第25話 リップサービス
「ドラキュラさま!!ここは処刑室とは違うのです。城の外なんですよ!!処刑室でなら新能力を試しに使っても相手は仕返しなどしてきませんが、こういった戦闘の場面では相手が反撃してくる事もあるのです!!能力をそのまま使ってみたい気持ちもわかりますが、今後は気を付けてください。でないと、その一瞬が引き金となって命を落とすことになるかもしれませんよ!!」
と言いながら、"まっ、そんなことあり得ないだろうけど"とニニは思っていた。
「うむ。確かにニニの言う事も一理ある。よしっ、決めた!!城の外で能力を手に入れた場合は、手に入れた瞬間に試し撃ちをすることにしよう!!要は、戦闘の前に準備を済ませておくと言うことだ!!」
ドラキュラは胸を張って、全開のドヤ顔をして見せた。
「まぁ・・・、それでいいんじゃないですか・・・」
ニニはいちいち触れたりしなかった。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!!」
自分の跳ね返ってきた羽によって傷ついたボリべは激昂した。
その怒りの力によって、刺さっていた羽根はゴムボールに当たった小石のように、弾かれるようにして全て抜け落ちた。
「まだやるか??」
「何が"まだやるか??"だ!!ここからが本気だ、調子に乗るなよ!!」
ドンッ!!
ボリべは大きな羽で加速しドラキュラに攻撃を仕掛けた。
そのスピードは先ほどまでとは比べ物にならないほど速かった。
しかし・・・。
ドボンッ!!
ドラキュラは、そのスピードに合わせるようにしてボリべのボディに強烈な一撃をメリ込ませた。
「がっはぁぁぁぁぁぁ・・・・・」
ボリべはあまりの苦痛に声を上げた。
スタスタスタスタスタ・・・
ドラキュラは近くの公園にでも行くかのようなゆったりとした足取りで、悶えるボリべに近づき、頭を鷲掴みにし、そのまま片手で持ち上げた。
「まだやるか??」
その問いかけに対して、ボリべは不敵な笑みを浮かべた。
表情からは、何かを考えていて、仕掛けて来るのが伺えた。
鱗鱗粉粉塵塵
ボリべの羽から放出された鱗粉がドラキュラの目に直撃した。
そのまま鱗粉は竜巻のような渦を作りその場を飲み込んだ。
敵味方関係なく、その場にいた全員が目くらましを受けた。
一番近くで目くらましをくらったドラキュラは、掴んでいたボリべを離してしまった。
自由になったボリべは凄まじいスピードでサンの元へ行った。
「はははは!!!もう、こうなったら結婚式などしている場合ではない!!!だがな、俺がこの女を愛しているのは本当だ!!!だからこの女はいただいていく!!!お前たちはそこでのたうち回っていろ!!!」
そう言ってボリべはサンを力づくで抱きかかえた。
「お姉ちゃん!!!」
ムーンがサンを呼んだ。
しかしムーンはボリべの技によって目が一時的に見えなくなっており、サンが何処にいるのかを確認出来てはいなかった。
「ムーーーンンン!!!」
ムーンの声に応えたサンもまた同じだった。
「さようなら、下民ども!!!」
ボリべは飛び立とうとした。
しかし・・・。
ガシッ!!!
ボリべの羽を掴んで取り押さえようとする者がいた。
「行かせない!!!絶対に行かせない!!!行かせるもんか!!!サンを・・・、サンを返せぇぇぇ!!!」
ボリべを掴んだのはクンだった。
「小賢しい、貴様が俺を掴んだところで何が変わる!!己の無力さを再確認するだけだろうが!!引っ込んでいろ!!」
そう言うとボリべは羽でクンを叩きつけようとした。
ブオォォォォォォッ!!!
ボリべが羽を振りかぶった時点で、覚悟を決めたクンだったが、いざ羽が目の前に近づくと目をつむってしまった。
バガンッ!!!
