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18.翔

「誰もいないな」


「ああ」


「てことは、1階に集結かよ、最悪」


俺たちは2階を探索していた。

3階から上はL字型になっていたが、1階と2階は広く、四角い構造で、造りも複雑だった。

通路も入り組んでいるし、部屋数も多い。

俺と新一と京也の3人は、部屋を1つずつ慎重に調べながら回っていた。

香織には3階に残ってもらった。

下から階段を上がってくる奴がいたら音で分かるし、万が一には、窓から2階の屋根に飛び移って逃げることも出来るからだ。

それに、ここからは敵の主戦力との戦闘になる可能性も高い。

香織を危ない目には遭わせられない。




「あと調べてないのは、この先か」


「そうだな」


2階の各部屋をあらかた探索し終え、残すは目の前の扉の先だけだった。


「待ち伏せの可能性もある、が、この先にはここからしか行けない。

くれぐれも慎重に」


「ああ」


「おお」


新一に注意喚起に、俺と京也も首肯する。

そして、新一がゆっくりとドアノブを回し、音もなく扉を開いた。


「よお。

やっと来たか」


「「「!」」」


明るい部屋には、1人の若い男が立っていた。

その男は俺たちを見るなり、持っていた武器を目の前にバラバラと放り投げた。

そして、すっと両手を上に挙げてみせた。


「俺はここを裏切りたい。

協力してほしい。

まずは、話を聞いてくれないか?」


「は?」


突然そんなことを言い出した男に、俺と京也はぽかんと口を開けた。


「どういうことだ?」


新一だけは冷静に、周囲をきょろきょろ見渡しながら、そう尋ねていた。

部屋には角材やら机やらが雑多に置かれている。

男の奥には、さらに先に進むための扉が見える。


「別に罠なんかねえよ。

2階に配置されたのは全部で3人。

んで、残りの2人は俺が気絶させて、そこでノビてる」


男が顎をしゃくった方向に目をやると、縛られた2人の男が地面に横たわって気を失っていた。


「……悟。

あの男から目を離すな」


「え?

