキュラの言葉に感心しているのも束の間、突然、女が話しかけてきた。
「どうしましたか??」
こう言う時は大体ニニが聞き返す役目だった。
というよりも気になってスグに質問してしまうのだった。
「今お話を聞いていたら、ドラキュラという名前が聞こえたのですが、あなたさまは本当にあのドラキュラさまなのですか??」
ドラキュラたちは顔を見合わせた。
「いかにも・・・、それがどうした??」
「お願いがあるのです!!どうか私の子供を驚かせていただけないでしょうか??」
「はい・・・???」
ドラキュラは生まれて初めての依頼をされた。




