第40話 魔法は数式で説明できる
魔法。
前世には。
無い概念だ。
魔力を集める。
属性を与える。
術式を組む。
そして。
発動する。
それで。
魔法は使える。
だが。
俺は。
それでは。
納得できなかった。
魔力とは何だ
属性とは何だ
ずっと。
不思議だった。
◇◇◇
魔法理論の。
最初の授業から。
一週間が。
経っていた。
放課後。
学園の。
図書館。
机の上には。
魔法理論の本が。
十冊以上。
積まれている。
『魔力構築基礎論』。
『六属性概論』。
『術式構築と詠唱の基礎』。
『魔術発動時における魔力損失の要因』。
『属性の有利不利における研究』
『魔力量に応じた魔法威力の相関について』
『高度術式の発見の歴史』
『属性と魔術師家系図』
……。
一冊ずつ。
読んだ。
必要な部分を。
抜き出す。
共通する記述を。
並べる。
違う記述には。
印をつける。
《叡智庫》
頭の中で。
これまで読んだ。
情報を。
整理する。
魔法の発動は。
大きく。
四段階。
一。
体内で。
魔力を集める。
二。
集めた魔力に。
属性を付与する。
三。
術式によって。
形と性質を定める。
四。
現象として。
発動させる。
……。
ここまでは。
理解した。
問題は。
それぞれの。
段階で。
何が。
結果を。
変えているのか。
俺は。
ノートに。
四つの枠を。
作った。
◇◇◇
「まだいたの?」
……。
声で。
顔を上げる。
サラが。
立っていた。
腕には。
五冊の本。
「お前もだろ」
「私は今来たの」
「そうか」
「何してるの?」
「整理」
「何の?」
「魔法」
サラが。
俺の隣に。
座った。
勝手に。
「見せて!」
「またか」
「まだ途中だ」
「途中だから」
「見るんでしょ?」
意味が。
分からない。
サラは。
俺の返事を。
待たず。
ノートを。
覗き込んだ。
「四段階?」
「そうだ」
俺は。
仕方なく。
説明した。
「最初は」
「魔力を集める」
「次に」
「属性を与える」
「魔力の性質を」
「変える工程だ」
「うん」
「ここには」
「先天的な才能が」
「大きく関係する」
「遺伝の影響もあるらしい」
「遺伝って何?」
……。
「家系で引き継がれるってことだ」
……そうか。
この世界では。
遺伝とは。
言わないのか。
「ふ~ん」
火。
水。
風。
土。
光。
闇。
同じ量の。
魔力を。
持っていても。
属性への。
変換効率は。
人によって。
違う。
リナが。
頭に浮かぶ。
火属性。
そして。
風属性。
潜在能力には。
大きな差が。
あった。
「その次が」
「術式」
「属性を与えた魔力を」
「どんな形で」
「どんな性質の魔法にするか」
「決める」
「これは?」
「才能ではなく」
「学習の影響が大きい」
術式は。
知識だ。
理解し。
覚え。
練習すれば。
一定のところまでは。
身につけられる。
だが。
上級の魔法になるほど。
術式は複雑になり。
その術式構築に必要な。
魔力量も増える。
「最後が」
「発動」
「ここは」
「経験の影響が大きい」
「経験?」
「同じ術式でも」
「慣れている人間ほど」
「魔力の損失が少ない」
未熟なら。
発動時に。
魔力の一部が。
無駄になる。
その結果。
威力が。
落ちる。
もしくは。
必要以上の。
魔力を。
消費する。
サラが。
ノートを見ながら。
頷いた。
「じゃあ」
「才能がある人でも」
「経験がなければ」
「弱い魔法になる?」
「なる」
「逆に」
「才能が普通でも」
「経験が多ければ?」
「同じ魔力量なら」
「経験が多い方が」
「発動時の損失を減らせる」
「だから」
「結果として」
「威力も上がる」
サラが。
少し。
笑った。
「つまり」
「下級の魔法でも」
「上級の魔法に」
「勝つ可能性があるってことだね!」
「やっぱり」
「魔法って」
「面白いね」
俺も。
そう思う。
だが。
口には。
出さなかった。
◇◇◇
その日から。
俺は。
記録を。
始めた。
違いには。
必ず。
理由がある。
理由があるなら。
分解できる。
分解できるなら。
比較できる。
比較できるなら。
魔法も。
……数式に。
できるんじゃないか。
そう考えた。
数式――。
その言葉を。
頭の中で。
繰り返す。
懐かしい。
前世の俺は。
数学が。
好きだった。
答えが。
出るものは。
安心する。
理由は。
単純だ。
公式に。
数字を。
当てはめる。
そうすれば。
必ず。
答えが出る。
正しいか。
