↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
42/45

第42話 合理的な失敗

「全員、いるな」


バルドの声が。


朝の森に。


響いた。


学園の門を出て。


数時間。


俺たちは。


野外実習の。


出発地点にいた。


眠い。


昨日も。


魔法理論の資料を。


整理していた。


だが。


問題はない。


頭は動く。


少なくとも。


この程度の実習なら。


「レオン」


ミレイユが。


顔を覗き込んだ。


「また寝てないの?」


「必要な分は寝た」


「何時間?」


「……三時間」


「それ、必要な分じゃないよ」


余計なお世話だ。


隣で。


リナがため息をつく。


オスカーは。


装備の留め具を。


何度も確かめていた。


◇◇◇


「今回の課題は」


バルドが。


地図を掲げる。


「指定された三つの地点を通り」


「日没までに」


「北の森の野営地へ到着することだ」


「途中の目印を記録し」


「必要な水や食料は自分たちで確保しろ」


「到着後は」


「各チームで野営の準備をする」


「翌朝、学園へ戻る」


「それだけだ」


なるほど。


移動。


観察。


資源確保。


野営。


一連の工程を。


実行させるわけか。


「それと」


バルドの声が。


少し低くなった。


「道中で起こるトラブルは」


「自分たちで判断して対応するように」


……。


「危険だと判断したら」


「無理をせず、教師に知らせろ」


「監督役は離れた位置にいる」


笛の音が。


森に響いた。


実習開始だ。


それぞれのチームが。


進んでいく。


◇◇◇


「オスカー、先頭」


「ミレイユ、二番」


「リナ、三番」


「俺が最後尾だ」


前回。


決めた通り。


「ちょっと待って」


ミレイユが。


地図を覗いた。


「最初の分岐」


「こっちの小道じゃない?」


「違う」


俺は。


地図を指す。


「直進した方が短い」


「でも、等高線が詰まってる」


「傾斜はある」


「距離は短い」


「足場が悪かったら?」


「その時に俺が判断する」


ミレイユは。


不満そうな顔で。


口を閉じた。


オスカーが。


こちらを見る。


「……直進で、いい?」


「ああ」


俺たちは。


細い道へ入った。


◇◇◇


二十分後。


道は。


消えていた。


「……道、ないね」


リナが言う。


目の前には。


斜面と。


絡み合った木の根。


地図では。


通れるはずだった。


「地図が古いのかも」


ミレイユが。


周囲を見渡す。


「雨で崩れた跡がある」


「この先」


「もっと危ないよ」


ミレイユが。


斜面を指さした。


「地図にはないけど」


「木の根が露出してる」


「地盤も緩んでる」


「無理に進んだら」


「誰かが怪我をする」


……。


なるほど。


地形の変化を。


読んでいるのか。


状況判断。


潜在A。


その片鱗は。


あるらしい。


「引き返す」


俺は即答した。


「さっき」


「私、言ったよね」


ミレイユの声が。


硬い。


「足場が悪かったらって」


「予想より悪かった」


「それだけだ」


「だから」


「先に確認したかったんだけど」


「今、確認できた」


「そういう話じゃないでしょ!」


リナが。


声を上げた。


……。


何を怒っている。


経路の修正は。


必要な判断だ。


「戻ればいい」


「時間はまだある」


「その時間を」


「最初から無駄にしないために」


「話したんでしょ」


ミレイユが。


そう言った。


俺は。


返事をしなかった。


間違った経路を。


選んだのは。


事実だ。


だが。


失敗の指摘だけでは。


先へ進めない。


「オスカー」


「戻るぞ」


「……うん」


オスカーは。


何か言いかけて。


やめた。


◇◇◇


元の分岐へ。


戻った頃には。


予定より。


四十分遅れていた。


俺は。


地図に印をつける。


経路変更。


四十分の損失。


原因。


地形確認不足。


次からは。


事前確認を増やす。


それでいい。


◇◇◇


少し進むと。


「少し休もう」


オスカーが言った。


「まだ歩ける」


俺は答えた。


「でも……」


「何だ」


「リナが」


「さっきから」


「右足をかばってるから」


オスカーが。


小さく付け加えた。


……。


こいつ。


先頭なのに。


後ろのメンバーを。


見ているのか。


俺は。


リナを見る。


靴紐を直している。


「足、痛いのか」


「別に」


「なら進む」


「……ちょっと擦れただけ」


ミレイユが。


しゃがみ込んだ。


「見せて」


「大丈夫だって」


「大丈夫かどうか」


「確認するの」


俺は。


立ったまま。


待った。


予定が。


さらに遅れる。


そう。


思った。


◇◇◇


昼を過ぎた頃。


道の向こうから。


声がした。


「誰か!」


四人が。


足を止める。


「助けてくれ!」


小さな荷車が。


道端で傾いていた。


