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第44話 四人である意味

夏の陽射しが。


訓練場の砂を。


白く照らしていた。


「暑い……」


リナが。


額の汗を拭う。


「まだ始まってもいないぞ」


俺は答えた。


「始まる前から暑いって言ってるの」


「そうか」


「……本当に会話が続かないね」


ミレイユが。


肩を揺らした。


オスカーは。


盾の革紐を確かめている。


あの魔物討伐から。


二週間。


四人の関係が。


劇的に変わったわけではない。


リナは。


相変わらず口答えする。


ミレイユは。


俺の判断に疑問を挟む。


オスカーは。


何か言いかけては。


言葉を飲み込む。


だが。


以前と。


まったく同じでもなかった。


「オスカー」


俺が呼ぶと。


オスカーは顔を上げた。


「この前の盾の構え」


「もう一度見せてくれ」


「……うん」


オスカーは。


少し驚いてから。


盾を構えた。


魔物の牙を受けた時。


こいつは。


俺の指示を待たなかった。


その判断が。


俺を助けた。


それは。


否定できない。


◇◇◇


「今日から実戦形式の訓練に入る」


バルドが。


六つのチームを見渡した。


「まず、登録名を確認する」


「チームA、蒼き焔(ブルーブレイズ)」


青い腕章を巻いた生徒たちが。


得意げに胸を張った。


「チームB、双流(ツインストリーム)」


二人の魔法使いが。


小さく手を上げる。


「チームC、チームC(仮)」


……。


周囲から。


小さな笑い声が上がった。


「チームD、鉄剣の誓い(アイアンオース)」


剣を携えた四人が並ぶ。


「チームE、白竜騎士団(ホワイトドラグーン)」


「チームF、紅蓮の魔導士(クリムゾンメイジ)」


最後の二組も。


それぞれ返事をした。


「チームC。名前は?」


バルドが尋ねた。


「まだ、チームC(仮)なのか?」


「ああ、それでいい」


俺が言うと。


リナが呆れた顔をした。


「そういうところよ、レオン」


……。


名前など。


戦闘能力には関係ないだろう。


「内容はチーム同士の模擬戦だ」


ざわめきが広がる。


「専用の訓練武器を使う」


「魔法は学園が指定した下級魔法のみだ」


「致命部位への攻撃は禁止」


「教師が危険と判断した場合は介入する」


訓練場の周囲には。


教師たちが立っていた。


「勝敗は相手全員の戦闘不能」


「危険行為による退場」


「もしくは相手の旗の確保で決まる」


「制限時間まで決着がつかなければ」


「残存人数で判定する」


訓練場の左右に。


二本の小さな旗が立っている。


「各チームは自分たちの旗を守りながら」


「相手の旗を狙え」


なるほど。


単純な力比べではない。


防衛と攻撃。


限られた人数の配分。


考える余地がある。


「各チーム、ほかの五チームと一度ずつ戦う」


「試合は二日間に分けて行う」


「一試合ごとに作戦を立て直していい」


……。


俺は。


旗の位置を見た。


◇◇◇


最初の相手は。


「鉄剣の誓い(アイアンオース)」だった。


「配置を決める」


俺は地面に。


小枝で線を引いた。


「オスカーが旗を守る」


「ミレイユは後方から援護」


「リナは中央」


「俺が前衛で敵陣へ入る」


「一人で?」


ミレイユが聞いた。


「俺が一人で突破する方が早い」


「それだと相手は対応しやすくない?」


「対応される前に動く」


リナが。


腕を組んだ。


「また全部、自分で決めるの?」


……。


「異論があるなら言え」


「言ったら聞く?」


返事が。


一瞬遅れた。


「内容による」


「ほらね」


ミレイユは。


それ以上言わなかった。


開始の笛が鳴る。


俺は。


地面を蹴った。


相手の前衛が二人。


正面から来る。


俺は。


固有スキルを発動した。


《潜在解析(ディープアナライズ)》


【対象:クラウス・ドーン】


【剣術:C+/潜在B+】


【身体能力:B/潜在B+】


【防御能力:C/潜在B】


【戦闘上の弱点:側面への対応が遅い】


もう一人も。


突出した能力はない。


いける。


一人目の剣を弾き。


二人目の脇を抜ける。


やはり。


俺が先に動けばいい。


旗まで。


あと少し。


その時。


右から矢が飛んだ。


身をひねって避ける。


続けて。


土魔法が。


足元を盛り上げた。


足が止まる。


「レオン、戻って!」


ミレイユの声。


何を。


振り返ると。


相手の二人が。


俺を無視して。


こちらの旗へ走っていた。


オスカーが。


盾を構える。


だが。


二方向から来られれば。