間違っているか。
答えは。
一つ。
俺は。
それが。
好きだった。
社会に。
出てからも。
それは。
変わらなかった。
売上。
利益。
原価。
成約率。
生産性。
可能な限り。
要素を分解し。
数字にした。
会社を。
作ってからは。
さらに。
増えた。
営業数値。
KPI。
事業計画。
採用計画。
予算。
数字にできるものは。
すべて。
数字にした。
目標を決め。
実績を測り。
差を分析し。
改善する。
数字は。
嘘をつかない。
少なくとも。
俺は。
そう信じていた。
そして。
会社は。
大きくなった。
だから。
俺のやり方は。
正しい。
そう。
思っていた。
……。
俺は。
目の前の。
ノートを見る。
魔力。
属性。
術式。
発動。
これも。
同じでは。
ないのか。
違いには。
理由がある。
理由を。
分解する。
数値にする。
関係を。
整理する。
そして。
公式にする。
そうすれば。
魔法も。
説明できる。
俺は。
ペンを。
握った。
気づけば。
久しぶりに。
何かに。
没頭していた。
◇◇◇
まず。
自分の。
闇魔法を試す。
同じ術式。
同じ距離。
同じ標的。
可能な限り。
同じ投入魔力。
十回。
二十回。
三十回。
記録する。
結果は。
同じでは。
なかった。
わずかに。
威力が。
違う。
消費魔力も。
違う。
発動速度も。
違う。
「やっぱり」
サラが。
記録表を。
覗き込む。
「毎回」
「同じじゃないね」
「当たり前だ」
「じゃあ」
「何が違うの?」
「それを」
「調べている」
「じゃあ」
「今日は寝不足だから」
「それも記録しないと」
……。
俺は。
サラを見る。
「何?」
「お前」
「たまに」
「使えるな」
「たまに?」
「たまにだ」
その後。
サラにも。
同じ条件で。
魔法を。
使わせた。
同じ術式。
同じ距離。
同じ標的。
投入する魔力も。
できる限り。
揃える。
だが。
結果は。
同じではなかった。
「やっぱり」
サラが。
記録を。
覗き込む。
「同じようにやっても」
「違うね」
「ああ」
術式が。
同じでも。
人が変われば。
結果が変わる。
なら。
その差を生む。
要素がある。
属性への。
変換効率。
魔力制御。
そして。
発動の。
成熟度。
個人差も。
比較する必要がある。
体調。
睡眠時間。
集中。
使用回数。
環境。
気温。
距離。
項目が。
増えていく。
増えるたびに。
答えに。
近づく。
はずだった。
だが。
同時に。
分からないことも。
増えていった。
◇◇◇
一か月。
経った。
図書館の。
閉館を告げる。
鐘が。
鳴る。
「レオン」
「帰るよ」
「あと少し」
「昨日も言ってたよ」
「昨日とは違う」
「何が?」
「今日は」
「あと二項目だ」
「昨日は?」
「三項目」
「ほとんど同じじゃない?」
違う。
一項目。
減っている。
サラが。
呆れた顔で。
俺を見る。
「ご飯は?」
……。
「食べた」
「いつ?」
「昼」
「それ」
「お昼ご飯でしょ」
面倒だ。
俺は。
本に。
視線を戻した。
だが。
司書が。
こちらを。
見ている。
仕方なく。
本を閉じた。
◇◇◇
二か月目。
俺たちは。
六属性について。
資料を。
集め始めた。
その頃には。
図書館には。
俺と。
サラの。
専用の椅子と。
机ができていた。
火。
水。
風。
土。
光。
闇。
属性ごとの。
変換効率。
術式の。
複雑さ。
発動までの。
時間。
魔力消費。
そして。
熟練者と。
初心者の。
差。
当然。
正確な数値が。
揃っているわけでは。
ない。
研究者によって。
測定方法も。
違う。
記録の。
基準も。
違う。
「これ」
「使えないね」
サラが。
古い研究書を。
閉じた。
「使えないわけじゃない」
「比較できないだけだ」
「同じじゃない?」
「違う」
比較できないなら。
比較できる形に。
直せばいい。
俺は。
複数の資料から。
共通する部分だけを。
抜き出した。
最大出力ではない。
絶対値でもない。
比率。
効率。
損失。
これなら。
術式にも。
無駄がある。
同じ現象を。
起こすなら。
より少ない。
魔力で。
より正確に。
構築できる術式の方が。
効率がいい。
これを。
術式効率とする。
比較できる。
サラが。
紙を。
一枚。
俺の前に。
置いた。
「ねえ」
「これ」
「掛け算にしたら?」
俺は。
顔を上げた。
「何?」
「だって」
「どこか一つが低かったら」