薪を積んだ。


年配の男が。


車輪の下で。


困っている。


「軸が外れちまって」


「一人じゃ持ち上がらん」


男は。


俺たちを見ると。


頭を下げた。


「少しだけ、手を貸してくれないか」


……。


俺は。


周囲を確認した。


魔物の気配はない。


男も。


大きな怪我はなさそうだ。


「行くぞ」


俺が言うと。


リナが。


足を止めた。


「え?」


「手伝わないの?」


「目的地への到着が優先だ」


「でも」


「困ってるじゃない」


「教師に伝える」


「この道は」


「学園の実習経路だ」


「教師も巡回している」


「俺たちが報告すれば」


「対応できる」


「怪我もなさそうだ」


「それより」


「今は自分たちの課題が優先だ」


「それで十分だ」


「十分じゃないよ!」


リナが。


男の方を見た。


「ここで」


「置いていくの?」


「命に関わる状態ではない」


「そういう問題じゃない!」


……。


まただ。


「荷車を直すのに」


「どれだけかかるか分からない」


「俺たちはすでに遅れている」


「だからって」


「見捨てるの?」


ミレイユも。


口を開いた。


「手伝えるかどうか」


「見てから決めてもよくない?」


「見た」


「時間がかかる」


「まだ何も試してないでしょ」


……。


オスカーが。


荷車を見つめていた。


「俺」


小さな声だった。


「……少しなら」


「持ち上げられるかも」


俺は。


オスカーを見る。


身体能力。


C+。


荷車を支えられるか。


重量は。


正確には分からない。


「危険だ」


俺は止めようとした。


「大丈夫」


オスカーは。


それでも。


荷車へ向かった。


リナも。


ミレイユも。


続く。


……。


俺だけが。


道に残った。


また。


遅れる。


そう。


思った。


「レオン!」


リナが振り返る。


「手伝って!」


……。


このままでは。


余計に。


時間がかかる。


「分かった」


俺は。


仕方なく。


荷車に近づいた。


《解析眼(アナライズ)》


【対象:荷車】


【状態:走行不能】


【異常箇所:左車輪】


【原因:車軸のずれ・一部破損】


【修復難度:低】


「オスカー」


「左側を支えろ」


「ミレイユ」


「車輪の軸を見ろ」


「リナ」


「薪を少し下ろせ」


「俺が反対側を持つ」


三人が。


動いた。


荷車が。


ゆっくり浮く。


「今だ」


ミレイユが。


外れた軸を。


はめ直した。


「……入った!」


車輪が。


地面に戻る。


男は。


何度も。


頭を下げた。


「助かったよ」


「本当にありがとう」


リナが。


笑った。


ミレイユも。


笑う。


オスカーは。


少しだけ。


嬉しそうだった。


俺は。


時計を見る。


二十五分。


……。


意外に短かった。


「ほら」


リナが。


俺を見た。


「ちゃんと助けられたじゃない」


「結果的にはな」


「何よ、それ」


「俺たちの目的は、指定された場所に時間内に到着することだ」


「だからって」


リナが。


眉をひそめる。


「困っている人を見捨てていい理由にはならないでしょ」


「そうだよ」


ミレイユも。


頷いた。


「少し手伝えば済むことだったんだから」


……。


確かに。


二十五分で終わった。


だが。


最初から。


そうなると分かっていたわけではない。


「今回はうまくいった」


「だが、毎回そうとは限らない」


「それでも」


リナが。


言い返す。


「目の前で困っている人がいたら、助けたいと思うのが普通でしょ」


……。


普通。


何を基準に。


普通と言うのか。


俺たちには。


達成すべき目的がある。


その目的よりも。


個人の感情を優先していては。


計画が成り立たない。


「その場の感情だけで判断するべきじゃない」


俺は。


そう答えた。


「……もういい」


リナが。


呆れたように。


視線を逸らした。


ミレイユも。


何も言わなかった。


……。


何が。


そんなに不満なんだ。


俺は。


間違ったことを。


言っていないはずだ。


それからも。


三人は。


何かあるたびに。


自分たちで。


行動を決めようとした。


俺が指示を出す前に。


勝手に動くこともあった。


……。


指示系統が。


まるで機能していない。


これでは。


チームとして。


効率的に動けるはずがない。


◇◇◇


野営地が。


見えたのは。


夕方だった。


予定よりも二時間以上遅い。


だが。


まだ。


課題は終わらない。


「ここで野営の準備をしろ」


監督の教師が。


指示した。


……。


俺たちは。


荷物を下ろした。


「じゃあ」


俺が言いかけた時。


「薪、集めてくる」


リナが立ち上がった。


「私、火を起こすから」


「先に天幕じゃない?」


ミレイユが言う。


「雨、降りそう」


「俺は……」


オスカーが。


盾を置く。


「水、汲んでくる?」


「待て」


俺は。


三人を止めた。