ボリべの羽が力強く当たった。
しかしクンには痛みどころか感触すら感じられなかった。
だからクンは恐る恐る目を開けた。
目の前にはトムとヤムが立っていた。
二人は両手で防御をし、クンの壁になるような形でボリべの攻撃を受けていたのだった。
「お前たち・・・」
クンは目を疑った。
「クン・・・ごめんな裏切ってしまって。」
トムが言った。
「裏切ってごめん・・・」
ヤムが言った。
「お前たちこんなことをしてどうなるのかわかっているのだろうな??家族が人質になっていることを忘れた訳ではあるまい!!今ので家族の命は亡くなったと思え!!!」
「な・・・??お前たち家族を人質に取られていたのか??」
クンはトムとヤムの秘密を今知った。
「ごめん・・・。本当にごめん・・・。誰かに言えば命はないと脅されて・・・。それで何も言えなくて・・・」
「俺もどうしようも出来なくて・・・、クンよりも家族をとってしまった・・・」
トムもヤムも受け止めたボリべの羽を見つめながら号泣していた。
二人はまだクンの方を見れなかった。
二人の中にはしっかり罪悪感があったのである。
それでもクンには届いていた。
二人の声の震えや、肩の震えが、後悔が体の内側から放出されたことによるものだということが。
それだけ悩んでいたのだということが。
「二人とも謝らないでくれ!!そもそも俺が誘わなければ、こんなことにはならなかったのだから。二人に辛い思いをさせたのは俺だ!!俺の方こそすまない!!」
クンも泣いていた。
「くだらんじゃれあいに付き合っている時間はないんだよ!!」
そう言って、ボリべはトムとヤムに受け止められた羽を再び振りかぶった。
そして、もう一度叩きつけようとしたのである。
ブオォォォォォォ!!!
おどろおどろしい色をした大きな羽が二人に直撃しそうになった時だった。
ガバァァァァァァ!!!
クンがトムとヤムを抱えて羽の軌道を避けるように飛んだのである。
ズザザザザザザ!!!
三人は間一髪、地面にヘッドスライディングをするような形でボリべの攻撃をよけることが出来た。
「ふん!!これ以上付き合ってられんわ!!」
そう言うとボリべは大きな羽を広げ空に飛び立っていった。
「クンーーーーーー!!!」
ボリべに抱えられたサンが小さくなって行く。
クンは絶望した。
自分の計画が失敗に終わったことに。
そして仲間にまで迷惑を掛けていたことに。
トムとヤムのために流していた涙はいつしか、自分の不甲斐なさに対する悔し涙になっていた。
もうこれ以上は追いかけられない。術もない。
仲間たちを想う気持ちが本心を上回っていた。
だからと言って、それを納得出来るわけではない。
だからクンの涙は溢れ続けた。
「いやぁ〜、油断した油断した!!!」
この空気に似合わない陽気な声が聞こえて来た。
クンがその方向を見ると男が一人で準備運動をしていた。
「さぁ、終わらせるぞ!!」
ドラキュラは動かしていた体を止めクラウチングスタートの構えをとった。
「いや、もう良いんですよ!!あいつは遥か遠くに行ってしまいました。今となっては何処にいるのか確認することすらできません!!もう、追いつくのは無理です!!」
クンの声は暗く重かった。
「いや、俺にはハッキリ見えているぞ!!」
「えっ・・・??」
「だから、あの化け物とサンの姿が今でもハッキリこの目に見えていると言ったのだ!!」
「そんな馬鹿な・・・???」
「それに、追いつくのが無理って、それはお前の話だろ!!俺だったらあのくらい簡単に追いつけるぞ!!」
ドラキュラの言葉は頼もしかった。
その頼もしさにクンはすがりたかった。
だが・・・
「気休めならやめて下さい!!もう、これ以上私たちに希望を見せないで下さい!!」
未来を照らしていた希望の光が消えたばかりのクンにとって、安易に期待することほど怖いものはなかった。
「悪いな、俺は今まで一度も気休めを言ったことがないのだ!!!」
「ドラキュラさまは、今までどんな困難も全て自分の力で解決してきましたからね!!」
クンとトムとヤムのそばにニニが来ていた。
「僕言いましたよね??"私たちがあなたたちを守ってあげるので安心してください!!"って??」