「最後の魔法も弱くなるんでしょ?」
……。
俺は。
紙を見る。
投入する。
魔力。
属性へ。
変換する。
効率。
術式によって。
魔法へ。
構築する。
効率。
そして。
発動時の。
成熟度。
足し算。
ではない。
一つの工程で。
大きく。
ロスが出れば。
最終的な。
出力も。
落ちる。
なら。
……。
俺は。
新しい紙を。
取り出した。
中央に。
式を。
書く。
魔法出力。
=
投入魔力。
×
属性変換効率。
×
術式効率。
×
発動成熟度。
……。
サラが。
黙った。
珍しい。
「どうした」
「いや」
「なんか」
「すごく」
「レオンっぽい」
「どういう意味だ」
「全部」
「数字にしたがるところ」
……。
否定は。
しない。
◇◇◇
式が。
できた。
だから。
完成。
ではない。
むしろ。
ここからだった。
「属性変換効率って」
「どうやって測るの?」
サラが。
聞く。
「……」
「術式効率は?」
「……」
「成熟度って」
「何をもって」
「百とするの?」
「……」
こいつ。
楽しそうだな。
「それに」
「魔法出力って」
「何?」
「威力」
「じゃあ」
「速い魔法は?」
「……」
「広い魔法は?」
「……」
「長く続く魔法は?」
「……」
穴だらけだ。
俺は。
式を見る。
魔法出力。
一つの。
数字では。
魔法を。
説明できない。
威力。
速度。
範囲。
持続。
精度。
消費魔力。
それぞれ。
別に。
考える必要が。
ある。
サラが。
俺の横から。
紙に。
書き足した。
――環境。
「これも」
「いるんじゃない?」
「気温とか」
「雨とか」
「風とか」
「地形とか」
……。
俺は。
その文字を見る。
さらに。
穴が。
増えた。
だが。
不思議と。
嫌では。
なかった。
分からない。
なら。
調べればいい。
◇◇◇
三か月目。
図書館。
訓練場。
魔法理論の授業。
寮。
俺の。
ノートは。
増え続けた。
一冊。
二冊。
三冊。
サラの。
書き込みも。
増えた。
俺が。
分類する。
サラが。
疑問を書く。
俺が。
条件を。
整理する。
サラが。
別の可能性を。
出す。
正直。
不思議な気分だ。
一人なら。
もっと。
静かに。
進められる。
だが。
一人では。
気づかなかった。
項目が。
いくつもある。
それも。
事実だった。
一人より。
二人の方が。
効率がいい。
……いや。
正確には。
俺とは。
違う考え方をする。
人間がいる方が。
見落としが。
減る。
……。
こんな感覚。
前世では。
なかった。
◇◇◇
ある夜。
図書館には。
俺たち以外。
ほとんど。
残っていなかった。
机の上には。
大量の。
紙。
中央には。
最初に作った。
式。
魔法出力。
=
投入魔力。
×
属性変換効率。
×
術式効率。
×
発動成熟度。
その周囲に。
矢印。
注釈。
疑問符。
修正案。
まだ。
穴だらけ。
正確な。
数値にも。
できない。
すべての。
魔法を。
説明できるわけでも。
ない。
サラが。
机に。
頬杖をついた。
「ねえ」
「これ」
「完成すると思う?」
俺は。
式を見る。
「する」
「法則があるなら」
「整理できる」
「数値にできないものも」
「あるかもしれないよ?」
ネクシラの。
言葉を。
思い出す。
数値に。
できないからといって。
法則がないとは。
限らない。
……。
「それでも」
俺は。
ペンを。
取った。
「魔法は」
「説明できる」
「全部?」
「少なくとも」
「今よりは」
サラが。
笑った。
「じゃあ」
「続きをやろう」
「ああ」
俺は。
紙の。
一番上に。
新しく。
文字を書く。
――レオン式魔術計算式。
サラが。
それを見た。
「レオン式?」
「何だ」
「私も一緒に考えてるんだけど」
……。
俺は。
少し。
考えた。
そして。
その横に。
小さく。
書き足した。
――初期型。
「そこじゃない」
サラの。
声が。
静かな。
図書館に。
響いた。
俺は。
式を見る。
まだ。
完成ではない。
だが。
一つだけ。
確信していた。
魔法は。
ただの。
感覚ではない。
そこには。
必ず。
仕組みがある。
なら。
俺は。
それを。
見つける。
◇◇◇
気づけば。
三か月。
俺は。
サラと。
同じ机で。
魔法について。
考え続けていた。
この時の俺は。
自分が一番になる為。
世界の頂点を目指す為。
そんな理由ではなく。
自身の。
興味。
関心。
そんな気持ちで。
没頭していた。




