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第21話 それでいい

 ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ、ドサッ・・・

 ドラキュラは担いできた兵士一人一人を丁寧に下ろしていった。


「・・・」

 ポロ・アチチは突然の来訪者に言葉を失っている。


「ドラキュラさま遅いですよ!!今まで何をしていたんですか??」


「人助けだろうが!!ニニがトムを助けてあげて欲しいって言うから、爆発予定のホテルまで向かってたんだろうが!!」


「それでも遅いですよ!!」


「しょうがないだろうが!!知らない街でちょっと迷ったんだから!!」


「ちょっとねぇ・・・」

 ニニは疑いの視線を送った。


「ふんっ!!全員連れて来たんだから結果オーライだろうが!!!」

 ドラキュラは兵士たちを下ろしながら話し続ける。


「貴様ら調子に乗るなよ!!」

 壁に叩きつけられたボリべが立ち上がり、二人の会話を遮るように言った。


「よいしょっと・・・」

 兵士を全員下ろし終えたドラキュラは最後にトム、ヤム、クン、そしてムーン(着ぐるみ)を下ろしていく。

 一番最初にトムを下ろし、次にヤムを下ろした。

 トムもヤムも意識はしっかりあるのだが、顔を上げることが出来ない。

 次にクンを下ろした。

 クンはすでに目を覚ましていた。

 それは、ドラキュラに担がれてから程なくしてのことであった。

 直ぐそばにトムとヤムがいるのを見つけて驚いたが、何から聞けばいいのかが分からず、今まで口は聞けていない。


「クン・・・???」

 それは誰にも聞こえないほどに小さな声だった。

 サンは暴発しそうになった感情を何とか必死に堪えながら声を発した。

 自分の声がクンに届けば、今までの振る舞いが泡になる。

 だからサンはこれ以上の言葉を飲み込むことにした。


 ドラキュラは最後にムーンを下ろそうとしたのだが、ムーンはいまだに目を覚まさないでいた。


「あのぬいぐるみは・・・」

 教会へと思い足取りで向かっていたサンは、ドラキュラの近くにいる着ぐるみ(ムーン)を見て、どことなく懐かしさを覚えた。


「こやつ・・・、全く起きんなぁ。となれば、エイッ!!」

 兵士たちを塊にしていた能力は使用者が指定した空間に物質を詰め込む能力であった。

 今ムーンは兵士100名ほどが入る空に浮いた無色透明な球体の中にいるような状態である。

 フワフワと呑気に眠りながら浮かぶムーンに若干の苛立ちを覚えたドラキュラは、ムーンを下さずに、先に能力を解除したのである。

 結果・・・。


 ゴッチーーーンンン!!!

 ムーンは地面に叩きつけられた。

 その勢いでムーンの着ぐるみ頭部が取れた。

 そして、ムーンはやっと目を覚ました。


「ムーン??ムーンなの??」

 サンが足を止めた。


「お姉ちゃん!!」

 ムーンは力強く叫んだ。


「どうしてここに・・・???」

 もう二度と会うことはないと思っていた妹が目の前にいる。

 サンは自分が夢を見ているのかと思った。


「助けに来たよ、お姉ちゃん!!」

 ムーンは必死に叫んだ。


「はははは!!何を言い出すかと思えば、助けに来ただと??じゃや何か??この女はさらわれてここに居るとでも言うのか??それじゃあ、まるで俺が悪者みたいじゃないか・・・」

 ボリべは不敵な笑みを浮かべながら話す。


「あなたはお姉ちゃんからクンという最愛の人を奪った、そしてクンからトムとヤムという大切な仲間を奪った・・・。そして、私からお姉ちゃんを奪った!!悪者以外の何があるっていうの??」


