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第32話 もっと早く会いたかった

「だから一緒に入りたくなかったんですよぉ〜・・・」

 ツシカは怒るというよりも恥ずかしそうにしている様子だった。

 しかし、ニニとムーンはそんなツシカの表情など見えていない。

 ツシカの全身のアザを見たことによって、罪悪感に駆られていた。

 浴室の外から覗き見するような形で中を覗いていたドラキュラもツシカのアザを見て驚いていた。


 ジャァァァァァァァァァァ・・・

 四人が固まり動けない中、シャワーだけは"私はそんなことでは動じません"と言わんばかりに、変わらず流れ続けていた。


「そのアザはどうした・・・???」

 沈黙を破ったのはドラキュラだった。

 しかし、ニニもムーンもドラキュラがアザに触れるとは思っていなかった。

 ニニに至ってはドラキュラを二度見したほどである。

 とはいえ、二人ともツシカのアザの理由を知りたいのも事実だった。

 "何言ってるんですか!!""デリカシーないわね!!"

 などとドラキュラに言いながらも、心の中では"よく言ってくれた"と賛辞を送っていた。


「まぁ、いろいろありまして・・・」

 ニニとムーンは、ツシカがアザについてハッキリ教えようとしない様子を見て、これ以上聞くのは野暮だと思った。

 その様子を見てツシカも自身が気を遣われていることに気づいた。

 ツシカにとっては何度も何度もされてきた質問であった。

 確かに言いたい内容ではない。

 しかし、それよりも説明が面倒くさいという思いの方が勝っていた。

 それで、今回もはぐらかそうとしたのだが、相手が自身への同情のような想いから話を終わらせようとするとなると少し変わってくる。

 ツシカにとってそれは凄く嫌なことだった。

 だから自分から話を始めた。


「実は私、父から虐待を受けていまして・・・」

 話の内容とは相反してツシカの口調は淡々としていた。

 それが逆に周りに不気味に映った。


「物心ついた時には、このように全身アザだらけでした」

 そう言って、"ははは"と軽く笑って見せたツシカの表情は、周りからしてみればおおよそ笑えるものでは無かった。

 ニニもムーンも数分前まで締まりの無い行動をしていた自分たちを深く反省した。


「正直、私は毎日のように見ているので何ともないのですが、周りが見るとやはり衝撃的なようで、急に気を遣われることも多かったので・・・、いつしか誰にも見せないように気をつけるようになりました」

 ツシカの体をまじまじと見ると、黒ずんだものから、明らかに最近できたであろう真新しいアザまで見かけられた。

 中には小判ほどの大きさのものもあった。


「今も続いているのですか・・・??」


「はい・・・。実は私の父は昔、一番隊で隊長を務めていたんです」


「え・・・??本当ですか・・・??」


「はい。だから父は私を同じように一番隊隊長にしたかったようです・・・」

 アザに触れられても顔色を変えなかったツシカの表情が曇っていくのが見えた。


「しかし、私には才能がなかったのです。父は私が幼少の頃にそれを悟ったのだと言います。そして、それを認めることが出来ないまま、苛立ちを抱えたまま、私を厳しく教育していきました・・・」

 ムーンには無情に流れるシャワーが、ツシカの涙のように見えていた。


「父の予想は当たっていました。私は二番隊隊長にまでしか、上りつめられなかったのです。しかし、父は今でも私が一番隊になることを諦めていません・・・。いえ、認めることができないと言った方が正解かもしれません・・・。なので、今も厳しい鍛錬は続いています・・・」


『・・・』

 自分の行為への反省と、ツシカにかけるべき言葉が思いつかないことが重なって、ニニとムーンは黙り込んでいた。


「お前はどうなんだ??」

 こんな時、男はいつも沈黙を破ってくれた。


「え??」

 ツシカはニニとムーンが黙ってしまったことに申し訳なさを感じながらも、案の定の様子に寂しさのようなものを感じていた。

 そんな中でドラキュラに急に質問をされたため、思わず驚いてしまった。


「お前は自分が一番隊隊長になれなかったことをどう思っているんだと聞いているんだ!!」

 ドラキュラの声は落ち着きながらも語気が強かった。


「正直、"まだあの鍛錬が続くのか・・・"という絶望が一番強かったです。なれなかったことに対しては、あまり何も感じてはいませんでした・・・」


「それが、お前が一番隊隊長になれない理由だ!!」

 ニニとムーンがドラキュラの方を見た。


「どういうことです??」


「お前は自分のことしか考えていないのだ!!」


「当たり前でしょ!!あなたは何も知らないから・・・、私が今までどれだけ辛い目にあってきたのか、わからないからそんなことを言えるんだ!!」

 ツシカが初めて取り乱した。


「それでもだ!!」


「!!!!!」

 ツシカはドラキュラの迫力に押された。


「一番隊隊長ともなれば、自身の隊だけでなく他の隊のことも気にかけなくてはいけない。自分が楽になるために一番隊隊長になろうとしているヤツが、人の命など守れるはずがないだろう!!人は誰かを守りたいと思った時、自分でも想像していなかった力を発揮する生き物だ!!その想いがないまま挑戦したのであれば、お前は実力を出しきれないまま一番隊隊長の試験に落ちたということだ!!そして、お前自身がそのことに気がついていないということだ!!」


「・・・・・」

 ツシカは黙ってドラキュラの話を聞いていた。


「この旅が終わって、もし次のチャンスがあるのなら、その時は誰でもいい、自分以外の誰かを守りたいという気持ちを持って試験に挑戦しろ!!!」


「ドラキュラさま・・・」

 ツシカに厳しくも優しい言葉を投げかけるドラキュラに、ニニは羨望の眼差しを向けていた。


「うっ・・・、うっ・・・、うっ・・・」

 ドラキュラの言葉にツシカは涙を零した。


「おいおいおい、泣かなくてもいいんじゃないのか??」

 ドラキュラはツシカの予想外の泣き方に戸惑っていた。


「あなたにもっと早く会いたかった・・・」


「ははは、別に遅くもないだろ??失敗は誰にでもあるのだから」


「うっ・・・、うっ・・・、もっと早く会いたかった」

 ツシカは悔やみながら泣いた。


「ツシカさんすみません・・・。僕たち何も知らずにいたずら心で脅かしたりして・・・」

 ようやくニニは謝ることができた。


「私もごめんなさい」

 ムーンもニニに合わせるようにして謝った。


「いえ、もう大丈夫です・・・」

 そう言いながらもツシカはまだ少し涙を零していた。


「もう、いつまでも泣かないの!!試験は毎年あるんでしょ??くよくよしてる時間なんてないわよ!!」


「うっ・・・、うっ・・・」

 ムーンの言葉も虚しく、ツシカは泣き続けた。


「もう、いい加減シャキッとしなさいっ!!」

 そう言ってムーンはツシカの背中を叩いた。


 バッシィィィィィィンンン!!!

 シャワーを出しっぱなしだった浴室の床は濡れていた。

 ツシカは叩かれた勢いで、ツルツルの床を立ったまま滑って行った。

 そして、そのまま壁に激突した。


 バッガァァァァァァンンン!!!

 ツシカは壁に叩きつけられた。


「あっちゃぁぁぁ・・・」

 ニニはツシカを気の毒に思った。


「あ・・・、ごめん・・・」

 ムーンはいたたまれなくなった。


「だ・・・、大丈夫です・・・、お気になさらず・・・」

 ツシカのアザが一つ増えた。

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