43.ダッシュラン
「うおおおお~~~~~っ!」
俺と京也は走っていた。
ミノタウロスとケンタウルスに追いかけられながら。
こいつら、ものすごく速い。
こちらが小回りを利かせて路地裏を回ってなければ、とっくに潰されてる。
「新一のやろー!
ふざけんなよ!
なんでいっつも、俺たちゃこんな役回りなんだよ~!!」
京也が文句を叫びながら走り続けている。
正直、今回は俺もそう思っている。
それぐらいしんどい。
すでに20分は全力疾走している。
手に抱えるコレを手放さないようにするのに必死だ。
新一、香織、頼むから早くしてくれ!
暗闇の空間で、ピエロ悪魔が腹を抱えて笑っている。
「あーっはっはっはっはっ!!
よく逃げ回るものですねー!
そんな小さなもの、さっさと手放してしまえばいいのに!」
「な、なんだそれ」
黒鬼が出現させた小さな物体に、俺は何とも言えない気味悪さを覚えた。
「これは赤ん坊を真似て作った擬似生命体だ。
もちろん生き物ではない。
体温と動悸は人間の赤ん坊のそれに似せておいた。
これに、次のお題変更時に逃走者と同じ波長が流れるように細工をする」
黒鬼はそう言って、どう見ても赤ん坊にしか見えないソレの、足の部分をつかんでぶら下げた。
偽物だと知っているのに、その行為に何となく胸くそ悪くなる。
「俺たちが転移する時、一度、亜空間を経由することは?」
「想定はしている」
新一の答えに黒鬼が頷く。
「その時に、俺がピエロ悪魔のいる亜空間に時空を繋げよう。
お前たちは、コレで鬼たちを誘き寄せて、何とかしてミノタウロスとケンタウルスにつかまり、その空間まで行ってもらいたい。
そして、そこにある悪魔の書を燃やすんだ」
奇しくも、それは新一が工場の見張りを生け贄にやろうしていた作戦と同じものだった。
「あなたが今ここで俺たちをその空間に飛ばしてくれればいいのでは?」
俺の質問に、黒鬼が首を横に振る。
「いろいろと制約があってな。
故意に人を亜空間に送ることは出来ないんだ。
その場合、送り出した悪魔は罰を受ける」
「そうか、わかった」
そう言われたら頷くしかない。
「ちなみに、そのピエロ悪魔ってのは、俺たちが本を燃やそうとするのをおとなしく見たりなんかは~」
「しないな」
「だよな~」
「そいつは、どれぐらい俺たちに干渉できるんだ?
ルール外では、俺たちを傷付けられないんだろう?
そいつに攻撃しなければ、あちらはこちらを攻撃できないって認識でいいのか?」
新一の質問に、黒鬼が首肯する。
「その通りだ。
だが、攻撃は出来なくても拘束は可能だろう。
奴に捕まれば、すぐにこちらの世界に戻されると思った方がいい」
「捕まらなければ、すぐには戻されないってことか?」
俺の質問に、再び黒鬼は頷いた。
「空間を移動するには、繋げたい空間に一定時間待機しなければならないんだ。
だから、向こうに着いたら常に動き続け、奴に空間を指定させる暇を与えるな」
黒鬼はそう言うと、赤ん坊もどきをもう一体出現させ、それぞれを俺と新一に渡した。
おくるみに包まれ、確かな温もりと、どくんどくんと胎動するソレは、どう見ても赤ん坊にしか見えなかった。
「俺は今から空間を繋げる準備に入る。
奴に気付かれずに空間を繋げられるのは、おそらく数秒だろう。
でき次第合図するから、それまでの間、お前たちにはミノタウロスたちを指定の場所まで導くように誘導してほしい」
「……俺たちかい!」
俺と京也を見る黒鬼に京也がツッコミを入れた。
「……いや、何となくそんな気がしてな」
悪魔にもそう思われるのか。
まあ、そうなんだろうけど。
「俺もそのつもりだった。
俺には準備したいものもあったし、香織をそこには巻き込めないだろう?」
「あーはいはい。
いつも新一様には助けてもらってますよ」
新一の言葉に、京也が両手を挙げて降参した。
「だからって、こんなに全力疾走じゃなくても良くないかぁ~~!!」
京也はもはややけくそで走り続けていた。
そのあともしばらく走り続けていると、遠くで懐中電灯の明かりが明滅する。
「京也!
来たぞ!合図だ!
あそこまで走るんだ!」
「おっしゃー!」
そして、俺たちは鬼たちを引き連れたままで指定の場所まで足を動かした。




