04.人、とは
「三枝木先生が!?」
「な、なんで?」
皆も初耳だったようで、京也に詰め寄っていく。
「なんでかなんてわかんねえよ!
俺はあの映像が流れて、よく分かんなかったけど、さっさと帰ろうと思って屋上から下駄箱に向かって降りてたんだ。
その時に職員室から叫び声が聞こえて、中を覗いたら、三枝木が校長と教頭をナイフで刺してたんだよ!
他にも、三枝木にやめるように呼び掛けてた教師はいたけど、あいつは、自分の考えに賛同できないなら仕方ないとかって言って、楽しそうにそいつらを切り刻んでた。
あとに残ったのは、あいつに逆らわなかった教師たちだけだ」
京也はその時のことを思い出したのか、顔が青ざめていた。
「それで、こいつはヤバいって思って、走って下駄箱まで逃げたんだ。
それで裏門に向かってる時に、あの放送が流れた。
俺は途中で会った奴らには警告したんだが、俺みたいな奴の言うことを信じる奴はいなくて、皆、三枝木を信用して体育館に向かっていった。
俺はさすがに怖くなって、1人で裏門から逃げたんだ。
でも、俺も電車通学だったし、どこに行こうかとウロウロしてる所で、新一たちに会ったんだよ」
「そ、そんな……」
香織はまだ信じがたいようで、青い顔で震えていた。
俺だってそうだ。
三枝木は生徒の相談にも親身になって応えてくれる、とても頼りになる教師だ。
そんなことをするような人には思えなかった。
自分が助かるために、生徒を鬼に売るようなことを。
「や、やっぱり、僕が見たのは、見間違いじゃなかったんだ」
「弥彦?」
弥彦が俯いたまま、ぽつりと呟いた。
「ぼ、ぼく、あの時、体育館で鬼が出てきて、怖くて逃げたんだけど、体育館を出る時、チラッとステージを見たんだ。
そしたら、三枝木先生は楽しそうに笑ってた!
ずっと、ずっとそんなわけないって言い聞かせてたけど、やっぱり、そうだったんだ」
弥彦はそれっきり黙ってしまった。
皆も一様に沈んでしまった。
「人はね、本当に追い詰められた時に、その人の本当の顔が見えるものだよ」
「ばあちゃん」
皆が沈んだ表情をしていると、新一の祖母がそう呟いた。
「私も若い頃はいろいろ騙されたりもしたよ。
皆から慕われてて、人気もあって、そんな人でも、いざというときには情けないほど自分のことしか考えてなかったりもする。
それが人ってもんだ。
本当に大変な時に、人に手を差しのべてあげられる人が本当に立派な人なんだと思うよ。
だから私は、新一がこんな時にでも、友達を助けようと一緒に連れてきてくれたことが、本当に嬉しかった。
立派になったんだねえ」
新一の祖母はそう言って目を細めた。
皆の空気も、少しは和らいだみたいだ。
「ばあちゃん。
ありがとう」
新一は下を向いてそう言ったあと、すっと顔を上げた。
「済んだことを言っても仕方ない。
まずは、俺たちがこれからどうするかだ。
理想は100日間、誰にも見つからずにここで過ごすことだ。
そのために、それに必要な物資を計算しよう。
その上で、すぐにでもそれらを入手しにいきたい。
時間がたてばたつほど、同じように考える人が増える。
そうなれば、当然物資も減る。
後半になれば、それらの奪い合いに発展することも考えられる。
何より外に出る人が減れば、それだけ鬼に見つかりやすくなる。
だから、逃走者に選ばれていない者が多くいる今のうちに、必要な物資を取りに行こう!」
新一の意見に、皆が賛同する。
香織だけは、まだ浮かない顔をしていたが。
「よし。
必要な物資は把握できた。
スーパーと薬局と工務店を回ろう。
ばあちゃんと香織は留守番だ。
あと、悟も2人の護衛を兼ねて残ってくれ。
調達には、俺たち4人で行く」
「ああ。
分かった」
俺はそれに頷く。
香織もこくりと頷いていた。
「え!
ぼ、僕もいくの!?」
弥彦が驚いたように声を出した。
「ああ。
荷物の持ち手は必要だ。
ここに残るのにも、最低限の腕前は必要だろう。
それなら、悟が適任だ」
新一はそう言って俺を見やる。
俺は空手道場の師範をしている親父の一人息子だ。
当然、幼い頃から空手をやらされ、高校では部活にも入らず、帰ったら毎日空手の稽古をしていた。
だからこそ、新一は留守を俺に任せたんだろう。
「で、でも」
「あー!はいはい!
時間ねえんだろ!
さっさと行こーぜ!」
弥彦はまだ不満そうだったが、京也に肩を組まれて連れていかれていた。
「香織!
美味しいご飯いっぱい持って帰ってくるから待っててね!」
みちるが香織にそう言うと、
「う、うん。
気を付けてね」
香織もみちるの手をとってそう言った。
「じゃあ、ばあちゃん行ってくる」
新一が祖母にそう言うと、
「はいはい。
気を付けて行ってくるんだよ」
祖母は穏やかにそう応えた。
そのあと、新一は玄関で俺に振り返り、
「頼んだぞ」
とだけ言ってきた。
「ああ。
そっちもな」
俺もそれに応える。
新一はそれに笑って応え、4人は町に降りていった。




