08.月夜の晩に
作戦会議を終えて、俺たちはそれぞれ寝床についた。
香織は新一の祖母と2階の寝室で。
俺たちは居間で雑魚寝だ。
俺は何となく眠れなくて、居間にある縁側に座り、夜空に浮かぶ上弦の月を見上げていた。
「眠れないの?」
「香織もか」
香織が寝間着に上着を羽織って声を掛けてきた。
新一の母親のお古らしい。
「まあね」
香織はこくんと頷いて、隣に腰を下ろす。
「弥彦にしっかり休めって言っておきながら、自分が寝てないんじゃ仕方ないよな」
俺は無理に笑ってみせる。
香織は何も言わずに月を見上げている。
長い睫毛が夜空によく映える。
「みちると咲、大丈夫かな」
足をぶらぶらさせている香織が下を向いて呟く。
「あの作戦、けっこう不安な所も多いよね」
俺はその言葉に驚いて香織の顔を見る。
「気付いてたのか」
俺は思わず苦笑する。
「詳しい内容は難しくてあんまり分からなかったけど、悟も新一も、不安そうな顔してるんだもん。
京也なんてひきつってたし、もうバレバレ」
香織は思い出したように笑っている。
バレないように努めていたが、顔に出てしまっていたのか。
「でも、私と弥彦を不安にさせないようにしてくれてたんでしょ。
それも分かったから、大丈夫」
囁くように、香織が優しく呟く。
下ろした長い髪が、夜風にそよいでいる。
「そうか」
俺がそれだけ言ったあと、
「でも、みちるも咲も、数日は大丈夫だろう。
希望的観測に過ぎないが、連れ去った奴らもしばらくは様子を見るはずだ。
スーパーで罠を張るような奴らだ。
頭の切れるリーダーか参謀がいるんだろう。
それならば、軽はずみな行動をして、逃走者に選ばれる可能性のある者を失いたくはないと考えるはずだ。
これは、本当だ」
「ふふっ」
何とかそう言うと、香織が手を口に当てて笑う。
「…………ありがとう」
香織は月を見上げてぽつりと呟く。
こんな夜空でも、香織の額はぼんやりと光を放っている。
俺はそれを見て、ぎゅっと拳を握る。
「香織。
俺が必ずみちるも咲も助け出す。
そして、香織のことは俺が必ず守る。
だから、安心してくれとは言えないが、俺のことを信じてくれ」
俺は香織の顔を真っ直ぐ見つめてそう告げた。
「疑ったことなんてないよ」
そう言って笑う香織の顔は、とても美しく見えた。
「香織……」
俺は香織の頬にそっと手を伸ばす。
2人の顔が近付いていく。
「……おい!押すなって!」
「あ、やべ!」
「ちょ、ちょっと!」
「「「わあああぁぁぁぁっ!!」」」
そこに、居間の襖をなぎ倒して、新一たちが倒れ込んできた。
「何してんだお前らっ!」
俺は動揺しながら3人を指差す。
「いやー、お約束ってやつ?」
「くそー。もーちょいだったのに」
「ふ、ふたりって、そういう感じだったんだね」
3人は好き勝手に喚いている。
「まったく、何してるんだい」
新一の祖母が廊下から現れる。
「……ばあちゃん。
ばあちゃんも見てただろ」
新一がじとっと祖母を見やる。
「いやいや、若さってやつだねえ」
新一の祖母はほっほっほっと笑いながら、寝室に戻っていく。
「おまえら、
さっさと寝ろーーーーっ!!!」
月夜に、俺の叫ぶ声がこだました。




