第4話 元守護騎士の農夫
姉さんの一件以来。
俺は家族の「能力」を、以前より少し注意して見るようになった。
そして。
次に気になったのが、父だった。
父リアム・アルヴァ。
三十三歳。
職業、農夫。
少なくとも、俺はそう認識していた。
だが。
俺の父親は、どうやらただの農民ではない。
それに気づいたのは、手伝いで東側の畑へ向かう途中だった。
◇◇◇
「父さん、遅い」
「小さい息子を連れて歩いてるんだから仕方ないだろ」
「もっと速く歩ける」
「さっき転びそうになっただろ」
「あれは石が悪い」
「石のせいにするな」
足元の石が動いた。
身体が傾く。
その瞬間、リアムが俺の腕を掴んで安全な場所へと一瞬で移動した。
速い。
普通の農民にできる動きではない。
《解析眼》
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【リアム・アルヴァ】
種族:人間
年齢:三十三歳
健康状態:良好
身体能力:A
魔力量:C
魔法適性:C
戦闘適性:A
剣術:A
危険察知:A
農業技術:C
論理的思考力:E
計画力:E
数値管理:F
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強い。
明らかに農家のステータスではない。
「父さん。本当に農家?」
「農家だぞ」
「前は?」
リアムは少し考えてから言った。
「昔ちょっと剣を振ってた」
ちょっと? 剣術Aだぞ。
◇◇◇
「守護騎士?」
リアムは露骨に嫌そうな顔をした。
「昔の話だ」
母マリアが笑う。
「お父さん、昔は貴族様のお屋敷を守ってたのよ」
「なんで辞めた?」
「その話はいい」
「ふふ」
マリアは笑っている。
俺は改めて父を見る。
なぜ、農夫をやっている?
守護騎士の方が給与が良いだろうに。
◇◇◇
次の日の昼。
畑仕事の手伝いの途中、木陰でパンを食べながら、俺は聞いた。
「父さん。なんで騎士辞めたの?」
リアムはしばらく黙った。
「俺が仕えてたのは、そこそこ偉い貴族だった」
「給料も良かった?」
「ああ。そうだな」
「じゃあなんで?」
リアムは少し苦い顔をした。
「殴ったからだ」
「誰を?」
「雇い主」
「貴族を?」
「ああ」
想定外だった。
「その貴族が、使用人の子供を殴ったんだ。皿を割ったとか、そんな理由でな。止めても聞かなかった。だから俺が殴った」
「仕事なくなるじゃん」
「なくなったな」
「お金も?」
「減った」
「家も?」
「追い出された」
「地位も?」
「全部なくなった」
理解不能だ。
「損しかしてない」
「そうだな」
「何で?」
リアムは俺を見る。
「世の中にはな、損得で決めちゃいけねえこともある」
「なんで?」
「難しいこと聞くな」
リアムは俺の頭に手を置いた。
「自分が自分を嫌いになるようなことは、するな」
「……」
「金をなくすより、そっちの方がよっぽどきついからな」
◇◇◇
前世。
会社を作って三年目。
社員二十七人。
売上の三割を占める顧客から無茶な要求をされた。
担当社員が言った。
『社長、この条件は無理です』
『やれ』
『でも現場が――』
『この顧客を失ったら会社が潰れる』
社員はやった。
三か月後、辞めた。
俺は正しい判断をしたと思っている。
会社は潰れなかった。
その後、三百億まで成長した。
経営判断として正しい。
間違っていない。
でも。
なぜ今。
そんなことを思い出した?
◇◇◇
帰り道。
近所の農家であるボルドの畑に寄った。
リアムは腰を痛めたボルドの代わりに畑作業を手伝うと言った。
「お金もらうの?」
「もらわねえよ」
「無駄じゃない?」
「じゃあ俺が困ったとき、誰が助けてくれる?」
「約束してるの?」
「してない」
「じゃあなんで?」
「お互い様だからだ」
契約書も保証もない。
それなのに信用する。
俺には理解できない。
「レオン」
「何?」
「損得だけで人を見るようにはなるなよ」
「どうして?」
「そのうち分かる」
そしてリアムは言った。
「人間ってのは、役に立つか立たねえかだけじゃない。家族も、仲間もな」
その言葉が妙に耳に残った。
その時。
「私、役に立てたね」
グレースの言葉を思い出した。
あの時。
俺は姉さんの能力を分析した。
何ができるのか。
何が得意なのか。
それを見つけることが、人を活かすことだと思った。
でも。
父さんが言っているのは。
たぶん、それとは少し違う。
「役に立たなくても……?」
小さく呟く。
答えは出なかった。
ただ。
父さんの言葉は、妙に耳に残った。