「はぁ〜???おいっ、聞いたかみんな??」

 ボリべは周りの部下たちを見回した。

 部下たちは一応にヘラヘラとしている。


「サンよ、俺がお前からクンを奪ったっていうのは本当か・・・???」

 ボリべは真顔でサンに聞いた。


「・・・」

 サンの口は自分の意志に反して沈黙を選んでいた。

 その唇はプルプルと震えていた。

 それは今にも口から飛び出そうな言葉たちを抑え込んでいる証拠だった。

 身体中を不快にさせている嫌な気持ちを、今直ぐにでも言葉にして吐き出したくて仕方がなかった。

 しかし、ここで真実を話せばみんなが不幸になる。

 自分一人のために何人もの人たちが辛い目に遭う。

 それは耐えられないことであった。

 だから、サンは自分を偽って口を開いた。


「い・・・いいえ」

 言葉に力はなかった。


「お姉ちゃん・・・」

 ムーンはうなだれた。


「ムーン。あなたがどう思おうと勝手だけれど、私は自分で選んでボリベさまと結婚することを決めたの。私の"幸せ"の邪魔をしないでくれる」

 言い終えて一呼吸置いた頃、サンの瞳から涙がこぼれ落ちた。

 サンは嗚咽がしそうだった。

 ムーンを遠ざけるため、ムーンの命のためとは言え、心にもないことを言い続けることはとても耐え難く、そして屈辱的なことだった。

 "本当はそうじゃない"その言葉を口に出来なかった。


「サン・・・」

 クンもサンの言葉に絶望した。

 ムーンに向けられた言葉が、まるで自分にも向けられたように感じたからである。

 ムーンやクン、そしてサンの周りを重たい空気が包んだ。

 それは周りの人々もほのかに包み込み、辺りに沈黙が訪れた。

 それを一人の男がブチ破った。


「なんかこの女ムカつくなぁ」

 ドラキュラが怒りをあらわにしながら言った。


「な・・・、ドラキュラあんた何言ってんの??」

 ドラキュラをいなすようにムーンが言う。


「ドラキュラさま、あなたはまだ感情が戻ったばかりだから、こういう難しい話はよく分からないんですよ!!いいから出しゃばんないでください!!」

 ニニはドラキュラの突拍子のない発言に苛立ちを覚えながら言った。


「いや、我慢出来ん!!一発ブン殴ってやる!!」

 そう言うとドラキュラは右肩をグルグル回しながら、サンのところへと歩き始めた。


 ズシン!!ズシン!!ズシン!!ズシン!!ズシン!!


 ドラキュラが一歩踏み締めるたびに地響きがした。

 "ドラキュラが本気で怒っている"

 その様子を見て、ニニは今のドラキュラは止められないと諦めた。

 そしてドラキュラはサンの前にたどり着いた。


「すごい迫力だね・・・」

 ポロ・アチチも流石に萎縮していた。


「覚悟しろ!!」

 大きく振りかぶった拳がサンめがけて振り下ろされた。

 サンはドラキュラのあまりの迫力に恐怖し、目をつぶった。


 ・・・・・・・・。


 しかし、ドラキュラの拳が一向に自分に当たらない。

 不思議に思ったサンは目を開けた。

 目の前には両手を広げて、ドラキュラから自分のことを守ろうとしてくれているクンの姿があった。


「これでもお前はあいつと結婚するのか??」

 ドラキュラがボリべを指差しながら、サンに尋ねた。


「え・・・??」

 サンはドラキュラの真意をまだ理解出来ていなかった。


「命がけでお前を守ろうとしてくれている人を裏切ってまで、お前はあいつと結婚したいのかと聞いているんだ!!!」

 ドラキュラの指差した方には我が身を守るために逃げ込んだ教会から、少しだけ顔を出してなりゆきを覗き見している結婚相手がいた。

 そして、目の前には命を投げ打ってまで自分を守ろうとしてくれている最愛の人がいた。


「自分の気持ちに素直になれないヤツが幸せを語るな!!!」

 このドラキュラの言葉はS極だったのかもしれない。

 そして、サンの素直な気持ちはN極だったのだろう。

 だからサンの本音はドラキュラの言葉に吸い寄せられるようにして、口から飛び出したのだ。


「イヤだよ・・・」

 一つ本音が溢れた。

 一つ涙も溢れた。

 "それでいい"と言わんばかりに、ドラキュラは優しく微笑んだ。

 サンの一度開いた感情の鍵はもう閉めることが出来なかった。


「本当はクンと結婚したい!!私はクンを今でも愛している!!」

 サンの涙が止まらなくなった。


「サン・・・」

 クンはくしゃくしゃの泣き顔でサンの方を振り向いていた。


「ムーンとも、もっともっといっぱいいっぱい話がしたい!!」


「お姉ちゃん・・・」

 ムーンもまた姉に負けず劣らずの泣き顔になっていた。


「それでいい!!」

 ドラキュラがサンを誉めた。


「ドラキュラさま、あなたって人は・・・」

 ニニは数分前までの自分を恥じた。


「そうと決まればちょっと待ってろ!!俺が、今からこいつらをボコボコにしてくる!!」

 そう言ったドラキュラの背中は、サンとクンの目にとてつもなく大きく映った。

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