15.そして侵入へ
いくら新一や京也が慣れているとはいえ、あれだけ簡単に、するすると渡ってみせたのだ。
弥彦にも、自分も行けるというイメージを持たせられただろう。
多少、緊張しているようだが、順調に準備を進めている。
そして、しっかりと命綱をつけた弥彦は地面に尻をつけ、こちらに背中を向けた状態で、両手でワイヤーを握り締めた。
あとは足を上げてワイヤーに絡め、尻を上げればスタートだ。
が、いっこうに足を上げる気配を見せない。
たまに上げたと思ったら、数秒そのまま停止して、すっと下ろす。
そんなことを、何回か繰り返している。
「なにやってんだよ、弥彦は!」
京也が声を抑えながら、イライラした様子で吐き捨てる。
その後も、弥彦は意を決したように、バッと足を振り上げるも、チラッと崖下を見てしまい、どうしても尻が上がりきらず、再び意気消沈したように足を下ろしてしまい、しまいには、ワイヤーを掴んでいた手も離してしまった。
「…………これは、ダメだな」
新一がぽつりと呟くと、弥彦に合図を送る。
弥彦はそれを確認すると、悔しそうな、それでいて、ほっとしたような顔をしていた。
「いくぞ」
それを確認すると、新一はバッと振り返り、屋上の入口に進んでいった。
京也もそれに続く。
あの合図は、そこで待機していろ、の合図だ。
香織はしばらく心配そうに弥彦を見ていたが、俺に促されて、俺たち4人は屋上から、工場内部へと侵入していった。
同時刻。
工場の入口では、2人の男が見張りをしていた。
「あーあ、暇だな~。
今ごろ中の奴らはお楽しみ中かね~。
くそっ。
じゃんけん運ねーなー俺」
片方の男がタバコを吹かせながら、くさくさしていた。
「いいから真面目に見張りしろよ。
それに、ボスはしばらくはお題の様子見をするから、捕らえた奴らには手出しするなって言ってただろ」
もう片方の男が呆れた様子で注意する。
「でもよー、昨日捕まえた女子高生、マジでタイプなんだよ。
あー、早く解禁されねーかなー」
タバコの男が上を見ながらモジモジしていた。
「おまえ、ホントに我慢しろよ。
ボスに逆らったらどうなるか」
注意していた男が溜め息を吐く。
「でもよ~、ん?」
「ん?
どうした?」
上を見上げた男が何かに気付き、目を細めた。
「なんだありゃ。
紐かなんかかぁ?」
「あれは……」
もう片方の男が真剣な顔をしてそれをじっと見つめる。
「おい。
俺はボスに報告に行く。
お前はここで引き続き見張りをしていろ。
何があっても動くな。
味方以外がここを通ろうとしたら撃ってもいい」
「お、おい、ちょっと!」
男は口早に指示を出すと、工場の中に走っていった。
タバコの男は、なんなんだよと呟きながら、再びタバコを吹かせて、その場に突っ立っていることにした。
「暗いな」
「ああ、だが、じきに慣れる」
俺の潜めた声に、新一も同じぐらいの声量で返す。
新一の言った通り、しばらくすると、目がだんだん暗闇に慣れてきて、周りの造形が何となく把握できるようになってきた。
この工場はけっこう広い。
大型の機械は少ないようで、吹き抜けのような所はないようだ。
一階一階がきちんと階層になっている。
屋上から入った俺たちは、そのまま階段を降りて、1つ下の階に来ていた。
真っ暗で、とても静かだ。
足音一つでさえ響いてしまいそうで、一歩一歩を慎重に踏み出していく。
「皆はどこにいるのかしらね」
その階をしばらく探索していると、香織がかすかに聞こえる程度の声で呟いた。
「ここは暗すぎる。
蛍光灯をわざとすべて外している。
人が使うには不便すぎるだろう。
おそらく、1階の入口近くの階にまとめて管理しているんじゃないか?
上階まで人員を割くよりも、まとめてしまった方が監視はしやすい。
相手は、思ったより少人数なのかもしれない」
新一が考察を述べる。
数が少ないのは助かる。
「とりあえず、二手に別れて、もう少し下に降りてみよう。
あとは、打ち合わせ通りに」
俺がそう言うと、新一は頷いて、香織を誘った。
俺は京也と2人で、屋上から降りてきた階段に戻り、そのまま下の階へと進む。
新一と香織は、別ルートで降りていくことになっていた。
「いいのかー?
愛しの香織ちゃんと新一を、こんな暗闇で二人っきりにしてー」
階段に向かっていると、京也がからかってきた。
「仕方ないだろう。
俺たちの役を、香織にやらせるわけにはいかない」
「ま、俺たちは体の良い囮だからなぁー」
真面目に返す俺に、京也はつまらなそうに呟いた。
「悟たち、大丈夫かな」
別ルートを進む香織が、心配そうに溢した。
「奴らの装備次第だな。
ナイフ程度だけなら、何の問題もない。
ボウガンやらスタンガンやらを持っていると、少し手こずるかもしれない。
もし、銃を持っていたとしたら、けっこう無理しないといけないかもしれないな」
新一は歩きながら、正直にそう答えた。
「…………」
香織はそれを聞いて、心配そうに悟たちのいた方向を見つめた。




