第34話 温泉へ行こう!!
「こ・・・、ここは私にお任せてください。あ・・・、あなたが先ほど言った、"誰かのために力を使う"ということを実践してみようと思います・・・」
その言葉は相変わらずたどたどしかった。
その見た目は相変わらずのままだった。
しかし、その背中は驚くほどドラキュラたちに大きく映った。
「そこまで言うのなら任せるぞ!!!」
ドラキュラは前のめりになった体から重心を移動し、直立の体勢へと滑らかに戻った。
「だ・・・、大丈夫です!!!こんなザコども、い・・・、一瞬ですよ!!!」
ツシカは三人に武器を向けた。
「うっ・・・」
兄者と呼ばれていた男がツシカに向けられた武器を見て怯んでいるのがわかった。
「カラカラカラ!!!冗談きついぜ、あんちゃんよぉぉぉ〜、それ本気で言ってんのかぁぁぁ???だったらこっちも本気で行っちゃうぞぉぉぉ!!!」
「以下同文だぞぉぉぉ!!!」
二人も一瞬怯んだのだが、すぐに切り替えてツシカに挑発を仕返した。
そんな二人を見て兄者もスグに調子を取り戻した。
「オラオラオラ!!!だったら、まずはお前から消してやるよぉぉぉ!!後悔しても知らねぇからなぁぁぁ!!!」
「カラカラカラ!!!俺たちにケンカ売ったこと、あの世で後悔しやがれぇぇぇ!!!」
「キラキラキラ!!!以下同文んんんんんん!!!」
三人が一斉にツシカに襲いかかってきた。
一人一人がツシカの2倍以上の体格の持ち主であった。
ツシカが何者かを知らないギャラリーたちは、ツシカの命がここで終わるのだと思った。
悲鳴を上げる者から、両手を合わせ祈りを捧げる者まで、色んな人がいたが、ツシカの勝利を確信している者はいなかった。
ただ三人を除いては。
「ツシカさんが持っているあの武器なんでしょうね・・・???」
ニニはツシカの握りしめた武器に興味津々だった。
「あれは銃だな・・・」
新しい物好き、初めて見る物好きのドラキュラも興味を示していた。
「へぇ〜、銃って言うんだ・・・。私も初めて見たかも・・・」
ドラキュラとニニの熱量に押されるようにして、ムーンもツシカの武器に興味を持ち始めた。
「流石はドラキュラさま!!!よくご存知で。その通り、私の武器は銃です。ただし、撃ち出すのは鉛の弾にあらず!!!例えばこんな風に・・・」
そう言ってツシカはロビーに転がっていたスリッパを3つ手に取った。
「これはどこにでもあるスリッパです。しかし、私の何でも圧縮する能力を使うと・・・」
シュルルルルルル・・・
ツシカの手の上にあったスリッパが、一瞬にして銃弾のような形になった。
チャキ、チャキ、チャキ・・・
ツシカは弾丸サイズになったスリッパを銃につめた。
「これで、普通の銃と同じように使えるわけです!!!こんな風にね・・・」
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
ツシカは襲い掛かる三人に向けて銃を放った。
スリッパは射出された瞬間に元のサイズに戻り、勢いはそのままで一つずつ相手にヒットした。
ガンッ!!ゴンッ!!バンッ!!
「ガハッ!!」「ゴハッ!!」「バハッ!!」
ツシカに飛び掛かろうとしたところでスリッパを食らった三人はそれぞれ後ろにふき飛んだ。
「痛ててて・・・、よくも・・・、よくもやってくれたなぁ・・・、こうなればあれを出すしかない・・・」
そう言って兄者は二人にアイコンタクトを送った。
二人もその合図を受け、うなずいた。
野良山賊三兄弟合体技
阿縷不棄アタァァァッッック!!!
