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第37話 地破鳥

「大体、何でお前は死神なんて呼ばれているんだ??」

 ドラキュラが死神に直球で聞いた。


「兄ちゃん、だから俺がさっき言っただろ!!!そいつの馬車に乗って命を落としたヤツがたくさんいるんだ!!それで、いつしか死神と呼ばれるようになったんだ・・・って、ひぃぃぃ!!!」

 商売人の一人が話半ばで止め、急に驚きの声を上げた。

 ドラキュラがあまりにも鋭い眼光で自分を睨んだからである。

 それもそのはず、ドラキュラはこの男ではなく死神に質問をしたのだ。

 さらには、先ほどしっかりと話す事ができたのだから、これを繰り返せば伝わる声量で話せるようになるかもしれないと死神の成長にまで配慮をしていたのだ。

 それをこの男がズケズケと土足で入ってきたのである。

 気づけばドラキュラは、"お前は黙ってろ!!!"と言わんばかりの鋭い眼光で男を睨んでいた。

 その迫力は男の周りにいた者たちをも黙らせた。

 辺りは静まり返った。

 すると立ったままのニニたちにも幾分か死神の声が聞こえるようになった。


「私はもともと喉が弱く大きな声が出せません。乗客に危険が迫っている時に必死に声を上げても、馬の蹄の音や馬車の揺れる音にかき消されてしまうほどです。結果、私の馬車を利用した方が命を落とすという出来事がたくさん起きたのです・・・」


「何故、そんなことがあるのに馬車を使った商売を続けている???」


「それは、この馬車が父から譲り受けたものだからです・・・。父は元々馬車の運転手をして私たち家族を養ってくれていました。決して運賃は安くないが、親切で丁寧で運転が上手い。現役時代は名の知れた運転手だったと聞きます。しかし、それが同業者たちにとっては面白くなかったのでしょう。奴らは賊を雇い、父の馬車に普通の乗客を装わせて乗せました。そして人気のない道を通って目的地へ向かうよう指示し、タイミングを見計らって刃物で父に襲い掛かったのです。何とか一命は取り止めましたが、人気のない道だったため発見が遅れ、十分な治療が出来ず、父は寝たきりを余儀なくされたました・・・」

 死神の声が少しずつ震えていくのが分かった。

 ムーンは口を手で覆いながら潤んだ瞳で死神の話を聞いていた。

 涙を零さないのは死神がまだ涙を零していないからだった。


「それでも父は馬車を運転することを諦めませんでした。自分の力では立つことすら出来ないのに、それでも馬車に乗ろうとする父の姿を見て、私が父の代わりにこの馬車を運転しようと思ったのです。しかし、私はこの仕事をするにはあまりにも声が小さかった。ハッキリ言って向いていないのです。それでも父が大切にしていたこの仕事をここで終わらせたくなかった。そんなわがままに背中を押してもらって今の自分がいます」

 静まり返った空気に、死神の声が染み渡るようにみんなの耳に届いた。

 今静かなのはドラキュラが睨みを効かした効果が持続しているからではない。

 死神の小さな、でも力強い言葉がみんなの心を惹きつけていたからである。


「父のため・・・か・・・」

 ツシカがボソリと言った。

 それは、こんな幼い少女が自分が先日学んだばかりの"誰かを守るために頑張る"ということが出来ている事に驚いたのと、こんな幼い少女でさえ出来ていることを今まで出来ていなかった自分を情けなく思ったからだった。

 そして、心の底からそう言える死神を羨ましく思った。

 "同じ言葉を言えたとしても、自分は一生そこに気持ちを乗せることは出来ないだろう・・・"

 ツシカの胸にチクリと痛みが走った。


「少女よ気に入った!!ガサ城まで案内頼む!!!」

 ドラキュラの判断に周りがどよめいた。

 しかし、ニニもムーンもツシカも全く動揺していない。

 むしろ死神本人が動揺しているように見えた。

 もちろん、自分の馬車を選んでくれたことは嬉しい。

 しかし、それと同時にこの人たちに何かあった時に自分は声を上げてしっかり力になることが出来るのだろうかと不安で仕方なかったのだ。


「俺たちに何かあったらと思うと不安か・・・???」

 ドラキュラの問いに死神はコクリとうなずいた。


「安心しろ!!!道中、どんな危険がやって来ても俺が命を落とすことなどあり得ない!!!」

 一寸の迷いもない、真っ直ぐな瞳で語るドラキュラを見て死神は驚いていた。

 しかし、そんなドラキュラの態度についての考察は、すぐさま自己解決となる。

 "この人たちはガサ王国に来たことが無いのだ。だからこんな悠長なことを平気で言えるのだ・・・"と。


「そのセリフだけ聞くと相当痛いヤツね!!」


「ムーン!!!失礼なことを言わないでください!!!ドラキュラさまは過信などしていません!!ごくごく当たり前のことを言っただけです!!!」


「はいはい・・・、わかりましたよ!!!私が悪ぅございました・・・」


「全然反省してないですよね???」


「しつこいわね、反省してるって言ってるでしょ!!!」

 そんなニニとムーンのやりとりもまた、死神の目には緊張感の無い者たちとして映った。

 この国を舐めている一行。

 しかし、自分の力になってくれた優しい人たち。

 

