22.託す
「うおお。
すっげえ」
突然現れたご老公軍団は、熟練した動きで男たちを次々と抑え込んでいく。
「なっなっ」
ボスも突然すぎる展開に理解が追い付かず、棒立ちになっていた。
「うおっ!」
そこを弥彦が足にしがみつき、他のお年寄りもしがみついていく。
その隙に、新一の祖母たちが俺や人質の拘束を解いてくれた。
「ばあちゃん。
どうしたんだよ、これ」
新一が心底驚いた顔をしていた。
やはり何も知らされていなかったようだ。
「凪坂町老人会の皆さんよ!」
「いや、そんなことを聞いてるんじゃなくて」
新一の祖母の説明に、新一は呆れた顔を見せた。
「1日目の夜に、皆で集まったのよ。
そこで、何かあった時は、私たちで悪をこらしめに行きましょうってなってね。
だから、もともと準備はしてたの。
それで、新一たちが出掛けたあと、皆と合流して、ここに来たってわけ。
場所は分かってたしね。
それで、外の見張りをふんじばってたら、弥彦君もいて、自分が囮になります!って言うものだから、こんな形を取ることにしたってわけ」
祖母の説明を聞いて弥彦を見ると、
「さっきは失敗しちゃったから、僕も、みちるを助けるために、頑張ろうと思って」
そう言って、照れくさそうに笑っていた。
みちるはそれに、驚いたような顔をしていた。
人質たちは入口に誘導されて、ぞろぞろと外に逃げ出していく。
拘束を解いてもらった俺たちも手伝おうとしたが、
「あなたたちは香織ちゃんたちを連れてってあげて」
と祖母に言われ、フロアの入口まで追いやられてしまった。
そして、弥彦がこちらに顔だけを振り向かせる。
「みんな、さっきはごめんね。
これで、少しは役に立てたよね?」
「弥彦?」
弥彦の様子がおかしい。
それに、さっきよりも顔色が悪いように見える。
「ばあちゃん。
縄とか持ってないのか?
なんでさっきから、そいつらを押さえつけておくんだ?」
ご老公軍団は、引き倒した男たちを拘束することなく、数人がかりで抑え込んでいた。
「この人たちはダメよ。
きっとまた繰り返す。
こんな悲しいことは、繰り返しちゃダメ」
「おい、ばあちゃん?」
祖母の達観したような様子に、新一が顔色を変えていく。
ゴオンッ!
そして、フロアの入口の扉が閉められた。
「おいっ!」
「弥彦っ!?」
「ばあちゃんっ!」
俺たちは突然の事態に訳も分からず、鋼鉄の扉を叩いた。
「ごめん、みんな。
僕、さっき見張りの人に刺されちゃったんだ。
それで、やられそうな時に、おばあちゃんたちに助けてもらって、でも、もう無理みたいでさ」
弥彦の弱った声が、扉越しに聞こえてくる。
「弥彦君。
悪いねぇ。
巻き込んじゃって。
自分たちじゃ、呼べないみたいなんだ」
そこに、祖母の声も重なる。
「大丈夫ですよ。
皆を助けられたんです。
それだけで」
2人は、とても穏やかな声をしていた。
「おい!
てめえら!
まさか!
嘘だろっ!?」
遠くから、ボスが叫ぶ声が聞こえる。
「弥彦……」
みちるが扉に手をつける。
「みちる。
みちるが無事で良かった。
ほんとはもうちょっとしてから突入だったんだけど、みちるが危ない目に遭いそうで、思わず飛び出ちゃったんだ」
弥彦がそう言って、アハハと笑う。
「バカっ!
それであんたが危ない目に遭ったら意味ないじゃんっ!」
みちるは涙を流しながら、扉にすがりついていた。
「そうだよね、ごめんね」
弥彦は困ったように笑いながら謝っていた。
みちるはバカバカと言いながら、ずるずると床に崩れ落ちていく。
「ばあちゃん……」
新一は今にも消え入りそうな声だった。
「なんだい、情けない声出して」
新一の祖母はやけに明るい声でそれに返した。
「私はねぇ。
嬉しかったんだよ。
人のことを信用しなくて、悟君ぐらいにしか心を開いてなかったあなたが、お友達を連れて逃げてきて、しかも、連れていかれた子を助けるために、こんな危ない所に行こうとするなんて」
「……ばあちゃん」
新一は扉に当てた拳をぎゅっと握りしめた。
扉に、血の跡がつく。
「それに、もう決めてたことなんだ。
ここにいる皆は、1日目に孫を亡くした人も多くてね。
それに、あのピエロの言うことに従うようで癪だったけど、私たちはもう十分に生きた。
それなら、若い子たちにもっと生きて頑張ってもらおうと思ってね。
しかも、皆を助けることまで出来る。
こんな立派なことはないよ。
源さんなんて、カミカゼ特攻隊じゃー!とかって張り切っちゃってね」
「昔を思い出したわい!」
「ふふふっ」
引き倒した男の上で胡座をかいている老人が楽しそうに笑っている。
「新一。あんたはもう立派な男だよ。
皆のことを、ちゃんと守ってやるんだよ。
それに、きっと1日目を生き延びた子供もいるはず。
出来たら、その子たちも助けてあげてね」
「…………っ!」
新一はぎゅっと、思いっきり目をつぶった。
「…………分かったよ」
そして、新一は目と手にこめていた力をふっと緩めた。
「それでこそ私の孫だ」
扉越しだったが、新一の祖母が優しく微笑んでいるのが、その声から伝わってきた。
「さあ、もうここを離れなさい。
老人の体力じゃ、大の男を抑えておくのも大変だからね。
全部が終わるまでは、ここはこのままでいいから」
祖母にそう言われ、新一は少ししてから顔を上げた。
「……行こう!」
新一はそう言うと、出口に向かって駆け出した。
俺たちもそれに従い、みちるは京也が抱えて、皆で外に向かって走り出した。
少しして、扉の向こうから弥彦の声で、あの言葉が聞こえてきた。
「鬼さんこちら!
手のなる方へ!」
そして、柏手の音ともに、鬼の咆哮が扉の向こうに響いたのであった。