一人では止めきれない。


リナの火球が。


一人の進路を塞ぐ。


もう一人が。


旗へ手を伸ばした。


鈴が鳴る。


「鉄剣の誓い、勝利!」


……。


早すぎる。


「だから言ったでしょ」


ミレイユが。


息を切らして言った。


「相手はレオンを止めるんじゃなくて」


「避けて旗を取りに来たんだよ」


「……そうだな」


ミレイユが。


俺を見た。


「今、認めた?」


「事実を確認しただけだ」


「はいはい」


◇◇◇


休憩時間。


俺は。


対戦記録を見直した。


俺の剣術。


相手より上。


ミレイユの射撃。


十分に通用する。


リナの魔法。


攻撃範囲は広い。


オスカーの防御。


一対一なら安定している。


個々の能力に。


大きな問題はない。


それなのに。


負けた。


……。


以前なら。


三人の動きが遅いと。


結論づけただろう。


だが。


今回。


相手は最初から。


俺を避けていた。


「何、難しい顔してるの」


リナが。


隣に座った。


「敗因を整理している」


「また誰かのせい?」


「いや」


「他にも原因がある」


ミレイユも。


こちらへ来た。


「なら、次はどうする?」


「まだ考えている」


「じゃあ、一緒に考えようよ」


「いや、俺が考える」


……。


俺は。


一人で。


地面の図を見た。


◇◇◇


続く二戦目。


相手は双流(ツインストリーム)。


水魔法で進路を狭められ。


風魔法で距離を取られた。


俺が踏み込めば。


相手は退く。


三人を前へ出そうとしても。


俺の指示が届く頃には。


相手の配置が変わっていた。


結局。


時間切れ。


双方とも四人が残り。


引き分けとなった。


三戦目。


紅蓮の魔導士(クリムゾンメイジ)。


今度は魔法の集中攻撃を受けた。


オスカーの盾は。


正面の攻撃を防いだ。


だが。


俺が反撃を指示する間に。


別方向から旗へ迫られた。


ミレイユが気づいた時には。


遅かった。


二敗。


一分け。


……。


個々の力で。


負けているとは思えない。


それなのに。


勝てない。


試合の合間。


訓練場の外では。


別のチームが戦っている。


カイルだ。


相手を二人退場させた。


だが。


その間に。


自分の旗を奪われた。


……。


似ている。


頭に浮かんだのは。


昨年の七国武競祭だった。


ヴァルガ帝国で行われた。


第四十八回。


遠隔投影に映った。


アルセリアの選手たち。


一人ひとりは。


決して弱くなかった。


それでも。


敗れた。


あの時。


俺は。


アルセリアの選手たちが。


なぜ負けたのか。


理解できなかった。


個々の力量だけなら。


十分に戦えるはずだった。


だが。


今日の試合を見て。


少しだけ。


共通するものを感じた。


強い個人を集めても。


勝てるとは限らない。


もしかしたら。


今日の俺たちは。


その縮小版かもしれない。


四人の能力を。


ただ並べただけでは。


四人の強さにはならない。


そう。


思った。


……。


では。


何が必要だ。


◇◇◇


その日の訓練が終わると。


俺はいつものように。


図書館へ向かった。


次の模擬戦は明日だ。


勝ったチームの動きを。


《叡智庫(アーカイブ)》で思い返しながら。


書架の間を歩く。


剣術の本を取ろうとして。


手を止めた。


必要なのは。


剣の振り方ではない。


……。


だが。


何を調べればいい。


「レオン?」


奥の机から。


声がした。


サラ・フォン・リーベルト。


いつものように。


赤い髪を肩に流し。


魔法理論の本を何冊も広げている。


「珍しいね。今日は魔法の本じゃないんだ」


「模擬戦の記録だ」


「あ~、クラスメイト同士のやつね」


「その顔は負けたんでしょ?」


……。


なぜ。


そう決めつける。


だが。


当たっている。


「今日はな」


「ふうん。どんな負け方?」


何でこいつに説明する必要がある。


一瞬思ったが。


不思議と。


嫌な気持ちはない。


俺は。


相手の配置と。


自分たちの動きを説明した。


一戦目。


俺が敵陣へ突入し。


相手は俺を避け。


旗を奪った。


二戦目。


双流に攻めきれず。


時間切れで引き分けた。


三戦目。


紅蓮の魔導士に旗を奪われた。


三試合で。


一勝もできていない。


話し終えると。


サラは。


声を上げて笑った。


「それって」


「レオンの指示が悪いじゃん!」


……。


「何がおかしい」


「だって、そうでしょ?」


「レオンが全部決めて、勝ててないんでしょ」


