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第31話 なってない者たち

 ドラキュラたち一行はガサ王国を目指していた。


「ちょっとぉ〜、ホッカ王国より遠いとは聞いていたけれど・・・」

 ずっと我慢してきたムーンはついにその思いを口にし始めた。


「こんなに険しい山々を超えていくとまでは聞いていなかったんですけど!!!」


「しょうがないですよ。ガサ王国は周りを高山で囲まれた国なんですから」

 ニニは事前の知識があったため、ある程度の覚悟を持って旅に出ていた。

 余裕のあるニニは少しだけ有意義な気持ちでムーンをたしなめる。

 しかし、ムーンはしっくりいかない表情のままだった。


「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・」

 ツシカは"それどころではない"と言わんばかりに、ニニとムーンのやりとりに全く興味を示さなかった。


「でも・・・、ムーンにはギルティ王国のコスメがあるから大丈夫ですよね??」

 ニニは山頂から吹き下りる風に乗せて、後ろにいるムーンに嫌味を届けた。


「うるさい!!」

 山頂へ向けて飛ばされた怒号は勢いに乗り切らず、力弱くニニに届いた。

 そこにニニの余裕も重なったことにより、ニニは薄ら笑いを浮かべるのであった。

 そんな痴話喧嘩を時折混ぜ込みながら、一歩ずつ進んでいく一行はいつしか山の反対側に出ていた。


「見えましたよ!!あそこがガサ王国の中心です」

 ニニが指差した先に全員が目をやった。

 一行の眼下には、大平原や大森林、川や湖など自然豊か且つ壮大な景色が広がっていた。

 その中心に位置する場所に、遠目からでも良くわかる立派な城と城下町が見えた。


「おぉぉぉぉぉぉ・・・って、まだまだ全然遠くね・・・???」

 ムーンは薄い空気を吸い込み、濃くて太い声を吐き出した。


「確かに遠いのですが・・・」

 そう言ってニニは自分の鞄をガサゴソと漁り始めた。


 じゃーーーーーーんんんん!!!

 ニニは旅太郎をカバンから取り出し、ドヤ顔をして見せた。


「この旅太郎によるともう少し言ったところに、世界トップクラスの美肌効果があるという温泉宿があるらしいのです!!!」


「温泉きたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 火山の噴火を誘発させそうなほど、ムーンのテンションが上がった。


