第20話 ご祝儀
「はぁ〜、もう着いただろうか??」
「多分着いているんじゃないか??」
「全く、ボリべさまには困ったものだ!!人質を二人も置いて自分は先にどんどん行っちゃうんだから」
「しょうがないだろ、だって"ポロ・アチチさまが式場に到着された"って連絡があったんだから」
「出世欲の強い人だからな、こういう時にキッチリしたところを見せてアピールしておきたいんだろう」
「自分が主役だってのに大変だよなぁ・・・」
「全く・・・。一体俺たちは誰を持ち上げれば良いんだよ!!」
「まぁ、今はコレだよな」
「zzzzz・・・」
数十名いる兵士たちに担がれてムーンは運ばれていた。
しかし、当の本人は自分が人質になっていることなど未だ知らない。
トウヤとの戦いののち、疲労で倒れてしまったまま、現在に至るため、現状を把握できていないのである。
ちなみにムーンは今、取ったはずの着ぐるみの頭部分を被っている
なぜならムーンが気を失った後、契約が切れて消え始めた肉肉人が、なんとなく被せたからだ。
肉肉人は目一杯加減したつもりであったが、実際は着ぐるみの頭部分が体部分に思いっきりめり込むほどの力で被せられた。
そのため、多少揺れる程度では着ぐるみの頭は取れることはなかった。
「二人も人質がいるなんて、相手側からすればもう手の打ちようがないんじゃないのか??」
そう言って兵士はもう一人の人質に目をやった。
そこには、ムーンと同じように担がれて連行されているクンの姿があった。
クンもまた、ボリべと出会い攻撃を受け気絶してから起きていない。
「んで、そろそろこいつらの部隊に潜り込ませていたもう一人のスパイも戻ってくるんだろ!!」
「あぁ、街の方で爆発騒ぎを起こすよう指示されていたみたいだぜ!!だよな??」
と、兵士が視線を送った先にはトボトボと一緒に歩くヤムの姿があった。
「・・・はい」
ヤムはかろうじて聞き取れる声で答えた。
「お前らも酷いよなぁ。大切な仲間を売っちまうなんてよ」
「・・・」
ヤムは何も答えない。
「まぁ、それが正解だ!!俺たちに逆らっても良いことなんて何もなかったんだからな!!どうせ元カレか何かが新婦さまを盗られたとかイチャモンつけて逆恨みしてんだろ!!」
「・・・」
やはりヤムは何も答えない。
しかし、その胸は、クンを裏切った罪悪感で今にも押し潰されそうになっていた。
「全く・・・。爆発騒ぎを起こしたり、ホッカ王国の隊長の結婚式を妨害したり、悪いことを考える奴らがいたもんだ」
「だな!!ボリべさまが手を打っていなかったら、今頃どうなっていたことか??流石はボリべさま!!計画に抜けがない!!」
「それにしてもさっきの凄かったよな??」
「あぁ・・・。あれだろ??」
「そう・・・。ボリべさまってあんなに身体能力高かったんだな。意外だったよ!!」
「俺も思った!!ボリべさまは、てっきり頭で勝負するタイプの方だと思っていたから・・・。まさかあんなに早く走れるなんて・・・。みんな一瞬で置いて行かれたもんな!!そしてこのザマだよ!!流石は隊長だよな、あのスピードは人間のレベルを超えてるぜ!!」
「あれだけすごければ、人質なんてとらなくても、こんな集団一蹴できるんじゃないかって思うが・・・」
「念には念をってことだろう。ボリべさまらしいな」
「あの動きを見て改めてわかった。あれは隊長たちが常に鍛錬に励んでいるという、確固たる証拠だ!!俺たちも見習わないとな・・・」
「そうだな」
「とりあえず教会へ急ごうぜ!!」
「あぁ!!」
ボリべに置いて行かれた兵士たちは改めて一致団結した。
自分がいる部隊の偉大さを知ったからである。
そして、その隊長が想像以上の強者だと知ったからである。
兵士たちの士気は、クンたちの結束力とは対照的に上がっていった。
「おっ、見えたぞ!!」
一人の兵士が遠くに教会を発見した。
しかし、そこに誰がいるのか??何をしているのか??までは認識できない。
兵士たちが状況を確認しようと目を凝らしていると、教会とは反対の方から足音が聞こえてきた。
ドドドドドド!!!
「お〜い!!お〜い!!」
足跡と共に声も聞こえてきた。
「おっ!!あの声は・・・」
「あぁ、どうやら間に合ったみたいだな!!」
兵士たちは声を聞いて、同僚がトムを連れて戻って来たのだと察知した。
実際その通りで、視線の先に同僚とトムを確認できた・・・が、兵士たちの見たソレは想像とは少し違っていた。
「改めて、ボリべ結婚おめでとう!!」
「なんとも、もったいなきお言葉。ありがとうございます!!」
「幸せになるんだよ!!」
そう言って、ポロ・アチチはニコリと笑った。
「あのぉ・・・、まだ決着ついて無いんですけど」
ニニが剣を上から下に振り下ろし、ポロ・アチチに急襲を仕掛けた。
ボダン!!!