"自分はその言葉をかけられた記憶がある"と、ヤムは瞳を見開いた。
「"私たち"ではなく"俺"な!!!」
「はいはい。わかりましたよ!!」
"しょうがないなぁ"と言わんばかりにニニは笑った。
ドラキュラとニニのやりとりはシリアスに欠けていた。
だから、クンは絶望を和らげることが出来た。
だから、すがることが出来た。
「これが最後のお願いです!!クンを助けて下さい!!そしてボリべを倒して下さい!!」
クンの顔は再び涙で覆われた。
「最後のお願いを二つもする奴があるか!!だが、今日の俺は機嫌が良い!!だから二つとも聞いてやろう!!サービスだぞ!!」
そう言って、ドラキュラは自分が今から行く道をじっと見定めた。
「ハハハハハハ!!!これで俺の勝ちだ!!!」
教会を遥か彼方にして、ボリべはサンを抱えたまま空を飛んでいた。
「うっ・・・、うっ・・・」
サンはボリべに抱えられてからというもの、ずっと泣き続けていた。
「何を泣いている??俺と一緒にいられるのがそんなに嬉しいのか??さぁ・・・、俺とお前しかいない、誰にも邪魔されないところへ行こう!!そこで二人幸せになろうではないか!!」
サンの瞳に映る雲一つない空をボリべの声がよどませていった。
「私は、これから先もクンを愛していく・・・」
それはサンが唯一持つことを許された希望でもあった。
「何度でも言え!!それでもお前は俺と結婚するのだから・・・。そうだ、この大空を羽ばたいている今ここで、誓いのキスをしようではないか!!何というロマンチックなアイデア。これは素晴らしい!!」
「いや・・・、いやだ・・・」
「そうか、嬉しいのか??では、ここで一生忘れられない口づけを・・・」
そう言ってボリべがサンに唇を近づけた時であった。
ズドォォォォォォンンンンンン!!!
ボリべの目の前に突然男が現れたのである。
男はボリべの眼下に広がる森の地面を蹴り、天に向かって真っ直ぐ跳躍してきたのだった。
その勢いは凄まじく、あっという間にボリべを見下ろすほどにまで高く舞い上がった。
「ド・・・、ドラキュラ・・・、お前が何故ここにいる??」
ボリべは理解し難い現実に慌てふためいた。
「逆に問う、お前は何故まだこんなところにいる??」
「クソォ、クソォォォ!!それもお前の特殊能力か??」
「違うな、これは俺の身体能力だ!!」
ドラキュラは教会から自力で走って、自力でジャンプして、今この場にいるのだった。
ジャンプが最高点に達したドラキュラは、まるで海の中を泳ぐかのように空をかいた。
その凄まじい力と重力も相まって、とてつもないスピードが生まれ、その勢いにのりドラキュラはボリべに向かって行く。
ボリべはそんなドラキュラのちょうど真下にいた。
「待て!!早まるな!!この女は返す!!あいつらの家族も返す・・・」
ボリべは自分の頭から離れない"敗北"の二文字をかき消したくて、自分勝手な妥協を次々と口走っていく。
ギュルンギュルンギュルンギュルン!!!
ボリべに向かっていくドラキュラが回転を始めた。
「待て!!待て!!待てぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
ボリべの懇願は壮大な青空に吸い込まれて行くように、次から次へとかき消されていった。
ドラキュラは回転しながら、両手を握るようにして合わせ大きなゲンコツを作った。
「そんなに誓いのキスがしたいのなら、俺の拳としてろ!!!」
ドラキュラは回転に合わせて、ボリべの脳天に大きなゲンコツを叩きつけた。
バガァァァァァァンンン!!!!!!
「がべはぁぁぁぁぁぁ!!!」
ボリべは白目を向いたまま墜落していった。
もちろんドラキュラはボリべからサンを救出済みである。
ヒューーーーーーーーンンン!!!
ボガァァァーーーーーーン!!!
ボリべは勢いよく地面に叩きつけられた。
「忘れられないキスになったか??」
聞こえるわけのないボリべに向かってドラキュラがたずねた。
サンはポカンとしてドラキュラの顔を見ていたが、すぐにクスッと笑い笑顔になった。
ドラキュラはボリべに勝利した。