「いや、他のメンバーの動きの遅さも原因だ」


「何それ」


「他のメンバーにどんな指示したの?」


「一戦目は旗を守るように指示した」


「三人に?」


「オスカーにだ」


「じゃあ、残りの二人は?」


「後方支援と中央の維持だ」


「その二人は、相手が旗へ来たら」


「どっちを助けるか決めてた?」


……。


「状況に応じて判断すればいい」


「でも、レオン」


サラは。


机の上の紙に。


四つの丸を描いた。


「その判断を」


「いつもレオンが決めてるんでしょ?」


「それは……」


「一番大事なところだけ」


「急に自分で決めろって言われても困るよ」


……。


言いたいことを。


言いやがって。


俺は。


椅子を引いた。


「お前は実際の試合を見ていない」


「うん。見てないよ」


サラは。


あっさり頷いた。


「だから、聞いてるの」


「レオンは何をしたかったの?」


「俺が敵を崩して」


「三人が旗を守る」


「じゃあ、その三人が」


「どう動けば一番守りやすいかは?」


「……俺が決めた」


「で、負けたんでしょ」


悔しいが。


言い返せない。


……。


サラは。


俺の沈黙を見て。


紙にもう一本。


線を引いた。


「魔法の術式だって」


「一つの式だけ正しくても」


「ほかと繋がらなかったら」


「うまく発動しないでしょ」


「……それと同じだと言うのか」


「少し似てない?」


「みんな得意なことが違うんだから」


「どう繋げるか、一緒に考えればいいのに」


俺は。


紙の四つの丸を見た。


四人。


同じ大きさの丸。


サラは。


そのうち一つを指で押さえた。


「レオンが全部できるなら」


「最初から一人で出ればいいじゃん」


「四人で戦う意味、なくない?」


……。


反論しようとして。


言葉が出なかった。


四人で戦う意味。


先日の魔物討伐で。


オスカーが盾を出した瞬間が。


頭をよぎる。


あれは。


俺が命じた行動ではない。


それでも。


必要だった。


「……お前ならどうする」


口にしてから。


自分でも驚いた。


サラは。


少しだけ笑みをうかべた。


「まず、三人に聞くかな」


「自分が何をできるか」


「何を守れるか」


「どこまでなら任せてほしいか」


「それで?」


「その答えを使って、レオンが作戦を考える」


「指揮するのはレオンでいいんだよ」


「でも、考えるのまで独り占めしなくてもいいでしょ」


……。


三人の意見を聞く。


それで。


本当に勝てるのか。


前世でも。


部下の提案を採用して。


結果が出なかったことがある。


だが。


俺一人で考えた今日の作戦も。


結果は出なかった。


なら。


一度くらい。


試してみる価値はあるか。


「参考にはする」


俺が言うと。


サラは。


また笑った。


「参考ね~、まあいいわ」


「何だ」


「ううん、明日は勝ちなよ」


「当然だ」


俺は。


立ち上がり寮へ戻る。


背中へ。


サラの声が飛んできた。


「あと、レオン!」


「何だ」


「三人が何か言ったら」


「最後まで聞いてあげなよ!」


……。


お前が言うか。


だが。


図書館を出ても。


その言葉は。


頭に残っていた。


大事なのは。


試合に勝つことだ。


◇◇◇


翌朝。


俺は。


試合前の三人を呼んだ。


「昨日の敗因を整理した」


リナが。


露骨に顔をしかめる。


「また反省会?」


「いや」


俺は。


地面に小枝で四つの丸を描いた。


「先に、お前たちの考えを聞きたい」


ミレイユが。


瞬きをした。


「え……本当に?」


「二度は言わない」


「じゃあ言うけど」


ミレイユは。


丸の一つを指した。


「私、後ろにいるだけじゃ」


「敵の動きが全部見えない」


「少し横へ出て、進路を見たい」


「なるほど」


俺は。


丸の位置を動かした。


リナも。


地面を覗き込む。


「私は火で道を塞げるけど」


「前衛がどっちへ動くか分からないと」


「撃つ場所が決めにくい」


「オスカーは?」


「……俺は」


オスカーが。


盾を握り直した。


「一人を止めるなら、できる」


「でも、二人に左右から来られると」


「わからない」


……。


昨日。


俺が見ていたのは。


三人の能力だけだった。


三人が。


何を見ているか。


何に困っているのか。


そして何ができると思っているか。


そこまでは。


聞いていなかった。


「分かった」


俺は。


地面の線を引き直した。


「作戦を変える」


「次は白竜騎士団だ」


《潜在解析(ディープアナライズ)》で。


おおよその戦力は確認済だ。


「どう変えるの?」


ミレイユが聞く。