しかし、ニニは飛んできた何かに当たり体勢を崩した。
その結果、剣は空振り。急襲は失敗に終わった。
「どこの馬の骨か知らんが頭が高いぞ!!」
ニニに攻撃をしたのはボリべであった。
「痛たたたた」
ニニは顔をさすり、手についた何かの残骸を確認した。
「泥・・・??」
「その通り!!俺は泥魔法の使い手だ!!」
「助かったよボリべ!!」
「いえ、当然のことをしたまでです」
"ククク、これでまた一歩昇進に近づいたぞ"
ボリべの今の行動は上司への忠誠心ではなく、自身の昇進への種まきであった。
「なるほど・・・、使い手にお似合いのねちっこい能力だ!!」
「言ってろ!!どんな手を使ってでも手に入れれば良いんだよ!!」
「その執着心は少し共感できますけどね!!やり方には全く共感できませんよ!!」
ブオン!!!
ニニは、今度はボリべに向かって攻撃を仕掛けた。
シールドフレイム
ガッキィィィィィィィンンン!!!
今度はポロ・アチチの炎の盾がボリべを守った。
「ありがとうございます!!」
「いや、部下を守るのは上司の役目だからね!!」
ポロ・アチチの今の行動は、責任感と思いやりによるものだった。
「ヤバいぞ・・・。ただでさえ劣勢だったのに、2対1になってしまった」
ニニの頬を嫌な汗がひとすじ流れた。
「新郎も戻って来たことだし、本当にそろそろ終わりにしよう!!」
アニマルフレイム ホーク&イーグル
鷹と鷲の姿をした炎がニニに向かって飛んできた。
「ヤバいっ!!」
ニニは炎を避けようとした。
しかし・・・。
「動かない!!」
ニニの足が動かないのである。
「ははは!!地面の泥を操作して、お前の足を固めた!!これで身動き取れまい!!ポロ・アチチさまの炎をありがたく頂戴しろ!!」
ボッガァァァンンン!!!
炎は二つともニニに直撃した。
「ガッハァァァ・・・」
ニニは全身から煙を上げながら膝をついた。
そして、これで終わりと言わんばかりにボリべとポロ・アチチが攻撃をしようとした時であった・・・。
キキキィィィ!!!
決着の空気を遮るように、教会の前に馬車が到着した。
「新婦サンさまが到着されました!!」
一人の兵士が馬車から降りて大きな声で報告した。
「おぉ!!!」
ボリべは目を見開いた。
馬車の中からウェディングドレスを着たサンが降りてきたからである。
「これは素晴らしい!!」
ポロ・アチチも思わず見惚れた。
「何も出来ないまま、相手の計画だけが進んでいく・・・。終われない、このままでは終われない・・・」
ニニは満身創痍になりながら、ついた膝を地面から離した。
ニニは覚悟を決めたのである。
しかし、その覚悟は一瞬で揺らいでいく。
なぜなら・・・。
「ボリべさまぁぁぁぁぁぁ!!!」
遠くの方から声が近づいて来たからである。
ニニも声の方へ目を向けた。
よく見ると数名の兵士が木の上を走るようにしてこちらに向かって来ている。
ホッカ王国ではただの兵士でさえこんなことが出来る。
ポロ・アチチが自分を褒めていたのは、やはり皮肉だったのだと改めて思った。
ニニはさっきよりも注意して、近づいて来る兵士を見た。
そして確信した。
この状況をどうにかすることは、自分には出来ないのだと。
「おぉ、戻って来たか!!ははは、反逆者よ残念だったな!!俺の仲間たちが戻って来たぞ!!!まだ良く見えないだろうがお前の仲間たちも人質として連れて来ている!!さぁ、役者は揃った!!お前たちをまとめて葬ってやろう!!ハハハハハ」
「ボリべさまぁぁぁぁぁぁ!!!」
空を飛ぶようにして兵士たちが教会に近づいて来る。
「お前、一端の兵士のくせにそんなことまで出来るようになったのだな!!」
ボリべは部下を思いやる上司を演じて見せた。
「ボリべさまぁぁぁぁぁぁ!!!助けてくださぁぁぁいいい!!!」
「えっ???」
近づく部下たちが鮮明に見え始めた頃、ボリべは目を疑った。
「はぁ、僕にはこの状況をどうにかすることは出来ない・・・。だってあなたが到着してしまったんだから・・・。はぁ、全部持って行かれちゃうよ・・・」
ニニは悲しそうにしながらも、これからの展開にワクワクしていた。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
なんと兵士は空を飛んでいたのではなかった。
数百名の兵士が全員まとめて、大きな大きな人の塊として担がれていたのである。
もちろん担いでいるのは・・・。
「やっちまえ、ドラキュラさま!!」
ニニは楽しそうに呟いた。
「受け取れぇぇぇ!!!これがテメェへのご祝儀じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドバガゴォォォォォォォンンン!!!
勢いに乗ったドラキュラの蹴りがボリべの顔面にヒットした。
ボリべはそのまま吹き飛び、教会の壁に激突した。