「温泉・・・???」


「あれっ、もしかしてドラキュラさまは温泉をご存知ない・・・??」

 ニニがいつものようにマウントを取り始めた。


「温泉というのは食べ物か何かか・・・??」


『・・・・・』

 その言葉を聞いて、全員の中のドラキュラを"からかいたいという気持ち"を"不憫だと思う気持ち"が越えていった。

 そして、これ以上いじるのはやめようと思った。


「言って終えば、温泉というのはお風呂です!!!」


「なんだ!!ならお風呂と言えば良いのに」


 チッチッチッ

 ニニが人差し指をメトロノームのように動かした。


「普通のお風呂と違って体に良い成分がたくさん入っているんですよ!!」


「なるほど、美肌効果と言っておったのはそのことだったのか!!」


「そうです。さらには露天風呂まであるらしいですよ!!」


「おぉ、それは知っているぞ!!」


「でしょうね。だってお城にも露天風呂があるんですから!!」


「流石は国王の孫!!」

 ムーンがボソリと言った。


「まぁ、入ってみればわかりますよ!!疲れなんて一気に吹き飛んでしまいますから!!」


「そういうことならば期待しておこう!!!」

 ドラキュラも温泉を待ち遠しく思い始めた。

 しばらくすると温泉宿が見え始めた。

 辿り着く頃には、お日様が地面にくっついて当たりは闇をまとい始めていた。


「美肌に効く温泉宿3年連続No.1の実績を誇る、タマタマ温泉へようこそいらっしゃいました。お客さまは4名さまですね??」


「はい!!」「えぇ!!」「あぁ!!」「は・・・い・・・」


「今宵はごゆっくり旅の疲れを癒してくださいませ」

 出迎えてくれた女将の押せ押せな接客に主導権を握られながら、一行は案内役の女性に案内され部屋へと向かった。


「陽も落ちて周りが見えにくくなってきたので、宿が見つかってちょうどよかったですね」

 誰かが拾ってくれると嬉しいな程度の、独り言にも聴こえなくはない声でニニが言った。

 しかし、案の定誰も反応してはくれなかった。


「美肌、美肌ぁぁぁ〜〜〜♪」

 ムーンは相変わらずの浮かれようであった。


「あわわわ・・・、来てしまったぁぁぁ・・・」

 ツシカは一抹の不安を抱えながらドラキュラたちの後ろを歩く。


「こちらがお部屋になります」

 一行は部屋に入っていった。

 部屋に入ってまず目に入ったのは開いた襖の先にある大きな窓であった。

 そこからはガサ王国が一望できた。

 大自然の中にポツンとある城と城下町の明かりが、細々としながらも存在感を放ち、粋で乙な景色を演出していた。

 また、周りの森や湖といった自然にも等間隔で灯りが点されているため、目を凝らせばそこがどこなのかを認識することができた。


「大地の国って呼ばれているので、昔ながらの雰囲気が漂うところなのかと思っていましたが、人工的な灯りとの調和が嫌味なく成されていて想像以上に良いですね」

 ニニは荷物を置くのも忘れて、窓の向こうに広がる景色に見入っていた。


「確かに・・・。旅太郎の写真だけでは伝わらない良さがあるわよね」

 ムーンもガサ王国の夜景に見とれていた。


「・・・」

 ツシカは何かを思いながら夜景を見つめていた。

 ドラキュラはそんなツシカを少しの間、見つめていた。


「大浴場は一階でございます。本館に泊まったのなら入らにゃ損!!是非ともご利用くださいませ」

 そう言うと一礼して案内人は部屋を後にした。


「じゃあ、早速温泉に行きますか??」

 ニニはもう待ちきれなかった。


「俺も楽しみだ!!ニニがそこまで言う温泉というものがどんなものなのか・・・、待ち遠しいわ」

 ドラキュラも胸をワクワクさせていた。


「美肌が私を呼んでいるわぁぁぁ〜〜!!!」

 ムーンが一番浮かれていた。


「ぼ・・・、僕は遠慮しておきます・・・」


『!!!!!』

 ツシカの言葉を聞いて、全員がツシカの方を見た。


「ほ・・・、本当に言っているんですか・・・???」

 ニニは"そんな人がこの世にいるのか??"くらいの勢いでツシカに聞いた。


「な・・・、なんでそんなこと言うのよ・・・???」

 ムーンは"この世で一番残酷なことをしている人"を見るような目でツシカを見ていた。


「・・・」

 ドラキュラは何も言わずにツシカを見ていた。


「はは・・・。まぁ、ちょっと温泉が苦手でして・・・」

 ツシカの言葉は明らかに歯切れが悪かった。

 ツシカが元々はっきりと言うタイプではないことは、全員この短期間過ごしただけでもわかっていた。

 しかし、今回のは、それを理解した上でも"何か隠している"と感じずにはいられないものだった。

 全員が何か引っかかるものを感じた。

 だからと言ってそれを見過ごしたり、触れずに終わらせられるほど、男たちは"なっては"いなかった。


「そんなこと言わずに一緒に入りましょうよ!!」

 ニニが強引にツシカの手を引っ張る。


「さぁ、さぁ、ドラキュラたちと一緒に温泉に入ってきなさい!!大丈夫、ここの温泉に入れば温泉が好きになるわよ!!」

 この温泉にこれから初めて入るムーンも、ツシカを温泉に入れようと背中をグイグイ押していく。


「い・・・、いえ・・・、結構です・・・。本当に大丈夫です・・・」

 あまりの拒絶ぶりだったため、本当に嫌がっているのだと全員が理解した。

 しかし同時に、全員の興味をそそったのである。

 "そこまで拒絶する理由はなんなのか・・・??"と。


「では、私たちが温泉に行っている間、ツシカさんは部屋についているお風呂にでも入ったらどうですか??長旅でしたし、汗は流しておいた方が良いですよ」


「そうですね。そうさせていただきます。お気遣いありがとうございます」

 それからドラキュラとニニとムーンは大浴場へと足を運んだ・・・かに見えた。


 ザッパァァァーーーンンン!!!


「ククク、ムーンさんやぁ〜、ツシカさんお風呂に入りましたよぉ〜」


「ヒヒヒ、二二さんやぁ〜、ワシらの作戦成功じゃのうぅ〜」


「・・・」

 ドラキュラはニニとムーンの"盛んな老夫婦コント"を冷めた目で見ていた。

 三人は大浴場へ向かうそぶりを見せ、ツシカがお風呂に入るタイミングを見計らって部屋に戻っていたのである。

 そして今、三人はお風呂前の更衣室にいた。


「このまま、ここに用意したバスタオルでツシカさんを巻いたら、ドラキュラさんに担いでいただいて温泉へ直行じゃぁぁぁ〜〜〜!!!」

 ニニが悪そうな笑みを浮かべた。


「ワシは一緒には入れんけれど男湯の声に耳を傾けておりますぞぉ〜〜〜」


「それはそれでどうなんだ・・・??」

 ドラキュラのツッコミは最早二人には届かない。


「では、"一斉の〜せっ"で開けるぞい」

 ニニが言った。


「えぇ、わかりましたわい」

 ムーンが応えた。


「・・・」

 ドラキュラは黙った。


「一斉の〜〜〜せっ!!!」


 バァァァァァァァンンン!!!

 ニニとムーンは勢い良く浴室のドアを開けた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 部屋中にツシカの驚く声が聞こえた。


『・・・』

 そんな声に動じることなく三人は固まっていた。


「そ・・・、それは・・・???」

 思わずニニは聞いてしまった。

 聞いていいのかわからなかったが、自分のしてしまったイタズラが収集のつかない事態を引き起こしたために、何か言わなければいけないと焦ってしまったからである。


「ははは・・・、だからみんなとお風呂に入るのは嫌だったんですよ・・・」

 ツシカの体は全身アザだらけだった。

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