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07.不安

「ど、どうして」


香織は動揺を隠さずに新一に尋ねた。


「すまない」


それだけ言って、頭を下げる新一。


「……とりあえず、詳しく話を聞かせてくれ」


俺がそう言うと、新一の祖母が居間に来るよう促す。

そこで、詳しく話を聞くことにした。







俺たちは居間で、新一たちからスーパーでの話を聞いていた。


「待ち伏せして、人を連れ去ってるのか」


俺は新一の話を聞いて、ぽつりと呟く。

嫌な予感しかしない。


「ああ。

それで、一回家に戻ろうって話をしてたんだが、そこに、清水咲が家族で現れたんだ」


「咲が!?」


香織がその名前に声を上げる。


清水咲は俺たちのクラスメートで、みちると同じ部活であり、みちるの親友でもある。


「だいぶ焦っていたんだろう。

清水一家はスーパーが開いているのを見ると、嬉しそうに中に駆けていったんだ。

そのあとすぐに、清水たちの悲鳴が聞こえた。

そうしたら、みちるは清水たちを助けるためにスーパーに向かって走り出してしまったんだ」


新一は顔を歪めて、悲痛な面持ちを見せた。


「止める暇もなかったよ」


新一はそれだけ言うと、黙り込んでしまった。


「そのあと、みちるの怒鳴る声が聞こえたが、車の音でかき消された。

一緒に連れ去られたんだろう」


京也が新一の後を継いで話す。


「俺は考え込む新一と、すっかり怯えちまってる弥彦を連れて、ここに戻った。

取り返すにしても、そうじゃないにしても、武器も何もない状態じゃ行くだけ無駄だし、お前らにも話す必要があるだろうしな」


京也はそう言って、出されたお茶を一気に飲み干した。

落ち着いたのか、新一が再び口を開く。


「悟。

奴らは人を連れ去って、何をしていると思う?

悟の意見が聞きたい」


新一は俺の方を真っ直ぐ見て、そう尋ねてきた。

皆も俺を見ている。

弥彦だけは膝を抱えて、俯いてしまっている。


「おそらく、新一と同じ考えだ。


まずは、単純に労働力。

食料や医療品、機材の確保や、根城があるならバリケードの設営とかな。


次に、身の回りの世話係か。

今はまだ水光熱が使えるが、この隔絶された状態では、いつどうなるか分からないからな。

女性には、いろんな意味での世話をさせるつもりだろう」


香織がその意味を察して顔を青くする。


「そして何よりも、奴らの密告用として使うためだろうな」


「やはりか」


新一と京也は何となく同じようなことを考えていたようだが、他の皆は驚いたような顔をしていた。


「だが、捕らえた奴がたまたまお題に当たるか?

それだと、けっこうな数が必要になんだろ?」


京也は自分も行き着いたのであろう疑問を口にする。


「たまたま当たるのを待つ必要はないんだよ」


俺はそれに冷静に返す。


「は?

お前、それまさか」


京也も気付いたようで、嫌な顔をした。

新一も同じようだ。


「逃走者にならないなら、してしまえばいいんだ」


「ど、どういうこと?」


香織が不安気に尋ねる。

弥彦も青い顔で首を傾げている。


「今回のような、年齢がお題になっているものはどうしようもないが、そういうものはカバーできる範囲が広くて該当者が多くなる。

それなら、逃走者を見つけることも簡単だろうし、捕らえた人の中にいる可能性は高い。

それよりも、おそらく今後、お題はピンポイントを突いてくる可能性も考えられる。

人を減らしすぎるわけにもいかなくなってくるだろうからな。

逃走者になる人があまりいないようなお題とかな。

そうなった時、密告でお題回避のポイントを稼ぎたい奴らは困る。

あまつさえ、ポイントのない時にそのお題に該当してしまうかもしれないから、なおさらな。


だから、奴らはなるべく密告したい。

でも、お題に該当した人がいない。

それなら作ってしまえばいい。


それが、奴らの考え方だ」


「ど、どうやって?」


香織が怯えた様子で尋ねてくる。


「たとえば、

体の一部が欠損した人、というお題になったとしたら、捕らえた人の指でも何でも落としてしまえばいい。

2日間食事をとっていない人なら、食事を与えなければいい。

今日、入浴した人とかなら、自分たちだけ風呂に入れば、他の全ての人が逃走者だ」


「そ、そんな」


「ひ、ひぃっ」


香織も弥彦も怯えている。

無理もない。

俺だって胸くそ悪くなる。


「待って!

じゃ、じゃあ!

みちると咲も!?」


香織はハッとして声を上げる。


「このままでは、おそらく」


「た、助けに行かなきゃ!」


俺の返答に、弥彦がガタンと立ち上がる。

今まで怯えていたのに、急にどうしたんだ?


「アホっ!

だから、何の準備もなしに行けねえっての!」


弥彦は京也に叩かれて、しぶしぶ席に座った。


「で、でも、このままじゃ、危ないじゃないか。

みちるも、もしかしたら、あいつらに乱暴されるかも」


弥彦はぼそぼそと呟いていた。

どうやら、弥彦はみちるに気があるようだ。

それなら、確かに焦る気持ちも分かる。

俺はチラッと香織を見る。



「助けに行こう」



俺がそう言うと、


「まずは武器だな」


「あとは携帯食糧も欲しい。

数日過ごせるだけの装備もだ」


「車がどっちに行ったか覚えてるか?」


「スーパーの裏口を西に。

その先には工場地帯もある。

その辺りだろう」


京也と新一が次々アイデアを出していく。


「お前ら、初めからそのつもりだったのか」


俺が呆れたように溜め息を漏らすと、


「当たり前だろう。

大事なクラスメートだ」


「まあ、このままほっとくのも気が引けるし、そもそも連れ去った奴らが気に食わねえ」


二人がそれぞれそう答えた。

香織と弥彦も少し顔を明るくし、作戦会議に混ざる。

新一の祖母は備蓄の食糧で持ち運べるものがないか確認しに行ってくれた。


「今日はとりあえず作戦を詰めよう。

明日は朝から資材集めと、奴らの根城の特定だ。

揃い次第、家で準備を整えて、次の日の深夜に出発する。

奴らの根城の徒歩圏内で見つからないように夜を過ごし、早朝、日が昇る前に侵入する」


俺はこれからの計画を伝えた。


「そ、そんなのんびりしてていいの?

みちる、たちが危ないんじゃ」


弥彦が心配そうに尋ねてくる。


「しっかり準備して、なおかつ休養をとらないと、俺たちまで捕らえられたら意味がない。

他に助けに来てくれる人がいるわけでもないんだ。

失敗は許されない」


俺の言葉に、弥彦は怯えた様子だった。


「だが、乱暴されていないことがお題になる可能性もある。

奴らもおいそれと軽はずみなことは出来ないだろう」


「そ、そっか。

そうだよね」


そう言ってやると、少し安堵した顔を見せた。


弥彦にはそう言ったが、懸念材料は多すぎる。

奴らの数も武装具合も分からない。

資材を手に入れられるかも分からない。

明日以降のお題もどうなるか。

それ次第では、作戦が根底から覆る可能性だってある。

奴らも連れ去った人を、お題用とそれ以外用とで分けている可能性も考えられる。

もしみちるたちが奴らの処理用に選ばれていたら…………


新一と京也も同じようなことを考えているのか、二人とも難しい顔で考え込んでいる。


「ともかく、今日は作戦を詰めたら早く寝よう。

明日は朝から動くからな」


「う、うん」


俺の言葉に、たどたどしく頷く弥彦だった。

香織はずっと青い顔で、考え込んでいるようだった。



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