 "私がしっかりしなくちゃ・・・"

 

 ドラキュラたちの知らないところで一人の少女が覚悟を決めた。

 その時である、一瞬にして当たりが雲に覆われたかのように暗くなった。

 そして・・・。


「キィィィィィィエェェェェェェ!!!」

 少女の決心に水を刺すように、断末魔にも似た鳴き声が辺りに響いたのである。

 その声は空から聞こえていた。

 空を見ると不気味な目をした鳥がドラキュラたちを見下していた。

 その大きさは10mはゆうに超えている。

 羽ばたく度に突風が起こり、商人たちは吹き飛ばされそうになった。


「ひ・・・、ひ・・・、ひぃぃぃえぇぇ!!!出たぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ヤベェェェぞ!!!みんな逃げろぉぉぉ!!!」


「やっぱり、この女は死神だぁぁぁ!!!死神が地破鳥(じはちょう)を呼んだんだぁぁぁ!!!」

 空を見上げた商人たちは情けない悲鳴を上げながら自分たちの馬車へと走り始めた。


「ジハチョウ・・・???」

 ニニが死神に質問するように言った


「あ・・・、あ・・・、現れてしまった・・・」

 死神はニニの質問に答えている余裕はなく、ただ迫り来る絶望に声を漏らしていた。

 しかし、轟音と悲鳴が響く中ではその声は誰にも聞かれる事がなかった。


「兄ちゃんたちも逃げろ!!!あいつは地破鳥(じはちょう)って言ってな、空飛ぶ厄災なんて呼ばれているくらいヤバいヤツなんだ!!!畑から馬車馬までお構いなしに喰っちまう!!!食糧を手に入れるためなら、人間にでも平気で危害を及ぼす・・・。ここにいたらあんたらも襲われちまうぞ!!!」

 ドラキュラたちは、ここに来て商売人から本物の親切をいただいた。


 グイッ!!!

 声が届かないと諦めた死神はドラキュラの袖を引っ張り、どうにか力づくで連れて行こうとした。


「ギィィィエェェェェェェ!!!」

 死神の力では全く動かないドラキュラに向かって、地破鳥が一直線に向かって来た。

 そのスピードに死神は焦りと恐怖を感じた。

 それでも・・・。


 ググググググ・・・。

 死神はドラキュラを助けようと引っ張る。

 しかし、それはただただ自分の体力を消耗するだけに終わっていった。


「もうダメだ・・・」

 死神が諦めた声さえ誰にも届きはしなかった。

 これで自分が命を落としたのなら、"最後の言葉は誰にも聞いてもらえなかった"ということになる。

 それがさらに悲しくさせた。

 あっという間に地破鳥は頭上3mにまで迫っていた。

 "あと一秒にも満たない内に人生が終わる"

 死神はそう思った。

 走馬灯が見え始めた・・・のだが、それよりも遥かに早くドラキュラの拳が死神の目の前を横切っていった。


「さっきから、ギャアギャアうるっせぇんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 ボグオッシャァァァァァァ!!!!!!

 地破鳥の顔面をドラキュラの拳が綺麗に捉えた。

 そのまま地破鳥はドラキュラたちが降りて来た山の壁に叩きつけられた。

 あまりの衝撃に地破鳥は気絶した。


「あ・・・、あ・・・、あああ・・・」

 死神は口をパクパクさせていた。

 数秒前まで諦めていた人生がまだしっかりと続いていた。

 見納めと思って焼き付けていた何の変哲もない景色が、何の変哲もないまま、まだしっかりと目の前に広がっていた。


「何をしている・・・???早く行くぞ!!連れていってくれ、ガサ城へ・・・」


「・・・」

 死神はまだ目の前の景色が信じられないでいた。

 地破鳥にやられる人は見たことがあったが、地破鳥が人にやられるところを見たことがなかったからである。

 そもそも"地破鳥がやられる"ということ自体、考えが及ばなかった。

 頭の処理が追いつかず混乱していた。

 しかし、ドラキュラには何故死神が黙ったままなのかが分からなかった。


「!!!」

 とは言え、スグにドラキュラはドラキュラなりに死神がなぜ黙ったままなのかの答えに行き着いた。


「安心しろ!!!俺はいつもは動物を大切にしている・・・」

 ドラキュラは、死神から"動物に暴力を振るうヤバいやつ"と思われ、自分への対応に困り、それで黙っていたのだと考えたのだった。

 "そういうことじゃないんだよなぁ・・・"

 そんなツッコミを心の中でする余裕すら、死神にはなかった。

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