あ、ああ、分かった」


俺は新一に言われて、男の方に目線を戻す。

それを確認すると、新一は倒れている男たちの方に駆け寄り、縛り方や、男たちの瞳孔を確認したあと、縛っている縄を自分で結び直した。


「慎重なやつ」


男はそれを見ながら苦笑していた。


「……話を聞こう」


新一は立ち上がると、男に向き合ってそう言った。


「ありがとよ」


男はそう言うと、手を挙げたまま、近くの角材に腰を下ろした。


「俺は翔っていう。

このゲームが始まって、わりとすぐに、ここのボスに捕まったんだ。

その時はまだここの人数も少なくて、ボスは捕まえた奴らの中から仲間になりそうな奴を勧誘してた。

それで俺は、それを受けたんだ」


翔という男は、膝に肘をのせながら、滔々と話し出した。

京也は倒れている2人の横で、俺は翔の前で、新一は入ってきたドアにもたれる形で、それぞれ話を聞いていた。


「仲間になったのはわりと早かったが、昔からの仲間もすでにけっこういたから、新参の俺は基本的に入口の見張りとか、雑用がほとんどだった」


「見返りは?」


「ん?」


新一が割り込むように質問をはさんだ。

翔はそれに苦笑しながら答える。


「ああ。

時間稼ぎの可能性も考えてんのか。

なら端的に言っていこう。

見返りは簡単だ。

仲間になれば、密告者にしてもらえる。

つまり、お題に選ばれても回避できるようになるわけだ。

けっこう、これに飛び付いた奴は多かったぜ」


俺はそれに、ギリっと歯ぎしりをする。

それはつまり、捕まえた人を密告して、鬼に捕まえさせるってことだ。

強制的にでも、逃走者にして。

仲間にならなければ、逃走者にされる。

そんなの、仲間になるしかない。

とことん卑劣な奴だ。


「なぜ、それを裏切る?」


新一も胸くそ悪い思いのはずなのに、努めて冷静に質問を重ねていく。


「…………捕まったのは、俺だけじゃねえんだよ」


翔は少し悲しそうな顔で、ポツリと呟いた。


「…………連れがいたのか」


「ああ」


新一は少し考えるような仕草をしたあと、そう呟くと、翔は頷いて肯定した。


「俺の女だ。

恵子って言ってな。

でも、ボスは男しか仲間にしないと言った。


『女は情にほだされて使い物にならない奴が多い。

強い奴に従順な男の方が扱いやすい』


って言ってな」


「それで、自分の女を見捨てたのか」


「違う!」


冷たく言い放つ新一に、翔はバッと顔を上げて反論した。


「俺が仲間になれば、恵子にはおいそれと手を出せなくなると思ったんだ。

俺を従わせておくために、人質にしておく必要もあるからな。

恵子はちゃんと分かってくれてた。

俺が仲間になると言っても、微笑みながら俺を見つめてたよ」


翔は、その女性のことを思い出しているのか、少しだけ柔らかい顔をしていた。


「ふーん、いまいち信用ならないけどなぁ。

どーするよ、新一?」


京也が両手で後頭部を支えながら、新一の方を見た。


「…………」


新一は翔の目を見ながら考え込んでいるようだった。


俺は、正直コイツの言うことが分かった。

気持ちが理解できた。

どうにも抗えない状況で、もしも香織と一緒に捕まってしまったら、俺も同じ行動を取るかもしれないと思ったからだ。

そして、何とかできないかと、従順なフリをして、チャンスを待とうとしただろう。

たとえば、奴らを倒せる可能性がある何者かが侵入してきたりするチャンスを。


だが、危険があったとしても、そのチャンスにしがみつこうとするってことは、


「その恵子って人に、危険が迫ってるのか?」


「……っ!」


俺の質問に、翔が悲痛な顔を見せた。


「……ああ。

ボスは、次のお題あたりから、逃走者を『作れる』お題が増えるだろうと言っていた。

そうなれば、何人かは使い潰しても問題ないだろうと言ったんだ」


それはつまり、


「仲間になった男どもへの、新たな褒美か」


「……ああ」


新一の怒気を滲ませた呟きに、翔は消え入りそうな声で肯定した。


「俺を捕らえておくために、恵子は最後まで残されるだろうとは思うが、俺は少しでも怖い思いをさせたくなかった。

それに、もし恵子がお題に選ばれてしまったら、ボスは構うことなく恵子を使うはずだ。

それなら、ここまで来られたお前たちと協力して、ボスを倒そうと思ったんだ」


翔はそこまで言うと、地面に膝をついた。


「頼む!

協力してくれ!

恵子を助けたいんだ!」


翔はそう言って、頭を思いきり下げた。

ガン!と、床に頭を打ち付ける音が響いた。

俺はチラッと新一を見る。

俺としては、俺たちのためにも是非とも協力したい所だが、新一はどう思うだろうか。


「……正直、まだ疑っている。

今のも、ただのパフォーマンスか、階下への合図ではないかと。

だが、作戦というのがあるなら、それぐらいは聞いてもいいかと思っている」


「ったく、どんだけ疑い深いんだよ」


翔は新一の答えに苦笑しながらも、断られなかったことに安堵しているようだった。








「まずは、下の情報だ。

残りの人数は12人。

全員、1階に集まってる。

今はもう皆、同じ部屋にいるはずだ。

2階を任された、俺らの中の誰かが報告に戻るか、時間までに誰も戻らなければ、そこでお前らを迎撃するつもりだ。

たぶん、捕まった人たちもそこに集められてる。

その人たちを人質にして、お前らを誘き出して捕まえるつもりだ」


翔が俺たちに、ボスの作戦を話す。

俺たちの立ち位置はさっきと同じだ。

まだ、完全に信用した訳じゃない。


「武器は?」


「銃が3丁ある。

俺が持ち出したのが、1丁そこに転がってる。

残り2丁だが、たぶんボスも持ってるだろうから、残りは全部で3丁だと思ってくれればいい。

他は、スタンガンがあと5個。

ボウガンが3個。

ナイフは腐るほどある」


新一の質問に、翔が端的に答えていく。


一階の構造は?

