29.そして、動き出す
その日の夜、帰ってきた新一たちから報告を聞いた。
みちるたちは無事だった。
新一から話を聞いて、清水一家とともに、学校からなるべく離れた所に移動してもらうことになった。
ちょうど、清水の母親の友人の家があるとのことで、そこに移ることにするらしい。
さらに、みちるたちが居場所を聞いていた人たちのことも教えてもらって、各地を回り、それぞれ移動してもらうよう呼び掛けた。
だが、すでにそこには争ったような形跡があり、誰もいなくなっていた場所もあった。
そして、一通り回りきった所で、新一たちは工場の近くの、新一が拘束していた男のところにも行ったのだが、そこにすでに男の姿はなく、血の跡だけが残されていたのだった。
「遅かったか」
新一たちの話を聞いて呟く。
「ああ。
だが、逃がせた人もいた。
それだけでも収穫はあった」
「そうか、それなら良かった」
新一が呟くように言う。
警察官の男性は体を起こせるようになり、上半身だけを布団から起こして、俺たちの話を聞いていた。
「あー、あと、襲ってくる奴らについての話も聞けたぜー」
京也が夕飯のパンにかじりつきながら話す。
「話してくれたのは、工場から解放された人の隣の家の人でな。
俺たちが様子を見てるのを見て、話し掛けてきたんだけどよ。
初めは警戒してたけど、俺たちが危険が迫ってることを伝えに来たって言ったら、もう遅いみたいだよっつってきて、どういうことか聞いたら、携帯食料と引き換えに話してよ。
俺たちが来る2時間ぐらい前に隣から叫び声が聞こえて、窓から覗いたら、ちょうど住人が武器を持った5人ぐらいの学生に連れていかれる所だったんだってよ」
やっぱり三枝木たちか。
だが、学生ってことは、三枝木に協力してるってことか?
いや、脅されてるのか?
「武器はどんな感じだ?」
「バットや包丁。
ハサミなんてのもいたらしい。
学校にあったものだろうな」
俺の質問に、新一が答える。
工務店とかで調達しているわけではないのか。
あるいは、強力なものは学校に残しているのか。
「銃の弾はあと何発あったっけか?」
「4丁で、それぞれ6、7、5、3発ずつだな」
新一が銃を並べながら教えてくれる。
「じゅ、銃も持っているのか?」
警察官の男性が驚いたようにそれを見ている。
「工場の奴らが持っていたものです」
「こんな時だし、逮捕だー!とか言わないでくれよなー」
「あ、ああ。
仕方ないだろう」
京也の軽口に男性は引きつっていたが、何とか首肯した。
「新一、どうする?」
「悟はどうしたい?」
「えっ?」
新一に逆に問われて、俺は考える。
そりゃあ、捕まった人たちを助けられるなら助けたい。
クラスメートもいる。
だが、相手がどれだけの戦力なのかも分からない。
もしかしたら、残った生徒たちは、みんな三枝木に協力しているかもしれない。
そうなった時、俺は自分のクラスメートたちに攻撃できるのか?
最悪、止めを差さないといけないかもしれない。
それに、香織には家にいてほしい。
そうなると、香織と離れることになる。
この男性はまだ動ける状態じゃない。
俺と新一と京也の中の誰かが残るべきなのか?
そうなると、たった2人で学校に行かなければならなくなる。
そんなんで、三枝木に勝てるのか?
工場の時のように、鬼を利用する?
どうやって?誰かを利用する?ありえない。
でも……
「俺は、皆を助けてやりたい。
俺たちだけでは難しいと思うが……」
「悟……」
俺は自分の正直な気持ちを言うことにした。
新一はきっと、俺がそう言うと思っていたんだと思う。
「……香織と彼には、みちるたちの所に行ってもらおう。
3人で、策を労してみよう」
少しだけ考えた仕草を見せて、すぐにそう言ってきた。
「えっ!?
私も行くよっ!」
「ダメだ。
前回はやむを得なかったが、今回は許容できない。
というより、そんな余裕はない。
それに、悟が許さないだろう」
新一は香織の言葉をぴしゃりと却下し、こちらを見やった。
香織が恐る恐る俺の方を見る。
「香織、悪い。
今回ばかりは、おとなしく言うことを聞いてくれ」
俺は香織の目をしっかりと見据えて、言い聞かせるように告げた。
香織は頬をぷくっと膨らませていたが、
「……分かった」
と、しぶしぶ了承してくれた。
「すまない。
私も手伝えればいいのだが、この状態では足手まといだろう」
「構いません。
俺たちの学校のことでもあります。
結局、いつかはどうにかしなければならなかったでしょう」
頭を下げる男性に、新一はそっけなく答えた。
「ですが、あなたと香織にも、やってもらいたいことがあります」
新一は改めて、警察官の男性と香織を見て、そう言ったのだった。




