19.開始
「いいか。
扉を開けるのは、俺が手伝いに出された奴らと一緒にその部屋から出てからだ。
2階の階段からこの部屋までは遠い。
俺たちが2階に上がったら、お前らは突入してくれ」
翔は念を押すようにそう言うと、部屋を出ていった。
少しすると、新一も同じ扉から部屋を出ていく。
「おい?」
京也がそれに声を掛けた。
「あいつを尾ける。
本当に仲間を連れてくるか分からないからな」
「わかった」
「ったく」
そう言って部屋を出ていく新一に、京也は呆れ顔だった。
「新一の奴、疑いすぎだろ。
俺はいい加減、信用してやってもいいと思うんだけどな」
京也が武器を確認しながら溢してきた。
「新一は本当は、きっともう翔って奴のことを信用してるよ」
俺も自分の装備を確認しながら、それに答える。
翔が持っていた銃は新一が持つことになった。
今は、新一が戻るまでは俺が持っている。
銃はコルトガバメントだ。
装弾数は7発プラス1発。
弾は全てこめられている。
よく整備されている。
いつでも使用することを想定されているようだ。
俺自身はナイフを4本にスタンガンを1本。腰や上着の内ポケットに装着している。
「ならなんで」
「たぶん、俺たちが翔のことを信用したから、自分は懐疑的でいようとしてるんだと思う。
1つのミスや油断が誰かの死に繋がるこんな状況で、わずかな可能性も残したくないんだろう」
「はぁー。
仲間思いのめんどくさいやつ」
俺の意見に、京也は呆れ果てた顔をしていたが、その仲間に自分も入っていることに、満更でもない様子だった。
「待たせたな」
しばらくすると、新一が戻ってきた。
「どうだった?」
新一に銃を渡しながら尋ねる。
「問題ない。
想定通り、5人出てきた。
もうすぐ来る。
俺たちも行こう」
新一はそれを軽く確認してから扉に向かった。
「ああ」
「やっとかよ」
俺と京也もそれに続く。
「チラッとしか見えなかったが、奴らは人質を真ん中に集めてる。
その周りを武器を持った奴らが囲ってた。
で、手前に立ってたデカい男が、たぶんボスだ」
2階の吹き抜けに続く扉の前で、新一は俺たちに説明していく。
「見たのか!?
見られてねえよな?」
「階段からだからな。
こちらは暗く、あちらは明るかった。
向こう側から見えることはないだろう」
「ならいいけどよお」
「続けるぞ。
ボスも銃を持っているとすると、残り2人の銃持ちはバラけるはずだ。
人質を円状に囲った中で、ボスを頂点とした三角形の二点の地点にいるだろう。
1人は俺が撃とう。
悟。
2階からナイフを投げて、もう一人に当てられるか?」
新一がこちらを見て、俺に尋ねてくる。
「距離によるな」
「直線距離で8メートルってとこだな」
「……6割ってところだな。
相手の体のことを気遣わなくていいなら、8割はいける」
俺は自身の経験から、その成功率を告げた。
「8割の方でいい」
新一は冷たい目をして言い放つ。
「でも、新一も知ってると思うが、静定剣は殺傷力が低い。
当たっても、行動不能になるとは限らないぞ」
「構わない。
俺が1人目を撃ってから、そいつに狙いを定めるまで時間が稼げればいい」
「なるほど、それなら何とかしよう。
そのあとは?」
「悟はナイフを投げたら、ボスの所に降りてもらう。
相手は銃を持ってる。
少し厳しいかもしれないが、何とか頑張ってほしい」
「わかった」
「俺はどうすりゃいい?」
話を聞いていた京也が新一に尋ねる。
「京也はこれを」
新一が京也に何かを渡す。
「なんだこりゃ」
「秘策だ」
新一はそう言って、ニヤリと笑ってみせた。
「よし。
行くぞ」
一通り説明を終えて、新一が扉に手をかけた。
そろそろ、翔の時間稼ぎも限界だろう。
「まずは様子を伺う。
奴らは俺たちが捕まったと思って油断している。
気付かれないように行くぞ」
「ああ」
新一の潜めた声に、俺と京也は頷きで返した。
すっ
新一が音もなく扉を開け、少し様子を見てから、身を屈めて、するりと扉の中に消えていく。
俺と京也もそれに続いて、すぐにそっと扉を閉めた。
吹き抜けの2階は、回廊状の細い通路になっていた。
体育館みたいだ。
俺は学校の体育館で、新一のバレーの試合の応援をしていたことを思い出した。
左右に階段があるが、今回はそんなものを使っている暇はない。
ここから飛び降りることになる。
俺たちは片膝を地面につけて腰を落とし、1階の様子を伺う。
幸い、外周部分のライトは消されていて、真ん中だけがスポットライトのように照らされていた。
翔が演出のためにと提案したらしい。
ボスは面白そうだと採用したが、これが狙いだったとは思わないだろう。
俺たちは作られた暗闇の中で、それぞれ配置について準備する。
奴らは、新一が言った通りの陣形のままだったが、完全に気が緩んでいる。
近くの者と談笑して、武器を懐にしまっている奴もいる。
その中で、銃を持つ2人と、ボスだけが微動だにしない。
2人は銃をしっかりと持ち、ボスは泰然と腕を組んで立っている。
敵は捕らえたと言われたのに、自分の目で確認するまでは油断しない。
こんな奴らのボスなだけはある。
まさに、油断も隙もない、といった所か。
真ん中にいる人質たちを見てみる。
みちるも清水咲もいた。
縛られながらも、清水に寄り添っているのは両親だろうか。
ひとまずは無事な姿に安堵する。
人質には老若男女、さまざまな人がいた。
いや、子供がいない。
おそらく、もう……
俺は溢れる怒りを何とか静める。
皆を助けるために、まだ気付かれるわけにはいかない。
俺たちは当初の予定通り、俺たちから見て、真ん中に新一。
左に京也。
右に俺の順番で、横に並んだ。
スッ
新一が銃を構えて、左にいる銃持ちに照準を合わせた。
俺と京也も構える。
新一が撃つと同時に、俺たち2人は動き出す。
そして、そのフロアに、1発の銃声が鳴り響く。




