第41話 チームC(仮)
眠い。
猛烈に。
眠い。
◇◇◇
「レオン」
「起きてるか?」
「起きている」
「目、閉じてるぞ」
「考えている」
「寝てるだろ」
カイルの声が。
いつもより。
遠く聞こえる。
俺は。
机に肘をついたまま。
目を開けた。
教室。
午前の授業。
窓から。
春の光が。
差し込んでいる。
眠い。
原因は。
分かっている。
昨日。
図書館を出たのは。
閉館直前。
その後。
寮に戻って。
魔法理論の資料を。
整理した。
気づいた時には。
日付が。
変わっていた。
ここ数日。
ずっと。
そんな生活だ。
「珍しいな」
カイルが。
笑う。
「レオンが」
「授業中に眠そうなの」
「眠そうなだけだ」
「同じだろ」
違う。
寝てはいない。
眠いだけだ。
今日は。
あいつに言われた。
属性変換効率について。
整理をしなければ…。
そう思った時。
教室の扉が。
開いた。
「席につけ」
担任のバルドが。
入ってくる。
俺は。
背筋を。
伸ばした。
眠気は。
まだ。
残っている。
だが。
授業は。
始まる。
◇◇◇
「今日から」
「野外実習の準備に入る」
教室の空気が。
変わった。
バルドが。
黒板に。
大きく。
文字を書く。
――野外実習。
二回生から。
始まる。
実践授業。
武術。
魔術。
知識。
一回生で。
学んだ事を。
外で。
使う。
「野外実習では」
「学園の外に出る」
「目的地への長距離移動」
「水と食料の確保」
「野営」
「アイテム収集」
「依頼人の護衛」
「危険地域の調査」
「魔物への対処」
「そして」
「重要なのが」
バルドが。
教室を見る。
「チームでの行動だ」
チーム。
俺は。
その言葉を。
頭の中で。
繰り返す。
七国武競祭。
強い個人。
強い集団。
それぞれに強さがある。
その強さの違いは何か。
まだ答えは。
出ていない。
「四人一組だ」
バルドが。
続ける。
「最初の授業で言った通り」
「一年間」
「同じチームで行動する」
「一年次の成績」
「武器」
「魔法」
「その他の適性」
「全体のバランスを見て」
「こちらで既に組んでいる」
「今から発表する」
……。
バルドが。
紙を。
読み上げた。
「第一チーム」
名前が。
呼ばれる。
四人。
次。
また。
四人。
教室の中で。
それぞれが。
顔を見合わせる。
「第三チーム」
「レオン・アルヴァ」
俺か。
「ミレイユ・アーベント」
弓をやれ。
そう教えてやった女だ。
「リナ・フェル」
リナが。
こちらを見る。
一瞬。
目が合った。
そして。
すぐに。
逸らした。
「オスカー・ブルクハルト」
少し離れた席から。
一人の少年が。
顔を上げた。
オスカー。
同じ。
アイアンクラス。
一年間。
同じ教室にいた。
話したことは。
ほとんどない。
だが。
名前は知っている。
実技試験では。
何度も。
最下位近くにいた。
失敗するたび。
俯いていた。
教室でも。
目立たない。
そういう奴だ。
まずは。
それぞれ。
今の。
能力を見てみるか。
《潜在解析》
【個体名:ミレイユ・アーベント】
【年齢:十五歳】
【身体能力:C+/潜在B+】
【弓術:C+/潜在B+】
【状況判断:C+/潜在A】
【光属性魔法:C/潜在 B】
順調に。
才能を伸ばしている。
次は。
【個体名:オスカー・ブルクハルト】
【年齢:十四歳】
【身体能力:C+/潜在 A】
【盾術:D+/潜在 B+】
【土属性魔法:D/潜在 B】
【判断力:D/潜在 B】
盾。
前衛役か。
だが。
……ん?
身体能力。
潜在A。
意外だな。
今の成績からは。
想像できない。
盾術も。
潜在は悪くない。
それなのに。
現在の能力は。
伸びていない。
鍛錬が。
足りないのか。
それとも。
別の理由か。
《潜在解析》では。
そこまでは。
分からない。
ただ。
使える才能が。
眠っているのは。
確かだ。
そして。
リナを見る。
【個体名:リナ・フェル】
【年齢:十四歳】
【身体能力:D+/潜在C+】
【魔力量:C/潜在B】
【魔力制御:B/潜在A+】
【火属性魔法:C+/潜在C+】
【風属性魔法:D+/潜在A】
やはり。
火魔法は伸びていない。
だが。
お前。
もしかしてーー。
「以上だ」
バルドが。
紙を置いた。
「今日の午後」
「チームごとに集まれ」
「最初に」
「役割分担と」
「チーム名を決めろ」
チーム名。
……。
必要なのか。
◇◇◇
午後。
訓練棟の。
小さな教室。
俺たち。
四人は。
一つの机を。
囲んでいた。
ミレイユ。
リナ。
オスカー。
そして。
俺。
誰も。
話さない。
……。
時間が。
無駄だ。
「まず」
俺は。
口を開いた。
三人が。
こちらを見る。
「まずは」
「対魔物戦の」
「役割を決める」
「いきなり」
「戦闘を想定?」
「早くない?」
ミレイユが。
言う。
「決めるために」
「集まったんだろ」
「まあ」
「そうだけど」
俺は。
紙を。
中央に置いた。
「オスカー」
「お前は」
「前衛」
「盾で」
「敵を止める役だ」
「……俺が?」
「そうだ」
「でも」
「俺は」
「あまり強くないし……」
「だから盾だ」
「攻撃を」
「任せるわけじゃない」
「敵を止めろ」
オスカーは。
俯いた。
「……分かった」
声は。
小さかった。
だが。