三人が掛け声と共に、勢いよくツシカに襲いかかってきた。
しかし・・・。
「・・・って、これさっきと同じ技じゃね・・・???」
ニニは気づいてしまった。
「確かに・・・、もしかしてさっき技名を言うのを忘れていたんじゃないかしら???」
ムーンは痛いところをついた。
実際にその通りで、ムーンに図星をつかれた三人は、ツシカに飛び掛かろうとしていたにも関わらず、ムーンの方に目をやってしまった。
その瞬間をツシカは見逃さなかった。
「では、さっきよりもちょっと痛いのをお見舞いしますね・・・」
そう言ってツシカは、近くの従業員がお盆に乗せて提供していた温かいお茶の入った湯呑みを三つ圧縮した。
「お茶でも飲んで落ち着きなさい!!!」
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
再びツシカは三人に向けて銃を放った。
実寸に戻った湯呑み(中身入り)が凄まじい勢いで三人に飛んで行く。
バガンッ!!バガンッ!!バガンッ!!
湯呑みはそれぞれ三人の歯を砕き、口の中に突き刺さった。
『ゔぃってぇぇぇぇぇぇ!!!ぼゔぃてゔぁっちぃぃぃ!!!』
(訳:痛ってぇぇぇぇぇぇ!!!そして熱っちぃぃぃ!!!)
痛みに号泣し、暑さに悲鳴を上げ、三人はそのまま旅館を出て行った。
突然現れて、急に去って行った山賊たちに、終始開いた口が塞がらなかったギャラリーたちも、数秒の間が空いた後、ツシカの勝利を認識し、称賛の声を上げた。
「お兄ちゃんすごい!!」
「格好良かったぜ兄ちゃん!!!」
「助かりました!!!」
・・・etc
称賛の声が響く中、旅館の女将がスッとツシカに近づき手を握った。
「当旅館を救っていただき、誠にありがとうございました。御恩をいただいたお客さまからはお金をいただけません!!!今回の宿泊は無料とさせていただきますので、チェックアウトまでどうぞごゆっくりしてください」
女将は深々と頭を下げた。
その様子に恐縮したツシカが慌てふためく様子を見て、ギャラリーからは笑い声が聞こえた。
この二十分近くの出来事が無かったかのように、旅館はまた活気で溢れていった。
「ドラキュラさま、あなたのおかげで、私は初めて誰かのために戦うことが出来ました!!!」
ツシカの顔は憑きものがとれたかのように、晴れ晴れとしていた。
「見事な戦いっぷりだったぞ!!!この調子で行けば一番隊隊長も見えてくるのではないか??」
「だといいんですけどね・・・」
ここでツシカは浮かれたりはしない。
それがまたツシカらしくもあった。
「そんなことより無料よ!!!む・りょ・う!!!お金がいらないのよ!!!最高じゃない!!!これでツシカも人のために頑張ると良い事があるってわかったでしょ???」
「"そんなことより"って・・・、せっかくの良いシーンを台無しにしてくれますねぇ〜。ムーンはちょっと現金なところがありますよ!!!」
「細かいことをいちいち・・・、うるさい男ねぇ!!!」
「な・・・、今のは私が悪いんですか???ちょっとぉ〜、ドラキュラさまからも何か言ってやってくださいよぉ〜???」
「ハハハ。みなさん面白いですねぇ〜」
ツシカがとても楽しそうに笑った。
それは出会って初めて見る、心からの笑いだった。
だからニニもムーンも一瞬言い合いをやめてツシカの方を見てしまった。
そして、二人も同じように笑った。
「では、さっきのお風呂の続きと行こうか???」
「良いですねぇ〜〜〜!!!次こそはゆっくり湯船に浸かりますよぉ〜〜〜!!!」
「もちろんよ!!!美肌♪美肌♪」
ニニとムーンはドラキュラを待たず先に大浴場へと向かい始めた。
「どうだ???一緒に行くか???」
そう言ってドラキュラはツシカに声を掛けた。
ツシカは一瞬驚いた顔をして見せた。
まさか聞いてくると思わなかったからである。
ツシカは知っていた。
ドラキュラの言葉で変わることが出来た自分を。
この人について行けば、もっと自分が変わることが出来るかもしれないと思った。
だから、また一歩踏み出すことが出来た。
「はい!!!」
その言葉を聞いて少し先を歩いていたニニとムーンは足を止めた。
そして振り返り、二人ともニコリと笑った。
四人は大浴場へと向かった。




