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36.3ーAにて

「な、なんですか、これは!?」


 3ーAで優雅にステーキにかぶりついていた三枝木は突然の爆音と震動に動揺していた。


「す、すぐに調べなさい!」


「は、はいっ!」


 三枝木に言われ、教室にいた者たちがバタバタと駆け出していく。


「まったく、次から次へと、何なんですか」


 三枝木はやれやれと溜め息を吐きながら再びステーキにフォークを突き刺した。


「ようやく、私の王国が出来たのです。

余計な野暮はなしにしてもらいたい所ですね」


 そう言って、持ち上げた肉にかぶりついた所で、教室のドアが開く。


「早いですね……おや、君は、」


「先生!大丈夫ですか!?」


 悟が息を切らしてやって来た。


「悟君、どうしたのですか?」


「外ですごい爆音が聞こえて、状況確認はきっと誰かがしてるだろうから、警護を命じられた身として、先生の元に行った方が良いかと思って」


「なるほど。

その殊勝な心掛けは良いですよ。

実際、ここにいた者たちは確認に出してしまった。

君には私の警護を改めて任せましょう。

このポイントは高いですよ」


「あ、ありがとうございます!」


 三枝木が微笑みをたたえながら言うと、悟は嬉しそうに頭を下げ、その姿に、三枝木は満足そうに頷いた。


「ふむ。爆音、ね。

誰かの仕業ですかね」


 三枝木は顎に手を当てながら考えていた。


「ここに来る途中、窓から見た限りでは、体育倉庫から煙が出てました。

何人かが消火器を持ち出してたから、すぐに消火できると思います」


「……そうですか」


 悟の言葉に、三枝木はさらに思考を重ねる。


『体育倉庫?

特にめぼしいものはないはずですが、いったい何が目的なのか。

ただの事故?

そんなことはないか』


「……それにしても、確認に行った方たちは遅いですね。

いつまでかかってるのやら」


「消火活動を手伝ってるのではないですか?」


「……ふむ。

にしても、私への報告を行うのが先でしょう。

まったく」


『使えないクズどもがっ!』


 三枝木は心の中で悪態を吐きながら、ステーキにダン!とフォークを突き刺した。


「おー!良いもん食ってんなー!

三枝木せんせーよー!」


「君は?」


「京也っ!?」


 突然、教室のドアをガラッと開けて、京也が入ってきた。

 鉄パイプを肩に担いでいて、金髪ヤンキーの京也の姿は、完全にお礼参りだ。


「誰かっ!

誰かいないのですかっ!」


 三枝木は教室の外に声をかけるが、その声に応える者はいなかった。


「誰も来ねーよ。

みんな消火に手一杯だし、それ以外の奴らにはおやすみしてもらったからよ。

あー、一人じゃねーよ?

さっき悟にやられた仲間も解放したからよ」


「……この騒ぎは君の仕業ですか」


 三枝木は京也の姿に、ハァと溜め息を吐いた。










 京也は素晴らしい演技力を発揮していた。

 俺の、三枝木に媚びを売るのに必死な生徒役が恥ずかしく感じるぐらいだ。

 まあ、ほぼ素のような気もするが。


 誰も三枝木の助けには来ない。

 どうやら、作戦はうまくいったようだ。

 今ごろ、俺が倒して、京也が救出した仲間が新一とともに敵を倒し、3ーDに捕まっている人々を解放しているはずだ。

 体育倉庫の消火に何人も群がってくれたのはありがたかった。

 もともとちゃんと統率の取れた奴らじゃなかったから、いざという時の判断が弱い。

 ただぼーっと消火活動を野次馬してる奴までいるのだろう。

 三枝木を狂信的に支持してる奴らは真っ先にここに来るだろうしな。

 そんな奴らは京也の仕掛けた罠で一網打尽だ。

 動けなくなった所を京也が縛って、今ごろは隣の教室で転がっているのだろう。

 この教室にいた奴らも、急いで現場に向かってる時に、新一が階段に仕掛けたピアノ線でまとめて行動不能。

 そこに京也が来て、ふんじばる。 

 新一たちは捕まっている人々を助けたら、外に出た奴らが校舎に戻ってくる所をまとめて銃で脅して捕縛。

 あとは三枝木を押さえれば制圧完了だ。


「さて、三枝木さんよぉ。

これ、なんだか分かるかぁ?」


 京也が鉄パイプを投げ捨て、がちゃりと銃を三枝木に向ける。


「な、なぜ君が、そんなものを」


 さっきまで冷静だったが、さすがに銃を向けられて動揺したのか、三枝木は後ろに何歩か下がりながらたじろいだ。


「なんでだろぉーなぁー?」


 京也はへらへらと笑いながらも、銃口を三枝木から動かすことはしなかった。


「……なるほど。

工場は、君の仕業でしたか」


 三枝木は京也の持っている銃を見て、合点がいったようだった。

 映画で見るような銃。

 そんなもの、持ってるとしたらカタギじゃない。

 工場を占拠していた奴らが、そういう輩だって情報を得ていたんだろう。


「……動くな」


 じりじりと後退しようとしていた三枝木に、京也が凄む。

 三枝木はびくっとして、その場に留まった。


「…………」


「…………」


 少しの沈黙のあと、


「今ですっ!」


「はぁっ!?」


 三枝木がドアの方を向いて叫び、俺も京也もそちらを注視する。

 まさか、誰かが助けに来たのか?

 新一たちは?


 その逡巡が油断となった。



 ガチャリ



「はっ?」


 三枝木は、懐から出した拳銃を俺に向けていた。



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