人質の数は?

どんなふうに捕らえられている?

敵の風貌は?

強さは?

出口はどこに、どれだけ?

窓は?種類は?

などなど。


新一は翔の瞳をしっかりと見据えて矢継ぎ早に質問を重ね、その全てに、翔はしっかりと答えた。


「……嘘は、言っていないようだな」


新一は一度溜め息を吐くと、そう言って翔に近付き、俺に並んだ。


「今ので信用できたのか?」


俺の質問に、新一が首を縦に振る。


「ああ、フェイクを織り混ぜて質問した。

嘘をつけば分かる」


「は!?

なんだそれ!?

どれだよ!?」


「言うわけないだろう」


「……お前ら、よくこんな奴とダチでいられるな」


「ほんとだよなぁ」


「京也、お前とは友達になった覚えはないんだが」


「んだとぉ!」


「はははっ」


「………楽しそうだな」


わーわー言い合っている3人につられて、俺も思わず笑みをこぼしていた。








「で、作戦だが、」


翔が気を取り直して話を続けた。


「お前らが降りてきた階段をそのまま降りると、大きな扉があり、そこからデカいフロアに出られる。

そこで、ボスたちは待ち構えてる。

慎重なお前らは全ての部屋を確かめようとするだろう。

2階を調べるのに難儀しただろうから、慎重にとはいえ、どうしても急ごうとする心理が働く。

そこを初っぱなから挫く狙いらしい」


頭が良くて狡猾。

ボスは、人間というものをよく知っている人物のようだ。


「そこは吹き抜けになっていて、2階から下を覗ける。

人質を含めた全員が入れる広さのフロアはそこだけだ。

んで、2階からの入口は、俺の後ろの扉の先だ」


翔はそう言って、右手の親指で自分の後方の扉を指した。


「そこは、向こう側から鎖でぐるぐる巻きにして、厳重に封鎖してある。

最後にボスが確認したから、そのままだと思っているはずだ。

だが、俺は2階を任された時、ボスたちがこの部屋に来る前に、その施錠を解いておいた。

つまり、この扉を開ければ、下の入口で今か今かと待っているボスたちの頭上を取れるわけだ」


「だが、相手は銃を持っている」


「そうだ。

だから、俺が一芝居打とう」


新一の言葉を予期していたかのように、翔は話を続けた。


「俺が1階の入口から入り、お前らを拘束したと報告する。

他の2人はケガをしてしまって、お前らを運べないから手伝ってほしいと言う。

おそらく、ケガ人の手当てと、お前らを運ぶのに、5人ぐらいは寄越すだろう。

残りは7人。

皆が完全に油断した所で、2階から銃を持っている奴とボスを襲撃してほしい。

銃さえ奪えば、連中もおとなしくなるはずだ」


「なるほど」


翔の説明に、新一も納得したようだ。


「で、奪った銃で連中を脅さないといけないんだが、お前ら銃なんて扱ったことないよな?

下手に撃ったりして、人質に当たったりしたらシャレにならないが」


翔は心配そうな顔をしていたが、


「問題ない。

こいつの父親の趣味に付き合わされてきたおかげでな」


「そうだな」


新一が俺の肩を叩いてそう言い、


「あ、俺もあるぞ。

アメリカに住んでる従兄弟んとこに遊びに行ったときに、射撃場に連れていってもらったからな」


京也がのんきにそんなことを言ってのけると、


「お前ら、頼もしすぎだろ」


そう言って、呆れたように苦笑していた。




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