17.思惑
3階は、いとも容易く制圧できた。
結局、6部屋中3部屋に2、3人が雑魚寝していたが、俺と新一が部屋に入ったことさえ気付かずに爆睡していた。
俺たちはそのままそいつらを縛り上げ、口に猿ぐつわをして、その場に放置した。
もちろん、武器の類いは全て没収しておく。
全員がナイフを持ち、数人はスタンガンを所持していた。
さらに、俺たちはそのまま4階の制圧にも赴いた。
そしてそれは、思ったよりも簡単に成功した。
3階の奴らよりは警戒しているかと思ったが、そんなことはなかった。
見張りも3階と同じ2人だけ。
しかも、廊下の入口から動いたりしなかった。
どうやら、本来はそこで見張っていればいいだけだったようだ。
3階の奴らがウロウロしていたのは、単に暇だから、もう一人の見張りと話をするために、中間地点まで歩いていただけなのだろう。
そりゃあそうだ。
何となくゲームのような感覚で考えていたが、NPCじゃないんだし、決まった動きで、同じ場所を一晩中ウロウロするなんて、精神的にも肉体的にも無理があるだろう。
奴らは、俺と同じ人間なんだ。
理不尽に感情的に動くこともある、厄介な人間だ。
画一性を求めていたら、足元をすくわれそうだ。
3階と4階を無事に制圧し、俺は改めて自分に注意喚起しておいた。
「……などと、侵入者たちは考えてる頃かもなぁ」
1階の部屋で骨付き肉にかぶりつきながら、ボスはそう呟いていた。
「そのために、3階と4階の奴らには侵入者について教えなかったんですか?」
ついさっき側近に昇進した見張りをしていた男が、その言葉に反応した。
その部屋には、ボスと数人の部下、そして、窓際に一列に並べられた女性たちがいた。
女性たちは全員椅子に縛り付けられ、口にタオルを巻かれて、しゃべれないようにされていた。
その中には、みちると咲の姿も見受けられた。
「ああ。
侵入者を油断させるのと、サボって見張りを適当にやるアホどもに灸をすえるためにな」
ボスがしゃぶりつくした骨を皿にカンと放り投げる。
「なるほど。
では、2階はどうしますか?
ボスの指示通り、捕らえた奴らは、ここにいる奴ら以外は1階の吹き抜けの作業場に運びましたが」
ボスが食べ終わった皿を、別の側近が下げる。
「そうだな……」
ボスは大柄な姿には似つかない仕草で、ナプキンで丁寧に口元を拭いながら考えてから、口を開く。
「数は絞れ。
3人でいい。
ただし、上の階にいるような生半可な奴じゃなく、腕が立って、ちゃんと考えられる奴らだ。
武器は、銃以外なら何を使ってもいい。
選出は、翔。
お前に任せる」
「分かりました」
ボスにそう言われて、翔と呼ばれた男が一礼してから部屋を出ようとすると、
「あ、そうそう」
と、ボスが思い出したように言い出し、翔は取っ手に手をかけながら振り向いた。
「出来るだけ殺すな。
生きてさえいればいい。
とだけ伝えろ」
「……承知しました」
ボスが楽しそうにそう言ったのを受けて、翔は今度こそ部屋を後にした。
その言葉を聞いたみちるが、上の階にいる悟たちを心配するように天井を見上げた。
悟たちとボス。
それぞれの思惑が交錯する中、そのどちらも、工場の入口に近付く、老獪な第三勢力には、まだ気が付いてはいないのだった。