「俺は最初から突っ込まない」


リナが。


驚いた。


「珍しいじゃん」


「必要がないからだ」


俺は。


小枝を置いた。


「オスカーは中央の少し前」


「相手を止める役だ」


「……俺が?」


「ああ」


「前へ出てきた敵を、盾で受けてほしい」


「倒す必要はない」


オスカーは。


自分の盾を見た。


「それなら……できるかも」


「ミレイユ」


「相手の動きと旗の位置を見てくれ」


「俺が見落としたら、遠慮なく言え」


「本当に?」


「前の試合でも、お前の方が先に気づいた」


ミレイユは。


少しだけ笑った。


「分かった」


「リナは中央の後ろ」


「相手を倒すより、動く道を塞いでくれ」


「撃つ場所とタイミングは任せる」


リナが。


顔を上げた。


「……私が決めていいの?」


「敵の動きに合わせるなら」


「お前が判断した方が早い」


……。


言いながら。


自分の言葉を確かめる。


以前の俺なら。


細かい発動位置まで。


指定していただろう。


だが。


俺の視界からでは。


分からないことがある。


「で、レオンは?」


ミレイユが聞いた。


「お前たちが作った隙を使う」


リナが。


目を細める。


「つまり、私たちが先に動くってこと?」


「ああ」


「……変なの」


そう言いながら。


リナは。


笑っていた。


◇◇◇


バルドの声がした。


「試合が始まるぞ」


「集合しろ」


開始の笛。


相手の二人が。


中央へ進んできた。


オスカーが。


盾を構える。


最初の剣を受ける。


鈍い音。


一人なら。


オスカーは確実に抑えられるようだ。


もう一人が。


横へ回った。


「右、抜ける!」


ミレイユが叫ぶ。


相変わらず。


判断が速い。


俺は。


そちらへ動きかけた。


だが。


「任せて!」


リナが。


先に声を上げた。


リナが。


学園で許された下級の火球を放つ。


火球は敵の足元に落ちた。


小さな炎が。


砂の上で一瞬広がる。


相手は。


反射的に踏みとどまった。


威力は低い。


だが。


狙いが正確だ。


やはり。


魔力制御の才能がある。


「レオン、左!」


ミレイユの声。


俺は。


考えるのをやめて。


踏み込んだ。


相手の一人が。


オスカーの盾に気を取られている。


そこへ。


剣を当てた。


一人戦闘不能。


「オスカー、そのまま!」


「うん!」


もう一人の剣が。


盾に当たる。


オスカーは。


無理に押し返さない。


その場で。


相手の足を止め続けた。


ミレイユの矢が。


敵の進路を狭める。


リナの火が。


反対側を塞ぐ。


逃げ道が。


一つになる。


だが。


相手も馬鹿ではない。


俺の剣を警戒し。


急に足を止めて。


オスカーの盾の脇へ戻ろうとした。


「戻るよ、レオン!」


ミレイユが。


動きを読んで叫ぶ。


俺は。


追いかけようとして。


踏みとどまった。


「オスカー、半歩だけ左!」


「うん!」


盾が。


相手の退路を狭める。


リナは。


新しい火球を撃たずに。


敵の進む先へ杖を向けた。


それだけで。


相手は足を止めた。


……。


今だ。


俺は。


三人が作った隙へ踏み込んだ。


訓練剣が肩に触れる。


二人目。


戦闘不能。


……。


悪くない。


だが。


相手はまだ二人。


「旗へ一人向かった!」


ミレイユが叫ぶ。


「追う!」


俺が言うと。


「待って!」


オスカーの声だった。


「こっちは俺が止める」


「レオンは旗へ!」


……。


いつもなら。


俺が指示する側だ。


だが。


オスカーの判断は。


間違っていない。


「ああ、任せた!」


俺は走った。


相手が。


旗へ手を伸ばす。


だが。


俺が近づくと。


相手は旗を諦め。


剣をこちらへ向けた。


……。


時間を稼ぐつもりか。


「レオン、左へ追い込んで!」


ミレイユの声。


見れば。


左の退路には。


リナが小さな火球を構えている。


俺は。


剣を右から振った。


相手は。


左へ避ける。


「今!」


リナが。


火球を足元へ落とした。


相手の動きが止まる。


その直前ではなく。


その瞬間を待って。


俺の訓練剣が。


相手の腕に触れた。


三人目。


戦闘不能。


残る一人は。


オスカーに足止めされている。


「ミレイユ!」


「見えてる!」


矢が。


相手の足元へ当たる。


その隙に。


俺が間合いを詰めた。


四人目も。


戦闘不能。


そして。


笛が鳴った。


「チームC(仮)、勝利!」


◇◇◇


「勝った!」


リナが。


