26.来訪者
ピンポーン。
「はっ?」
インターホンの音だ。
京也が驚いた顔で、玄関の方に顔を向ける。
「誰だ?」
ピンポーン。
再度、インターホンが鳴らされる。
「え?
ど、どうするの?」
香織が困ったようにこちらを見る。
「やり過ごそう」
「そうだな」
俺の提案に、新一も頷く。
もしかしたら、手当たり次第にインターホンを鳴らして、物音がしないかどうかを探っているのかもしれない。
俺たちは息を殺してその場に留まる。
廃工場から戻ってから、玄関や窓は全て施錠し、雨戸を閉めているため、外から家の中を窺い知ることは出来ない。
インターホンは3回目の音を鳴らさない。
諦めたか。
ドンドンドンッ!
「……っ!」
玄関が激しくノックされる。
どういうことだ。
俺たちがここにいることを知っている?
「ね、ねえ。
ちょっと見てみようよ。
もしかしたら、みちるたちかも」
確かに、俺たちがここにいることを知っているのは、一緒にここにいたみちるぐらいだ。
俺は様子を窺うために、京也とともに玄関に向かった。
玄関のドアは間隔をあけて、まだノックされている。
「おい、どうするよ」
京也が小声で尋ねてくる。
どうするか。
このまま黙っていれば、いずれ諦めるか?
みちるの可能性もあるのか?
だが、それなら何か言ってきてもいいのではないか?
ただ黙ってドアをノックするのはなぜだ?
「おい、なんか言ってねえか?」
京也が耳をそばだてる仕草をする。
俺も耳を澄ませて聞いてみる。
「……ま、せ…
……か、…………か」
声がか細すぎて聞き取れないが、ノックの音に紛れて、確かに声がする。
男の声だ。
なぜ声を張らない?
静かにしたいなら、ドアを激しくノックする必要はないし。
声を聞かれたくない事情でもあるのか?
「…………」
俺は思い立って、ドアに近付いた。
トントン。
「おい!」
俺はドアを開けずに、ノックを返してみた。
京也が驚いて、思わず声を上げる。
その声も届いたのか、向こうのノックの音が止まった。
俺はドアに耳を近付けた。
「……けて。
た…けて」
助けて。
確かにそう聞こえた。
俺はドアのチェーンとカギを外してドアをバッと開けた。
そこに立っていたのは、俺たちが駅に行った時にスーパーのことを教えてくれた警察官の男性だった。
彼は全身ぼろぼろで、喉が真っ赤に染まっていた。
俺の姿を確認すると、彼はホッとしたような顔をして、その場で気を失ってしまった。
「はー、また厄介事かよ」
京也が頭をがしがしとかきながら溜め息を吐いていた。
「どうだ?」
新一が俺に尋ねてくる。
「命に別状はないが、しばらく動かさない方がいいな。
全身に打撲の痕があって、左腕は骨が折れてる。
それに、喉がひどい。
完全に潰れてる。
よく、わずかでも声を出せたものだ」
俺は部屋のベッドに寝かせた警察官の症状を伝えた。
人に怪我を負わせる武術を学ぶからには、人を治す術も身に付けろと言われ、多少の処置の仕方を覚えていた俺は、彼に応急処置を施した。
折れた左腕には添え木がしてある。
喉は出血で気道が詰まる可能性があったので、血を抜いて冷却しておく。
何とかうまくいって良かった。
「悟、これは……」
「ああ、人為的なものだ。
喉を潰したのは、鬼を呼ばせないためだろう。
それに全身の痣。
おそらく拷問のようなものを受けてる」
「えっ!?」
俺の考察に、香織が顔を青くする。
「襲撃を受けたのかねぇ」
「あるいは、鬼が来て陣形が崩れたか」
京也の呟きに俺も続く。
「いつ、誰によって、どうやってそうなったか、だな」
新一が布団に横になった男性を眺めながら、そう呟いた。
「とりあえず、この人が起きるのを待とう。
何も、起こらなければいいが……」
俺はそう呟きながらも、自分たちがまた大きな流れに呑まれようとしている感覚を、嫌と言うほど全身で感じざるを得なかったのだった。




