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第43話 計算外の一手

翌朝。


俺たちは。


予定どおり。


野営地を出発した。


昨日とは違い。


帰路に大きな問題はなかった。


ミレイユが地図を確認し。


オスカーが足元を見て。


リナが周囲を警戒する。


俺は最後尾から。


進行速度を管理した。


「次の分岐は右だ」


「……左の方が歩きやすいよ」


ミレイユが答えた。


「距離は右が短い」


「昨日もそう言ったよね」


……。


結局。


左を通った。


時間の損失は。


ほとんどなかった。


それが。


余計に気に入らなかった。


◇◇◇


学園の門が見えたのは。


昼前だった。


帰着したチームから。


バルドの前に並ぶ。


「全員、無事だな」


「はい」


「今回の総合順位を発表する」


俺は。


腕を組んだ。


初日は最下位。


だが。


二日目の遅れは少ない。


挽回できたはずだ。


「チームC(仮)」


「六チーム中、五位だ」


……。


五位。


最下位は免れた。


それだけだった。


「帰路は悪くなかった」


バルドが言う。


「だが初日の遅れが大きい」


「それと」


「各自の判断を」


「チームの行動に生かせていない」


……。


結果だけなら。


理解できる。


だが。


最後の指摘は。


納得できなかった。


判断する者は。


一人でいい。


複数の判断が混ざれば。


指示は乱れる。


そうではないのか。


隣で。


リナが小さく息を吐いた。


ミレイユは。


何も言わなかった。


オスカーだけが。


「五位か……」


と呟いた。


俺たちは。


誰も互いを見ないまま。


解散した。


◇◇◇


それから。


野外実習は。


何度か繰り返された。


地形調査。


物資の運搬。


指定地点での探索。


課題は変わる。


だが。


チームの問題は。


変わらなかった。


「ミレイユ、先に偵察しろ」


「今は見通しがいいよ」


「念のためだ」


「その間に進めるでしょ」


別の日には。


「リナ、魔法で合図を出せ」


「わざわざ魔法を使う必要ある?」


「その方が確実だ」


「他の方法は試さないの?」


さらに別の日。


「オスカー、荷物を持て」


「……先に道を確かめた方が」


「今は運搬が優先だ」


オスカーは。


結局。


荷物を持った。


だが。


その顔には。


言いかけた言葉が。


残っていた。


……。


俺は。


正直。


いら立っていた。


なぜ。


指示どおりに動けない。


俺は。


能力に合わせて。


役割を与えている。


間違ったことは。


していない。


それなのに。


三人は。


俺の判断を疑う。


そして。


俺が強く指示するほど。


返事は短くなった。


「分かった」


そう言っても。


納得した顔ではない。


実習の順位は。


四位。


五位。


また四位。


上位には届かない。


このままでは。


評価が上がらない。


……。


能力が足りないのではない。


連携が悪い。


問題は。


明白だった。


◇◇◇


剣術の授業は。


俺が選択した科目の一つだ。


二回生からは。


全てのクラスの合同で。


選択授業を行う。


その日。


訓練場で。


木剣を振っていると。


「レオン」


聞き覚えのある声がした。


振り返る。


「アレン」


アレン・アルセリア。


王子であり。


以前からの知り合いであり。


ゴールドクラスの。


主席だ。


「久しぶり」


アレンは。


いつものように笑った。


「一緒に練習しようよ」


「構わない」


木剣を合わせる。


一歩。


二歩。


アレンの踏み込みは。


以前より鋭くなっていた。


俺が横へ払うと。


アレンは受け流す。


「どうしたの?」


「機嫌悪そうだね」


「剣に集中しろ」


「してるよ」


そう言って。


アレンは。


余裕で。


俺の一撃を避けた。


……。


相変わらず


面倒な奴だ。


稽古が終わり。


水を飲みながら。


俺は。


つい口を滑らせた。


「チームの連中が」


「まるで指示を聞かない」


「野外実習?」


「ああ」


「俺が計画を立てても」


「勝手に別のことをする」


「だから結果が出ない」


アレンは。


少し考えてから。


「レオンらしいね」


と言った。


「何がだ」


「全部」


「自分で決めようとしてるでしょ」


「決めなければ動かないだろう」


「そうかな」


アレンは。


木剣を肩に担いだ。


「もっとみんなを信頼したら?」


……。


「なんだそれ」


「意味が分からない」


「レオンはさ」


「みんなが自分で考えて動くことを」


「あまり信じてないんじゃない?」


「当然だ」


俺は即答した。


「勝手に動かれたら計画が狂う」


「それでは組織にならない」


「結果も生まれない」


「でも」


アレンは。


少し笑った。


「レオンが全部決めちゃったら」


「ほかの三人は」


「何を考えればいいの?」


……。


何を。


考える?


