28.巻き込まれた渦からは出られない
「……なるほど」
男性にここを教えたのはみちるだろう。
みちるも、自分の友人のいる学校を何とかしたいという気持ちがあって、俺たちを頼ったのだろうな。
男性はそこまで言い切ると、置いてあった水を、喉を鳴らしながら一気に流し込んだ。
あまりに勢いよく飲んだため、ごほごほとむせている。
「それで、俺たちにお仲間の救出を手伝えってか?」
京也がやだやだと首を振りながら尋ねた。
「君たちにはリスクしかないのは重々承知の上だ。
だが、君たちはあの工場の奴らを撃退したのだろう?
その勇気と力と正義感を、もう一度、私に貸してはもらえないだろうか?」
男性はそこまで言うと、布団に寝ていて頭を下げられない代わりに、目を閉じて、精一杯の請願の意を示した。
「ちょっと待ってください。
なぜ、工場のことを?
ここのことを聞いた奴から聞いたのですか?」
今まで黙っていた新一が口をはさんできた。
「え?ああ。
君たちが立役者であることは、その少女から聞いたが、工場にいた奴らが全滅したことは、学校にいた男が他の生徒や教師らしき者と話していたよ」
男性の言葉に、新一はちっと舌打ちをした。
「新一?」
「マズいな。
三枝木のことだから、工場の人質が解放されたことを知れば、その人たちを狙ってくるかもしれない。
もし、彼らが互いの居場所を教えあっていたら、芋づる式に三枝木たちに捕まる可能性がある」
「おいおい!
それ、ヤバいじゃねえかよ!」
「そんな……
待って!
それじゃ、みちるも危ないんじゃ!」
新一の言葉に、香織が顔を青くする。
「ああ。
とりあえず、みちるたちに移動してもらおう。
香織、みちるたちの居場所を聞いていたな?
それを教えてくれ。
香織と悟はここで彼の面倒を見ていてくれ。
京也は俺と一緒にみちるたちの元へ」
「ああ」
「はいよー」
新一の指示に、俺たちは頷く。
「……そんな、なぜ、あの男は、そんな酷いことを……」
警察官の男性は頷く憔悴した顔をしていた。
「世の中には、どうしようもない奴がいるんですよ。
あなたも警察官なら、そんな奴らを相手にしてきたでしょう?
そんな奴らの思考を類推するのは容易い。
奴らは、常に自分に利するようにしか考えないからな。
そこを先読みして動いていかなければ、奴らの罠にハマる。
だから、俺はそんな奴らに容赦はしないと決めた」
男性はそれを聞いて、生唾を飲み込む。
彼にそう告げる新一は、後半は自分に語りかけるかのような話し方で、そんな新一の目は、恐ろしいほどに冷たい目をしていた。
「じゃあ、いってくる」
「ああ、気を付けて」
そして、新一と京也は出掛けていった。
「悟」
「大丈夫だ。
新一たちなら、きっとみちるたちを助けてくれる」
俺は不安そうなみちるの肩に手をやることしか出来なかった。
「しっかし、つくづく巻き込まれ体質だな、俺たちって。
こーんなに日頃の行いいーのによー」
「お前が言うなよ」
京也の軽口に、新一はみちるたちの元へ走りながら苦笑する。
「そう言えば、京也はこうなってからタバコを吸ってないみたいだけど、大丈夫なのか?」
「あー、別に吸わなくてもいーんだよ。
勉強っていう最大のストレスから解放された俺には必要ないしなー」
京也はそう言って、気持ち良さそうに伸びをした。
「それに、やっぱり臭いがつくしなー。
工場の奴らも我慢してるみたいだったぜ?
臭いでバレるからだろうな」
京也の言葉に、新一は驚いた顔をしている。
「よく見てるんだな。
やっぱりお前はすごい奴だ」
「はん!
あっりまえだろー!」
新一に褒められて、京也は嬉しそうに声を上げながら走る速度を上げた。
その後ろ姿を眺めながら、新一はこれからの動向に考えを巡らせるのだった。




