表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/45

10.待ち受けているモノ

「けっこう遠いな」


「ああ」


俺と新一は食糧を分けた男性を尾行していた。

男性は再び駅に戻ると、そのまま通り過ぎて、駅をはさんで学校とは対極の方向へと進んでいった。

俺たちは人通りの多い駅では、群衆に紛れて視界にだけは入らないようにして、普通に後ろを歩いた。

男性は特に周りを気にする様子もなく、持っていた袋に入れた食糧を大事そうに抱えて、足早に進んでいく。


駅を離れると、途端に人通りがなくなる。

車もほとんど通らなくなるため、急な静けさが不安感を煽ってくる。

そこからはより慎重に尾行する。

相手の歩幅に合わせ、足音さえ合わせる。

奴らのアジトを探すのに必要だろうからと、駅で街の地図を頭に叩き込んでおいて良かった。


短い距離の直線なら、相手が曲がってから俺たちも進む。

長い直線の道で姿も隠せないようなら、方向を確認してから迂回する。

場合によっては、民家の塀や屋根も利用する。

忍者でもないから当然苦労するが、必要ならやるしかない。

とにかく、バレないように、見失わないように、細心の注意を払って進んでいく。


道中、人間だったモノが転がっているのを発見してしまう。

男性はビクッと怯え、なるべく近付かないようにしながら通り過ぎていく。

少しして、俺たちもそこを通る。

新一はそれに目もくれずに進んでいく。

俺もそうしたいが、どうしてもそれが異様な存在感を発している。

本来、あるべきものじゃないものが、あるべきではない場所にある。

それだけで、強烈な嫌悪感を感じる。

どうしても視界に入るそれは、どうやら親子のようだった。

幼い子供を抱え込んだ母親。

おそらく子供を庇って、母親ともども潰されたのだろう。

逃走者を庇ったり守ろうとすれば、一緒に殺される。

それを有益な情報だと処理してしまった俺は、結局冷たい人間なのだろうか。

何とも言い難い感情を抱えて、俺はソレの横を通り過ぎて、新一を追った。






「なんだ、この音は?」


そのあともしばらく男性を尾行していると、遠くから音楽が聞こえてきた。

よく夜中にやんちゃしている車やバイクが流しているような音楽だ。

俺はああいうのは全て、ズンチキズンチズンチキズンチとしか聞こえないが、あれはそういう音だ。

男性はそこを目指しているようだった。

歩く度に、その音はどんどん大きくなっていく。


「ちっ。

そうきたか」


新一が珍しく舌打ちをして顔を歪めた。


「どうした?」


俺は新一のあとに続いて歩きながら尋ねてみた。


「いや、これはまずいかもしれない」


新一はそれだけ言うと、再び黙って尾行を続けた。


音楽がすぐ近くに聞こえるようになると、男性はペースを落とし、物陰から様子を窺う。

少しして、袋の持ち手を腕に通した状態で両手を挙げ、そのまま音源に向けて歩き出した。


俺は周りをきょろきょろ見回し、体を隠せそうな、大きな繁った木を見つけ、新一に分かるように指を指す。

新一はそれに頷き、2人でそっとそこに移動する。

その木は民家に生えているものだが、幸いそこには人はいないようだった。

俺たちはその木にするすると登り、伸びた枝葉に姿を隠す。

葉っぱの間に、男性の姿が見える分だけの隙間をあけて覗く。


音は、車から流されていた。

普通の乗用車だ。

ドアを開けて、わざと音を外に漏れさせている。

運転席に一人。後部座席に一人。

助手席にいたであろう男は、開けたドアにもたれかかって立っていた。


両手を挙げて出ていった男性はゆっくりと車に近付く。

助手席の男がそれに気付き、男性の腕に下げられた袋を見てから、軽く挨拶するように片手を上げる。

車まで近付くと、男性は両手を下ろして、食糧の入った袋を差し出した。

助手席の男はそれを受け取り、中身を確認する。

後部座席の男に何かを話すと、そのドアが開けられ、男性は安心したように車に乗り込んだ。

後部座席のドアは閉められ、助手席の男は再びドアにもたれかかって、周りを見回し始めた。


「発車しないのか?」


俺は動かない車に思わず呟いた。


「……だいたい分かった。

悟。

少し離れよう」


新一が考えるような仕草をしたあと、そう言って木を降りていった。

慌てて俺もそれに従う。



うるさくないぐらいに音楽がまだ聞こえる所で、俺と新一は足を止めた。


「くそっ!

想像以上に頭が良い」


新一が顔を歪めて悪態をついた。


「どういうことなんだ?」


俺は新一に説明を求めた。


「あれはアジトを特定させないためのものだ。

万が一、食糧を持ってこさせた奴が裏切って警察なんかに助けを求めたり、食糧を奪った相手がつけてきたりした時のためのな。

音楽は、自分たちの居場所を教えるためと、会話を尾行者に聞かれないためだ」


新一は分析した結果を説明してくれた。


「未だ動かないのは、他にも命令した人がいるからだろう。

運転席の男がさっきから時計を気にしていた。

今は14時40分。

おそらく15時までに戻ってこいと言ってあるんだろう」


新一は自分の腕時計を眺めながら話す。


「なかなか良い作戦だ。

厄介な相手だな」


新一は再び舌打ちをした。


「だが、これはチャンスでもある」


「あたりをつけるのか」


俺は新一の思惑を先に告げる。


「そうだ。

車の向きや、立地から考えて、この方向に候補は2ヶ所。

工場地帯か、廃団地だ」


「手分けする感じだな」


俺の言葉に、新一も頷く。


「先回りして調べる。

中まで入る必要はない。

音楽は消しているだろうが、この静かな環境下では、車のエンジン音だけでも近付いてくれば分かる。

現場に着いたら、出入り口を全て調べるんだ。

人の有無もな。

もちろん、気付かれないことを最重要視しながらだ。

車の音が聞こえたら、車種だけ確認してすぐに引く」


俺は自分の腕時計をチラッと見る。


「念のため、15時半までそこで待つか。

来たら即離脱。

奴らが来なくても、15時半になったらそこを離れて家に戻る。

それまでに現場の偵察を終えよう」


俺がそう言うと、新一もそうしようと頷いた。

現在時刻は14時50分。


「あと10分だ。

急ごう。

俺は工場に行く。

悟は団地を頼む」


「ああ」


俺たちはそう言い合わせて、二手に分かれて走り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