第28話 コピペ
「ルンルンルンルンルーーーンンン♪♪♪」
「何だか陽気だなぁ・・・」
「何とも陽気ですねぇ・・・」
ドラキュラとニニは、グッタリとしたボリべと男とは対照的に、鼻歌混じりで楽しそうにスキップするムーンに若干呆れていた。
「ねぇ??ご飯はどうするの??」
「遊びじゃないんですよ!!!」
ムーンの緊張感があまりになさ過ぎたため、流石のニニもイラッとした。
「そんなのわかってますけど」
ドスのきいた太く低い声が帰ってきた。
その迫力に負け、ニニの苛立ちはスッと引いていった。
「で・・・、でしたら良いですぅぅぅ・・・」
ニニは"そんな意味で言ったんじゃないですよ"という意味を含め、声を上ずらせながら返した。
「私の無実が証明されるのよ!!そんなの嬉しいに決まっているじゃない!!!」
「・・・」
ニニはハッとした。
ムーンは浮かれていたのではなく、心の底から喜んでいたのだと知ったからだ。
そしてムーンに軽率な発言をしてしまったことを深く反省した。
「それに・・・、滅多に入れないギルティ王国にもう一度入ることができるんだもの・・・。次は絶対に城下町で買い物してやるんだから!!!」
「やっぱり浮かれてんじゃん!!!」
ニニは数秒前の反省を反省した。
「それよりもドラキュラ・・・」
ムーンはドラキュラに近づき小声で何かを話そうとした。
その神妙さ、間の取り方、さらには表情から、ドラキュラはムーンが何を言いたいのかを悟った。
「お前が言いたいことはわかっている。大丈夫だ!!!あとでしっかり話す!!!」
ドラキュラの言葉を聞いて、ムーンはそれ以上何も言わなかった。
そんなこんなの内に一行はギルティ王国に到着した。
ギィィィィィィ!!!
ドラキュラが王の間の重々しい扉を開いた。
中ではいつものようにバーツ国王が玉座に猛々しく座っていた。
「はわわわわわわ。孫が帰ってきたんですけどぉ〜〜〜!!!何かちょっと大人っぽくなってない??ちょっと見ない間に頼もしい顔つきになった気がするんですけどぉ〜〜!!!さすがワシの孫なんですけどぉ〜〜!!!もぉ〜〜、ちょっとでも目を離すとコレなんだからぁ〜〜!!!全然違う、三日前と全然違うんですけどぉ〜〜!!!こんなに変わる??人ってこんなにスグ変わるの??それともワシの孫だからこんなにスグに変わったの??・・・多分そうだよね??きっとそうだよね??ワシの孫だからだよね??ものすっごい大人になってるんですけどぉ〜〜!!!ワシの孫、超絶大人になっているんですけどぉ〜〜!!」
と、心の中ではしゃぎながら、顔には一切出さず、バーツはキリッとした顔で近づいてくるドラキュラたちを見ていた。
「じいちゃんただいま」
「よく戻ったな・・・で、どうじゃった??」
「この通り、本当の罪人を見つけてきたぜ!!!」
そう言ってドラキュラはボリべをバーツに見えるように差し出した。
「ふむ、意地悪のつもりで三日というタイトな期限を設けたんじゃが・・・。まさか、こうも簡単に達成してくるとは・・・」
というのは建前で・・・。
「マジですかぁぁぁ〜〜〜!!!ワシの孫やってのけちゃったよぉぉぉ〜〜〜!!!ちょっと厳しめな条件をつけて、失敗したところをワシが慰めて株を上げる"おじいちゃんの優しさ大作戦"が失敗に終わったんじゃけどぉぉぉ!!!でも、想像を超えてくる孫も大好きじゃぁぁぁ〜〜〜!!!」
というのが本心であり、心の声だった。
「結論から言うと、このボリべという男が本当の罪人だった」
「ほう・・・」
バーツはドラキュラの顔がスッキリしないのを見破っていた。
"多分、何か孫には他にも言いたいことがある"
それを言いやすくするために、とりあえず相槌を打つだけにしておいた。
「ただ・・・」
バーツの読みは当たっていた。
ドラキュラは少し言いにくそうに話し始めた。
「このボリべという本当の罪人も、濡れ衣を着させられたムーンのように、一人の犠牲者なのかもしれない・・・」
「なぜそう思う???」
「とある虫を見つけたんだ!!!」
「虫・・・???」
「あぁ・・・。その虫は人間の口から体内に入り、その者の理性を奪う代わりに、強大な力を与える!!!ちなみに、これがそれだ!!!」
そう言ってドラキュラはバーツに虫を見せた。
「なるほど、その虫がそこの男の中に入り、中から男を操り、ムーンを陥れたと言うことじゃな??」
「あぁ・・・」
「一体その虫は何なのじゃ???」
「わからない・・・。だが・・・」
「だが・・・???」
「俺はこの虫を知っている!!!」
「何じゃと???」
それはバーツの想像していない言葉だった。
ニニも、ボリべも、男も、ドラキュラの言葉に驚いた。
「えっ??ドラキュラさまこの虫を知っているのですか??」
「あぁ・・・」
「だ・・・、だって・・・、ドラキュラさまは今まで城の外に出たことなかったんですよね??なのにどうしてこの虫を知っているのですか??」
「この虫が・・・。クロスという男の口の中から出てきた虫と一緒だったからだ!!!」
