第33話 やってくれましたね、ドラキュラさま
それ以上、ツシカに無理強いすることはなかった。
"それじゃあ、私たちは大浴場に行ってきますね??"
ニニの言葉にいなされるようにして、ドラキュラとムーンも大浴場に行った。
どこか吹っ切れたような表情で見送るツシカ。
手を振るツシカは、ニニたちの悪戯がある程度有意義なものであったと言っているように見えて、二人の罪悪感を和らげた。
それでも大浴場に向かう足は重かった。
カッポォォォォォォンンン・・・・・・
風呂桶の音が沈黙に映える。
「はぁ〜〜〜〜、やってしまいましたよ・・・」
ニニは切り替えたつもりでいたが、未だに心が乗らないままだった。
「これに懲りたらイタズラなどしないことだな」
広がった夜空に散らばる星を一つ一つ目で追いながらドラキュラが言った。
「はい・・・」
空返事が夜空に霧散した。
"まったく、困ったヤツだ"と言いたげな瞳で、ドラキュラはチラリと横目でニニを見た。
「それはそうと、このままのペースで明日中にお城に着けるのか??」
「えぇ、その予定です。この山を降りれば馬車などの乗り物が走っているはずです!!何とか捕まえることが出来れば、その時点で明日中に着くことが約束されたようなもの!!勝ち確ってやつです!!」
「わかった。とりあえず下山だな」
「はい。・・・にしてもラッキーですよね・・・???」
「何がだ??」
ドラキュラはニニの言ったことの真意が全く分からずに答えを求めるように聞き返した。
「だって、あんな虫を追ってガサ王国に来たのですから、危険な出来事の一つや二つあってもおかしくないのに、今のところ何もないじゃないですか??」
「ちょ・・・、ちょっとあんた何言ってんの!!!」
女湯で黙ってドラキュラたちの会話を聞いていたムーンが思わず声を上げた。
「えぇぇぇ〜・・・、盗み聞きとは感心しませんねムーン」
「あんたねぇ、そんなこと言っている場合じゃないでしょ!!"何もなかった"なんて口にしちゃったらフラグが立っちゃうじゃない!!!」
「あわわわわわわ・・・、あわわわわわわわ・・・」
ニニはムーンに言われて初めて、自分が大変なことを口走ってしまったことに気がついた。
「フラグ・・・???」
ドラキュラは"フラグ"を知らなかった。
そんなドラキュラのことなどガン無視で会話は続いていく。
「どうすんのよ??明日、私たちがめちゃくちゃ襲われたら???」
その言葉を聞いて、このまま動じていては実際に起こってしまうかもしれないと考えたニニは、毅然とした態度をとってムーンに反論した。
「大丈夫ですよ。心配しないでください。そんなに言うのなら、明日、私が先に行って調査して来ても良いですよ!!どうせフラグがどうとかって迷信なんですから!!!ちょっとそれらしいことを言っただけで、そんな簡単にフラグなんて立つわけないじゃないですか!!」
「ちょっとぉぉぉ!!!なんか、あんたなりに私たちを安心させようとしているみたいだけれど、逆にもっとフラグを立てちゃってんのわかんない???」
「あわわわわわわ・・・、あわわわわわわわ・・・」
ニニはムーンに言われて初めて、自分が大変なことを口走ってしまったことに気がついた。
デジャブのような感覚を感じている暇もないほどに。
「これ絶対何か起こるヤーーーツでしょ!!!」
「もう私は何も言いません!!!」
ニニは口を手で覆った。
「・・・(good)」
ムーンは竹で出来た壁の向こう側にいるニニに向かってグッドポーズをして見せた。
ムーンもこれ以上余計なことを喋らないようにした。
「おいおいおい、フラグとは何だ???全然話が入ってこないぞ・・・???何やら二人で揉めているようだが、俺が聞いているにムーンの方が何だか気にしすぎなように思えるぞ。安心しろ!!そうそう何か起こることなんてないんだから、このまま順調に何事もなくお城まで辿り着けると思うぞ!!ニニが調査に行くのが心配なら、俺が調査に行ってやろう!!なぁ〜に、それでも何も起こりはしないと思うがな・・・」
「お前が立てるんかい!!!」
思わずムーンが突っ込んだ。
すると・・・。
きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!
