第27話 だと思った
「あっ、ドラキュラさまが戻って来ましたよ・・・って、えぇぇぇぇぇ!!!何か知らない人が一人増えてるんですけど・・・」
教会で帰りを待っていたニニがテンション高く驚いた。
「お姉ちゃん・・・」
ムーンがサンを見かけ駆け寄っていった。
「ムーン・・・」
サンは罪悪感を感じていた。
理由はどうあれ、ムーンを捨てボリべの元へ行くことを選んだことが大きな原因だった。
だから改めて向き合った時、サンはムーンの顔を真っ直ぐ見つめることが出来なかった。
それを男は察した・・・
ポンッ。
ドラキュラはサンの肩に優しく手を置いた。
「お前がボリべに連れられて行く時、ムーンは叫んでいた。そして、お前も大声で叫び返していた・・・。それが全てだろ!!もう、お互いに本心は伝わっているのではないか??」
「・・・」
サンはうつむいたまま黙っていた。
ドラキュラの言葉に納得した。
したからこそ、何を言えば良いのかがわからなかった。
ずっと抱えて来た罪悪感は、元凶であるボリべが倒された後も消えることはなかった。
「お姉ちゃん!!!」
先ほど呼んだ時の落ち着いた感じではなく、明るく元気な感じでムーンが呼んだ。
ムーンはこの空気を変えたかったのだ。
本当はお互いに気がついていた。
心と心は仲直りしていることに。
自分の大好きだった姉は、やはり自分のことを好きでいてくれたんだ。
そこに今までいくつの猜疑心が噛み付いて来ただろう。
その都度、一緒にいた頃の楽しい思い出を使って振り払っていた気がする。
それが出来たのも、やはり信じていたからこそであろう。
だから思わずこぼれた・・・。
「だと思った!!」
ムーンはくしゃくしゃになって笑った。
"許す""許さない"ではない。
最初から自分のことを信じてくれていたのだとサンは理解した。
サンはムーンの胸の中に飛び込んだ。
風が優しかった。
小鳥の声が心地良かった。
木々の揺れる音が癒してくれた。
"ごめんね。ごめんね"と何度も謝りながらサンはムーンに包まれて泣いた。
「良い姉妹ですね・・・」
もらい泣きをしながらニニが言った。
「そうだな・・・」
そう言って空を見上げたドラキュラの目には、少し滲んだ夕日が映っていた。
「サン!!!」
ムーンの胸の中でひとしきり泣いたサンを見てクンが声を掛けた。
「クン!!!」
サンにはムーン以外にも謝らなければいけない人がいた。
その相手から今声を掛けられたのだ。
「あ・・・、あの・・・、私・・・」
言いたいことは決まっていなかった。
でも、何かを伝えたかった。いや、何でも良いから話したかった。
それは、クンをまだ愛しているという証拠だった。
申し訳なさと恥ずかしさが、サンの言葉の歯切れを悪くさせていた。
「もう一度俺と俺と付き合ってくれないか??」
クンは、言いたいことを言えないサンに、言いたいことを真っ直ぐ伝えた。
「はい。喜んで!!」
サンはくしゃくしゃになって笑った。
クンがサンを抱きしめた。
"ごめんね。ごめんね"と何度も謝りながらサンはクンに抱かれて泣いた。
「では、俺たちはこの間にコイツを連れてトムとヤムの家族を助けに行くとするか!!」
ドラキュラはもっともらしい理由をつけて、その場から離れた。
ボリべが正直に話したため、トムとヤムの家族はスグに見つかった。
ドラキュラはトムとヤムとその家族たちから何度も何度も感謝の言葉をもらった。
ドラキュラにとって、人から"ありがとう"と言ってもらえるのは、とても新鮮なことだった。
「人に喜んでもらえるのも悪くないな・・・」
人間じみた言葉を発したドラキュラを見て、ニニは何も言わずニッコリと笑った。
そのままみんなを連れ、ドラキュラたちはサン、クン、ムーンたちの待っている宿へと向かった。
宿では宴会が開かれた。
全員の無事とサン、トムとヤムの家族たちの帰還を喜びながら、みんなで祝杯を上げた。
そしてボリべと男を簡易的な牢屋に入れ、ドラキュラたちは眠りについた。
シィィィィィィィンンン
ドラキュラは朝早くドアを静かに開けた。
そのまま階段のところまで歩いていく。
その僅かな音を耳を澄ませて待っていたニニが自室のドアを開けた。
二人とも城に戻る準備は万全だった。
「おはようございます。ドラキュラさま」
ニニが小声で言った。
どこまでも真面目なヤツだと、ドラキュラはニニが少し可愛く思えた。
「奴らを連れて早く戻るぞ!!」
ドラキュラの言った"奴ら"というのはボリべと男のことであった。
「はい!!」
ニニは少し物足りなさそうに言った。
行きにいた仲間が一人、帰りにはいないのだ。
二人はその娘の幸せを考え、迷い、そしてこのまま家族と一緒に幸せに暮らすのが良いと判断した。
正確には各々が、そう自分に言い聞かせたのだった。
寂しくないと言ったら嘘になる。
だから二人は、そんな自分たちへの救済処置を決めたのである。
彼女が自分から行きたいと言ってきたのなら快く迎え入れようと。
静かな足取りは、とても重かった。
宿屋を出るとちょうど朝日が登り始めたところだった。
皮肉にも綺麗だった。
これで良かったと思えるほどに。
「ねぇ??」
ドラキュラとニニはそんな綺麗な朝日に背を向けた。
宿屋の中から呼び止められたからである。
「ちょっと!!私を置いて黙ってどこへ行く気??」
その声はドラキュラとニニが求めていた声だった。
声の主は寂しそうというよりは、怒っているようだった。
「私がお姉ちゃんと一緒にいたいだろうなんて勝手に決めつけて、先に行こうとしたんじゃないでしょうね??」
月も見えない晴れ渡る空の下、図星が流星の如く二人に降り注いだ。
「そもそも今回の件は、私の身の潔白を証明するためのものじゃなかったっけ??なら、ボリべだけ連れて行ってもダメでしょ!!何の解決にもならないじゃない!!」
『・・・・・』
ドラキュラもニニも黙っていた。
「確かにお姉ちゃんと一緒にいたいわよ!!でもねぇ、私だっていつまでも子供じゃないの!!私自身の幸せも考えないといけないの!!そのためには、お姉ちゃんとずっと一緒にいちゃダメなの!!それにお姉ちゃんにはもうクンがいるんだし・・・って、ねぇ、聞いてる??」
『・・・・・』
二人はやっぱり黙っていた。
と言うよりも、ムーンがある言葉を言った時に喜ぶ準備をしていたと言ったほうが正しい。
二人は矢継ぎ早に話すムーンを見ていて、もしかしたらその言葉を言うのではないかと顔には出さずソワソワしていた。
「あぁ・・・、ここまで言ってもまだわかんないかなぁ・・・」
ゴクリ・・・
二人が固唾を飲み込んだ。
その言葉がムーンの口から出てくる気がしたからである。
「私も一緒に連れて行きなさいよ・・・。いえ、私も一緒に連れて行ってよ!!」
二人の予想は当たった。
「お姉ちゃんとさよならするより、あんたたちとさよならする方が寂しいの!!辛いのよ!!」
声を震わせながら叫ぶムーンの頬を朝の光を吸い込んだ涙が溢れていく。
ドラキュラもニニも、ムーンの気持ちをうっすらとではあるが察していた。
だから、"OK"の意味を込めて二人は言った。
『だと思った』