両手を上げた。


ミレイユも。


ほっと息を吐く。


オスカーは。


しばらく盾を見つめていた。


「……俺」


「役に立てたかな」


「ああ」


俺は答えた。


「お前が中央を止めなければ」


「相手はもっと自由に動けた」


オスカーが。


顔を上げた。


「そっか」


リナが。


俺の顔を見て言った。


「魔法撃つ場所は自分で決めたんだけど」


「よかった?」


「そうだな」


「いい判断だった」


リナは。


一瞬。


笑顔を見せた。


そして。


「……ありがと」


いつもより小さい声だった。


ミレイユが。


俺の肩を軽く叩いた。


「レオンも、今日はちゃんと周りを見てたね」


「いつも見ているつもりだ」


「前よりも、見てたねってこと!」


……。


褒められているのか。


分からない。


◇◇◇


その後。


最後の相手は。


蒼き焔(ブルーブレイズ)だった。


試合は続いた。


白竜騎士団に勝てても。


次まで勝てるとは限らない。


蒼き焔は。


正面から強く押してきた。


こちらが守りを固めれば。


今度は攻めあぐねた。


ミレイユの矢を警戒されれば。


別の経路を探す必要があった。


リナが魔力を使いすぎて。


後半に動きが鈍ることもあった。


オスカーの盾も。


二方向を同時には守れない。


皆。


万能ではない。


だが。


「次、どうする?」


ミレイユが聞いた。


「相手の射手、右ばかり見てる」


「私は左から動きを見たい」


「俺は右側を守ろうかな」


オスカーが。


地面の図を覗き込む。


「さっき、あそこを抜かれそうになったから」


「じゃあ、私は火で牽制する」


リナも続いた。


……。


三人が。


自分たちで考えている。


俺は。


その意見を聞きながら。


次の配置を考えた。


……。


少し前まで。


三人は。


俺の指示を嫌がっていた。


今は。


自分から役割を聞いてくる。


不思議だ。


……。


何が変わった?


俺は、三人に《潜在解析(ディープアナライズ)》を使った。


しかし。


表示された能力に。


目立った変化はない。


「オスカーは」


「言ったとおり、右側を頼む」


「分かった」


「ミレイユは」


「左から射手を見てくれ」


「了解」


「リナは」


「火で牽制するんだな?」


「うん」


「相手はもう火を警戒している」


「撃つかどうかは、お前が決めてくれ」


「任せて」


三人が。


それぞれの位置へ向かった。


俺は。


その背中を見た。


……。


以前なら。


細かく指示しなければ。


不安だった。


だが。


今日は。


どこまで任せるかを。


考えている。


◇◇◇


最後の試合は。


制限時間まで決着がつかなかった。


残った人数は。


双方とも三人。


引き分けだ。


一勝。


二敗。


二分け。


上位とは言えない。


それでも。


昨日とは違う手応えがあった。


◇◇◇


夕方。


訓練終了の笛が鳴った。


バルドが。


全員を集める。


「この二日間」


「試合を重ねる中で」


「多くのことを学べたと思う」


バルドの視線が。


一瞬。


こちらへ向いた。


「強い者が前へ出るだけでは」


「守れないものもある」


「逆に」


「一人では届かない場所へ」


「仲間が道を作ることもある」


……。


道を作る。


俺は。


昨日と今日の試合を思い返した。


俺自身の剣術が。


急に上達したわけではない。


三人の能力も。


一日で変わったわけではない。


変わったのは。


俺がメンバーの話を聞いて。


役割と動きを判断したこと。


そして。


メンバー自身も考えて動いたこと。


……。


これが。


集団の強さなのか?


七国武競祭で。


抱いた疑問が。


少しだけ。


形を持った気がした。


アレンの言葉が。


また浮かぶ。


『もっとみんなを信頼したら?』


……。


だが。


これらの行動と。


人を信頼することは。


同じなのか。


まだ。


よく分からない。


ただ。


今日の俺は。


三人が何をするか。


すべてを決めてはいなかった。


それでも。


勝てた。


いや。


すべてを決めなかったから。


勝てたのかもしれない。


「レオン!」


リナの声がした。


振り向くと。


三人が。


訓練場の出口で待っていた。


「早く!」


「置いていくよ!」


「……今行く」


俺は。


歩き出した。


四人の足音が。


並んだ。


まだ。


揃ってはいない。


だが。


昨日までより。


少しだけ。


近かった。


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