『!!!!!!!!』
バーツも、ニニも、言葉を失った。
「ク・・・クロスとな・・・???」
バーツの声が震えた。
「クロスって・・・、ドラキュラさまのお父さまとお母さまの命を奪ったっていう、あのクロスですか???」
「・・・」
ムーンは何も言わなかった。
むしろ知っていたのだ。
ドラキュラが感情を取り戻す時に見た映像と全く同じものを見ていたのだから。
ドラキュラたちの見た映像の中ではクロスがバーツに連行されている時、バーツや大人たちは、もちろん進行方向を向いていた。
それに対して、クロスは両脇をバーツと兵士にそれぞれ掴まれ、進行方向とは反対を向いたまま、足を引きづられるようにして連行されていった。
だからその時のクロスの顔を誰も見ていなかったのだ。ドラキュラ以外。
しかし、ちょうどその時、それは起きていたのである。
口の中からあの虫が出てきたのだ。
大勢の戦士や兵士がいる中で、それに気づいたのはドラキュラだけだった。
「今回、このボリべがあの虫を口に入れた途端に理性を失ったのを見て確信した!!!クロスも同じようにあの虫に操られていたのだと!!!」
「しかし、クロスは虫のことなど何も言っておらんぞ!!!」
バーツの頬を気持ちの悪い汗が流れ続ける。
「この虫に理性を奪われた者は、一時的に記憶を失うようだ。まぁ、副作用のようなものだと思うが、結果的に証拠が残りにくくなっていやがる!!!全く・・・、厄介な能力だぜ!!!」
「信じられん・・・」
「さらに言うなら・・・、俺はこの虫には何かしら人為的な力が関わっていると思っている!!!」
ドラキュラが力強く言った。
「ほ・・・、本当か・・・???」
ドラキュラはコクリと頷いた。
「だから、俺はこの虫を含め、真実を知りたい!!!じいちゃんお願いだ!!それまでボリべを処刑しないで欲しい!!!」
「ドラキュラよ!!!それはならん!!!このボリべという男はすでに人の命を奪っておる!!!正真正銘の罪人じゃ!!!」
「だが、それもこの虫に操られていたせいなんだ!!!」
「だとしてもじゃ!!!それでも人の命を奪ったことに変わりはない!!!お前は、お酒に酔って事件を起こした者を無罪にしろと言うのか???それと同じじゃぞ!!!」
ドラキュラは返す言葉を失った。
だから納得せざるをえなかった。
「そうだよな・・・。確かにじいちゃんの言う通りだ。しょうがないか・・・」
ドラキュラは酷く落ち込んだ。
対してバーツは論破した孫に向かってドヤ顔を投げかけていた。
「そうか・・・・。ごめん。じいちゃんだったら頼れると思ったんだけどな・・・・」
じいちゃんだったら頼れると思ったんだけどな・・・・
じいちゃんだったら頼れると思ったんだけどな・・・・・・・・
じいちゃんだったら頼れると思ったんだけどな・・・・・・・・・・・・
バーツの頭の中でドラキュラの寂しそうな言葉が何度も繰り返された。
「よし!!では猶予をやろう!!」
既視感のあるやりとりが始まった。
「聞いてくれるのか??」
「だから猶予じゃ!!お前はその男が罪人でないと確信しているのじゃろう??じゃったら、それを5日以内に証明して見せろ!!そうすれば、今回のことは水に流してやる」
「証明とは具体的にどうすれば良いんだ??」
「本当の本当の罪人をここに連れて来い!!」
「今度は生死は問わないか??」
「いいや!!今回も生きておらんと意味がない!!今回の事件の罪人をこの国で処刑するからこそ、お前のわがままが通るのじゃ!!」
「わかった!!じゃあ5日以内に本当の本当の罪人を連れてくるとしよう!!」
「くれぐれも気をつけるのじゃ!!お前の話を聞くからに、何か超一筋縄ではいかない事件の臭いを感じるぞい!!」
「構わん!!それで良い!!目的はハッキリしているのだから。ありがとう、じいちゃん」
ありがとう、じいちゃん・・・
ありがとう、じいちゃん・・・・・・
ありがとう、じいちゃん・・・・・・・・・
バーツの頭の中でドラキュラの感謝の言葉と嬉しそうな笑顔が何度も繰り返された。
「わっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!めっちゃ感謝されたんですけどぉぉぉぉ!!ワシの孫マジ天使!!マジ大天使!!!昇天しちゃうって、このままじゃ、じいちゃんもう一回昇天しちゃうってぇぇぇぇ!!ありがとうって言われたけれど、こちらこそありがとう、大事なことなのでもう一回言います。こちらこそありがとうぅぅぅぅぅぅ!!!孫よぉぉぉぉぉぉ!!」
などと、バーツの頭の中は再びカーニバルになっていた。
「くれぐれも無理はするなよ」
バーツは真剣な面持ちで言った。
「安心しな!!俺を誰の孫だと思っているんだ!!」
「ふん!!笑わせおるわい!!」
バーツは笑った。
「ふん!!笑わせおるわい!!」
と、心の中でも思いながら。
『あれっ???気のせいかなぁ・・・。前にもこんなやりとりがあったような・・・』
と思ったニニとムーンだったが、それ以上は触れなかった。