俺の指示を聞いて。


自分の役割を。


確実に果たせばいい。


遊びじゃないんだ。


結果を出す必要があるんだ。


そう言おうとして。


なぜか。


言葉が止まった。


◇◇◇


前世。


俺が経営していた会社でも。


似たようなことがあった。


「社長」


会議室で。


部長が資料を差し出す。


「新しい案件の対応ですが」


「どう進めればよろしいでしょうか」


「それを考えるのがお前の仕事だろう」


「申し訳ありません」


「では、こちらの案で――」


「違う、そうじゃないだろ」


俺は。


説明の途中で遮った。


「そのやり方では遅い」


「まず、競合の確認を――」


具体的な手順を示す。


担当者を決める。


期限を切る。


部長は。


何度も頷いた。


「承知しました」


その部長は。


資料を閉じた。


別の日。


「社長」


「一つ、提案があるのですが」


「何だ」


「今回の案件は、現場の判断で――」


「必要ない」


俺は。


最後まで聞かなかった。


「それでは時間がかかる」


「俺の指示どおりに進めろ」


「……承知しました」


それから。


その部長が。


自分の意見を。


持ってくることは。


なくなった。


……。


仕事を覚えたのだろう。


翌週。


また別の部長が。


俺の判断を待っていた。


「社長」


「新規商品のテストですが」


「どの部分を重点確認すべきでしょうか?」


その次の週も。


同じだった。


……。


自分で考えろ。


何度。


そう言ったことか。


だが。


社員は。


俺の期待する答えを。


持ってこない。


結局。


俺が決める事になる。


そして。


いつしか。


指示を待つだけになった。


俺は。


いつもいら立っていた。


なぜ。


自分で考えられない。


自分で動けない。


……。


今の三人も。


同じだ。


正しい指示が必要だ。


でなければ。


結果は出ない。


やはり。


俺の考えは。


間違っていない。


そう思った。


だが。


会議室で。


誰も意見を言わなくなった時の。


あの沈黙だけが。


妙に頭に残った。


◇◇◇


次の野外実習で。


バルドが告げた。


「気合を入れろ」


「今回は魔物討伐だ」


生徒たちが。


ざわめいた。


「学園が管理する森の外縁に」


「低位の魔物が確認されている」


「各チームで指定区域を巡回し」


「発見した魔物に対処する」


「実戦形式の実習だ」


「危険だと判断したら」


「すぐに退避しろ」


「教師が近くで監督している」


初めての。


実戦を伴う課題。


ようやく。


まともな実習だ。


俺は。


三人を見た。


「戦闘配置は前に決めたとおりだ」


「オスカーが前衛」


「ミレイユが後衛から援護」


「リナは魔法」


「俺が全体を見て指示する」


ミレイユが。


小さく頷く。


リナは。


何も言わない。


オスカーは。


盾の持ち手を握り直した。


……。


せめて。


戦闘中くらいは。


指示に従ってもらわなければ。


◇◇◇


森の奥で。


枝が折れる音がした。


ミレイユが。


弓を構える。


「右前方」


「二体いる」


茂みから。


灰色の獣が現れた。


狼に似た魔物。


牙が長く。


背中に硬い毛が逆立っている。


俺は。


すぐに固有スキルを発動した。


《潜在解析(ディープアナライズ)》


【対象:灰牙狼(グレイハウンド)】


【脅威度:低】


【攻撃特性:高速接近・噛みつき】


【火属性耐性:低】


【弱点:腹部】


……なるほど。


動きは速いが。


弱点は明確だ。


対処は難しくない。


一体。


もう一体。


そして。


奥の茂みが揺れた。


……三体か。


「よく聞け」


「素早い接近戦に注意しろ!」


「爪と牙がある」


「遠距離からの攻撃は無い」


「弱点は腹部だ」


「リナ、お前の火魔法に弱いぞ」


俺は情報を。


すぐに皆へ共有する。


「そんな一瞬で」


「弱点まで分かるの?」


「……すごいね」


ミレイユは。


俺を見て。


感心している。


「オスカー、正面を守れ」


「ミレイユ、右の個体を牽制」


「リナ、火で左を止めろ」


「俺が中央を倒す」


言い終える前に。


灰牙狼が飛び出した。


速い。


だが。


動きは単純だ。


俺は。


剣を横へ振る。


中央の一体が。


地面を転がった。


「ミレイユ、今だ!」


矢が走る。


右の魔物の足元に刺さり。


進路を変えさせた。


「リナ!」


「分かってる!」


火球が。


左の魔物の前に落ちる。


炎を嫌った魔物が。


一瞬止まった。


その隙に。


俺が踏み込む。


二体目。