旅館の中から悲鳴が聞こえてきた。
「言わんこっちゃない!!!」
そう言ってムーンは急いで露天風呂を後にした。
「やってくれましたね、ドラキュラさま!!!」
そう言ってニニも露天風呂から上がり更衣室へと向かった。
露天風呂に入っていた他の人たちも悲鳴を聞き皆お風呂から上がっていった。
「?????」
綺麗な夜空の下、ドラキュラは一人取り残されてしまった。
美肌効果抜群の湯に浸かったまま・・・。
「ドラキュラさま!!何を呑気にお風呂に入っているんですか??あなたのせいでこうなったんですから、あなたがこなくてどうするんですか!!」
ドラキュラを置いて先に上がったニニが服を着て戻ってきた。
「え・・・、俺のせい・・・???」
ドラキュラは混乱した。
「いいからとりあえず来てください!!お風呂はその後でも入れますから!!」
「へいへい・・・」
ドラキュラは渋々お風呂から出た。
そのままニニにまくしたてられるようにして着替えた。
内側に織り込んだシャツの襟を正しながら男湯を出るとムーンが待っていた。
そのまま三人は悲鳴の聞こえた方へと走っていった。
いやぁぁぁぁぁぁ!!!
どうやら悲鳴は大浴場のある1階ではなく、フロントのある2階から聞こえてきているようだった。
ドラキュラたちは階段で2階へと向かった。
すると2階に着くタイミングで上の階から降りてきたツシカと鉢合わせをした。
「な・・・、何だか・・・、悲鳴のようなものが聞こえたので、急いで来てみたのですが・・・」
「悲鳴のようなものというよりか、悲鳴そのものだな!!!」
ドラキュラは前を向いたままツシカに言った。
程なくしてロビーが見えた。
何やら不穏な動きを見せる三人組が目に入った。
「オラオラオラ!!知っとるんじゃぞぉぉぉ!!ここにマントをまとった見慣れん客がおるじゃろうがぁぁぁ!!!早くそいつを出しさらせぇぇぇ!!!」
「カラカラカラ!!兄者がこう言っとんじゃぁぁぁ、早く出しさらせぇぇぇ!!!」
「キラキラキラ!!以下同文んんんんんん!!!」
三人は世紀末からタイムスリップして来たかのような出立で、フロント前で大きな武器を振り回しながら叫んでいた。
「おう・・・、見つけたぞ!!!あいつじゃねぇのか・・・???」
兄者と呼ばれている男がドラキュラを見つけて言った。
「ですじゃ!!ですですじゃ!!兄者流石ですじゃ!!」
「以下同文ですじゃ!!!」
残りの二人はそれを持ち上げるように言った。
「オイッ!!!そこのマント野郎!!!お前に用があるんじゃ、ちょっとツラ貸せや!!!」
「ほう・・・、それは俺に言っているということで良いのかな???」
ドラキュラもヤル気満々だった。
「お前以外に今どきマントなどをまとうヤツがいるわけねぇだろう・・・。クククククク」
「マントのようなおしゃれ上級者アイテムは、お前には似合わないだろうが、俺には似合うのでな。ついついまとってしまうんだ。すまんな」
「てめぇ・・・、今すぐにその口聞けなくしてやるよぉぉぉ!!!」
「いつでも来い!!」
そう言って迎え打とうとしたドラキュラの前にスッと手を伸ばす者がいた。
ツシカだった。
「ド・・・、ドラキュラさま、こ・・・、ここは私にお任せてください。あ・・・、あなたが先ほど言った、"誰かのために力を使う"ということを実践してみようと思います・・・」
ツシカは武器を強く握った。