適した役割だ。
問題はない。
「ミレイユ」
「後衛」
「弓」
「オスカーと俺の後ろにいろ」
「後ろから面倒な敵を足止め」
ミレイユは。
複雑な。
顔をする。
「ねえ」
「私の判断で」
「動いてもいいの?」
「必要なら」
「俺が指示する」
「……」
納得したようには。
見えなかった。
そして。
「リナ」
「後衛」
「魔法」
「一番後ろから」
「相手を殲滅してもらう」
俺は。
一瞬。
止まった。
以前なら。
迷わず。
風を使えと。
言っていた。
だが。
今は。
違う。
リナが。
俺を見る。
「好きな魔法で」
「攻撃しろ」
少し。
間が。
空いた。
「……火で」
「ああ」
それでいい。
「俺は」
「前衛と後衛の間」
「状況を見て」
「必要な場所に入る」
「それ」
ミレイユが。
言った。
「レオンだけ」
「何でもありじゃない?」
「ああ」
「俺は」
「何でもできるからな」
「レオンって」
「……そういうところあるよね」
何が。
問題なのか。
分からない。
「これで」
「役割は決まった」
俺は。
紙に。
書き込む。
前衛防御。
オスカー。
前衛補助。
レオン。
後衛支援・索敵。
ミレイユ。
後衛魔法。
リナ。
悪くない。
少なくとも。
能力の配置としては。
合理的だ。
「次」
「移動時の場所も決める」
「は?」
リナが。
言う。
「必要だ」
俺は。
続ける。
「移動時は」
「オスカーが先頭」
「ミレイユが二番」
「リナが三番」
「俺が最後尾」
「待って」
リナが。
止めた。
「なんで」
「レオンが最後なの?」
「全体を見られる」
「だから」
「最後尾から」
「指示を出す」
「指示?」
「そうだ」
ミレイユの。
表情が。
少し。
固くなる。
「私たち」
「全部」
「レオンの言う通りに」
「動くの?」
「その方が」
「効率がいい」
「レオン」
ミレイユが。
口を開いた。
「前に」
「才能を教えてくれた時みたいに」
「私たちの」
「得意なことは」
「分かってるんだよね?」
「ああ」
「でも」
「だからって」
「私たちの」
「意見は」
「聞かないんだ?」
……?
得意なことが。
分かっているなら。
それに合わせて。
配置して。
動けばいい。
何が。
問題なんだ。
沈黙。
……。
何だ。
オスカーは。
困ったように。
リナを見る。
リナは。
俺を見る。
「まだ」
「何もやってないよ」
「だから」
「先に決めている」
「そうじゃなくて」
「じゃあ」
「何だ」
「なんであんたが全部決めるのよ」
「俺が一番」
「分かっているからだ」
俺には。
《潜在解析》がある。
誰が。
何に向いているか。
こいつらより。
正確に分かる。
なら。
俺が決めた方が。
合理的だ。
「何よそれ」
「……もういい」
リナが。
視線を。
逸らした。
分からない。
役割を。
明確にする。
指示系統を。
一つにする。
判断を。
早くする。
組織として。
当然だ。
前世でも。
そうしてきた。
誰が。
何をするか。
決める。
曖昧な状態が。
一番。
非効率だ。
「とりあえず」
オスカーが。
言った。
「名前」
「決めようよ」
名前。
……。
忘れていた。
◇◇◇
「アイアンフォーとかどう?」
ミレイユが。
三人を見て言う。
「そのまますぎない?」
リナが。
返す。
「私は」
「四刃の焔」
「火はリナだけでしょ」
ミレイユが。
返す。
「じゃあ」
「火と弓と盾と……」
リナが。
俺を見る。
「レオンって」
「何?」
「何とは」
「剣?」
「魔法?」
「何ができるの?」
「両方だ」
「両方?」
「それじゃあ」
「名前にしにくいよ」
どうでもいい。
本当に。
どうでもいい。
「名前は」
「識別できればいい」
三人が。
俺を見る。
「チームは」
「他にもある」
「区別できれば」
「目的は達成できる」
「だから?」
ミレイユが。
嫌な予感がする。
という顔をした。
俺は。
黒板を見る。
班分けでは。
俺たちは。
第三チーム。
だが。
野外実習の。
管理表には。
アルファベットが。
振られている。
俺たちの欄には。
C。
「チームCでいい」
沈黙。
「……本気?」
リナが。
聞く。
「何が問題だ」
「いや」
「問題っていうか」
「名前じゃないでしょ」
ミレイユが。
言う。
「識別できる」
「十分だ」
「一年間だよ?」
「一年間でも」
「CはCだ」
オスカーが。
小さく。
笑った。
「俺」
「嫌いじゃないかも」
リナが。
俺を見る。
「まあ」
「私たちらしいかも」
「どこが?」
「まだ」
「何も決まってない感じ」
ミレイユが。
ため息を。
ついた。
「じゃあ」
「仮ね」
「仮?」
「ちゃんとした名前」
「思いつくまで」
「チームC」
「別に」
「そのままでいいだろ」
「仮!」
ミレイユが。
強く言った。
……。
面倒だ。
俺は。
紙の上に。
書く。
――チームC(仮)。
「これでいいか」
オスカーも。
頷いた。
ミレイユは。
まだ。
少し。
不満そうだ。
だが。
決まった。
これで。
次に進める。
最初の。
野外実習は。
一週間後。
学園から。
半日ほど離れた。
森林地帯へ。
チームで移動する実習。
危険度は。
低い。
とても。
簡単な。
実習だ。
少なくとも。
俺一人なら。
何の問題もない。
……だが。
今回は。
四人だ。