倒した。


残った一体が。


オスカーの盾を避けて。


リナへ向きを変える。


「オスカー、追うな!」


「その位置を維持しろ!」


「ミレイユ、右側を塞げ!」


「リナ、二歩下がって火球を放て!」


三人が。


ほとんど同時に動いた。


矢が進路を遮り。


リナの火球で地面が燃える。


魔物は身を翻して。


木々の間へ退いた。


……。


悪くない。


指示さえ通れば。


この程度は。


問題にならない。


「残り一体」


俺が言った時。


「レオン、上!」


ミレイユの声が。


森に響いた。


……上?


振り向くより早く。


枝の陰から。


もう一体が飛びかかってきた。


四体目。


木の上にいたのか。


俺は。


まだ剣を構えられていない。


間に合わない。


「レオン!」


オスカーが。


俺の前へ飛び出した。


俺は。


何も指示していない。


それなのに。


オスカーは。


迷わず動いた。


鈍い音。


牙が。


盾にぶつかる。


オスカーの足が。


地面を滑った。


「ぐっ……!」


だが。


踏みとどまった。


「右へ!」


ミレイユが叫ぶ。


俺は。


反射的に身を引いた。


矢が。


俺のいた場所を抜け。


魔物の肩を射抜く。


「リナ、追撃!」


俺の声と。


リナの詠唱が。


重なった。


火球が飛ぶ。


四体目が倒れた。


茂みへ退いていた三体目が。


仲間を失い。


逃げようとした。


「左に回る!」


ミレイユが言う。


「オスカー、進路を塞げ!」


俺が指示すると。


オスカーが盾を構え直した。


魔物が向きを変える。


その先には。


すでに。


俺がいた。


剣を振り下ろす。


静かになった。


◇◇◇


「……終わった?」


リナが。


息を整えながら言った。


「ああ」


俺は。


周囲を確認する。


倒した魔物は。


全部で四体。


最初に見えた数より。


一体多かった。


「オスカー」


「腕は大丈夫か」


「……うん」


オスカーは。


盾の裏を確かめた。


「ちょっと痺れたけど」


「怪我はない」


「そうか」


……。


あの瞬間。


オスカーが前に出なければ。


俺は。


魔物の牙を受けていた。


「助かった」


思わず。


口にすると。


オスカーが。


驚いた顔をした。


「え?」


「さっきの盾だ」


「……うん」


オスカーは。


少し照れたように笑った。


ミレイユが。


俺を見た。


「レオン」


「何だ」


「さっきの指示」


「すごく分かりやすかった」


リナも。


小さく頷いた。


「魔物が出た時」


「何をすればいいか、すぐ分かった」


「……当然だ」


俺は答えた。


「状況を見て」


「必要な指示を出しただけだ」


ミレイユは。


複雑そうな顔をして。


俺に言った。


「レオンって」


「人の話は全然聞かないけど」


「戦ってる時の判断は」


「本当にすごいよね」


なんだそれ。


「それは認める」


リナも。


小さく頷いた。


「指示も分かりやすかったし」


「……ちょっと見直した」


そう言ってから。


少しだけ笑った。


……。


だから。


なんだそれは。


妙な気分だった。


いつもなら。


俺の指示に。


反発する二人が。


今は。


素直に評価している。


だが。


それ以上に。


気になることがあった。


四体目を。


俺は見落とした。


ミレイユは気づいた。


オスカーは。


指示を待たずに動いた。


リナは。


俺が言い終える前に。


魔法を放っていた。


……。


もし。


全員が。


俺の指示を待っていたら。


どうなっていた。


アレンの言葉が。


頭をよぎる。


『もっとみんなを信頼したら?』


……。


まだ。


意味は分からない。


だが。


俺の判断だけでは。


防げなかった攻撃を。


三人が防いだ。


それは。


事実だった。


「……次も」


俺は。


三人に向き直る。


「今みたいに動ければ」


「悪くない」


「何それ」


リナが笑った。


「褒めてるの?」


「評価している」


「同じことでしょ」


ミレイユも。


小さく笑った。


オスカーは。


まだ盾を握っていた。


俺は。


その盾を。


もう一度見た。


……。


俺一人が。


適切な指示をすれば。


問題ない。


結果が出る。


そう考えていた。


だが。


今日の俺は。


一人では。


無事で済まなかったかもしれない。


その事実を。


どう扱えばいいのか。


まだ。


答えは出なかった。


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