「順番を決める」


「今?」


リナが言う。


「今だ」


「まず天幕」


「次に薪」


「その後、水」


「食事は最後」


「水がなきゃ」


「食事もできないでしょ」


「だから汲む」


「一人ずつやる必要ある?」


ミレイユが


空を見る。


雨粒が。


一つ。


頬に落ちた。


「同時に動けばいい」


「だったら」


「誰が何をするの?」


……。


それは。


まだ決めていない。


戦闘時の配置。


移動時の順番。


そこまでは。


決めた。


だが


野営の分担は。


決めていなかった。


戦闘。


移動。


危険が伴う。


重要な工程だ。


だから。


事前に役割を決めた。


だが。


野営は。


単純な作業だ。


誰でもできる。


そう考えていた。


実際には。


誰が何をするか。


決まっていない。


……。


なら。


今決めればいい。


「俺が決める」


「また?」


リナの声が。


鋭くなる。


「自分でやることくらい」


「自分で決めたい」


「勝手に動けば」


「重複する」


「だから」


「相談すればいいじゃない!」


「相談する時間が無駄だ」


「今、喧嘩してる時間は」


「無駄じゃないの?」


……。


返す言葉が。


一瞬。


見つからなかった。


「俺」


オスカーが。


小さく手を挙げた。


「天幕、張れるよ」


三人が。


見る。


「前に」


「父さんとやったことがある」


「じゃあ任せる」


ミレイユが言う。


「私は水場を確認してくる」


「私、火を起こす」


リナが続けた。


「レオンは」


「薪を集めて」


……。


また。


俺への指示だ。


「効率を考えるなら」


ミレイユが。


言った。


「得意な人が」


「やればいいでしょ」


その言葉には。


反論できなかった。


「……分かった」


◇◇◇


結局。


野営の準備ができた頃には。


夜になっていた。


「チームC(仮)」


教師が。


記録板を持って。


やってきた。


「野営準備、完了か」


「完了だ」


俺が答える。


教師は。


天幕と火を。


確認した。


「よし」


「到着を認定する」


そして。


記録板を。


見た。


教師は。


記録板を指で叩いた。


「到着時間」


「三地点の記録」


「野営準備」


「初日の課題を」


「まとめて見た順位だ」


「明日の帰路も」


「評価に入る」


「まだ最終成績ではないが」


「……最後だな」


「アイアンクラスの全チームで」


「お前たちが最下位だ」


「明日は巻き返せるように頑張れ」


……。


最下位。


俺は。


ショックだった。


確かに。


道を間違えた。


だが。


荷車を直さなければ。


早く着けた。


野営の分担でも。


揉めた。


原因は。


明確だ。


「次は」


俺が口を開く。


「事前に」


すべての役割を。


決めておけば――。


「レオン」


ミレイユが。


静かに呼んだ。


「それだけじゃ」


「ないと思う」


「何が」


「今日」


「私たちの話」


「ほとんど聞かなかったよね」


リナが。


火を見つめたまま。


言う。


「私たち」


「レオンの道具じゃないよ」


……。


道具。


そんなつもりは。


ない。


能力を見て。


適切な場所に。


配置した。


それだけだ。


「俺は」


「全員が」


「無事に」


「早く着くために」


「考えただけだ」


「うん」


オスカーが。


小さく言った。


「それは」


「分かるよ」


「でも」


言葉が。


続かない。


「……俺も」


「もう少し」


「話してみたかった」


俺は。


三人を見る。


リナは。


怒っている。


ミレイユは。


困った顔をしている。


オスカーは。


また。


俯いている。


《解析眼(アナライズ)》を。


使ったところで。


答えは出ない。


最下位。


この四人なら。


もっと早く。


到着できたはずだ。


俺の指示に。


皆が。


従っていれば。


俺は。


今日の行動を。


頭の中で。


最初から。


並べ直した。


分岐。


荷車。


野営。


判断を。


一つずつ。


検証する。


やっぱり。


三人の言うことが。


俺には。


よく分からなかった。


◇◇◇


夜。


天幕の外で。


火が。


静かに燃えていた。


リナは。


オスカーに。


火の番の仕方を。


教えている。


ミレイユは。


明日の道を。


地図で確認していた。


……。


皆の表情は。


暗い。


三人は。


俺とは違う理由で。


今日を。


悔しがっているようだった。


……。


違う考え方をする。


人間がいる方が。


見落としが。


減る。


以前。


そう考えた。


サラと。


魔法理論を。


調べていた時だ。


だが。


今回は。


どうだ。


俺たちは。


四人いた。


それなのに。


最下位だった。


……。


何が。


違う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。