第30話 譲れないもの
掲示板の前から。
俺は。
動けずにいた。
身体能力。
8位。
剣術。
6位。
槍術。
9位。
杖術。
7位。
格闘術。
8位。
盾術。
9位。
魔法総合。
7位。
……。
何度見ても。
変わらない。
一番が。
一つもない。
◇◇◇
「レオン!」
後ろから。
聞き覚えのある。
声がした。
振り返る。
カイルだった。
満面の。
笑みを浮かべている。
「見たか!?」
「何をだ」
「槍術!」
カイルが。
掲示板を。
指さす。
――槍術。
1位。
カイル・ベルグ。
「1位だ!」
「俺」
「1位だった!」
……。
そうか。
数か月前まで。
こいつは。
剣を。
振っていた。
それが。
今では。
アイアンクラスで。
槍術1位。
《潜在解析》
【個体名:カイル・ベルグ】
【年齢:十三歳】
【身体能力:B/潜在A+】
【剣術:D+/潜在C】
【槍術:B/潜在A+】
……。
また。
伸びている。
「すげえよ!」
「槍を始めて」
「まだそんなに」
「経ってないのに!」
「先生にも」
「このまま伸ばせって」
「言われた!」
「そうか」
「レオンのおかげだ!」
「俺は」
「教えただけだ」
「それでもだよ!」
カイルは。
嬉しそうに。
笑っている。
……。
やはり。
才能があるものを。
伸ばす。
それが。
正しい。
カイルが。
証明している。
「そういえば」
カイルが。
俺の結果を見る。
「レオンも」
「すげーじゃん!」
「……何がだ?」
「だって」
「全部できてるじゃん!」
……。
「剣も」
「槍も」
「魔法も」
「全部」
「上の方だろ?」
「こんなの」
「俺には無理だぞ」
「意味がない」
「え?」
「一番じゃない」
カイルが。
目を丸くする。
「でも」
「6位とか」
「7位とかだろ?」
「だから何だ」
「一番でなければ」
「意味はない」
「……」
カイルは。
困ったように。
頭をかいた。
「俺は」
「1位になれたから」
「嬉しいけど」
「レオンの方が」
「何でもできて」
「すげえと思うけどな」
何でもできる。
だが。
一番ではない。
それを。
すごいと。
言うのか?
俺には。
分からなかった。
◇◇◇
授業が。
終わった。
俺は。
一人で。
寮へ向かう。
頭から。
試験結果が。
離れない。
俺には。
才能がないのか。
剣でもない。
槍でもない。
魔法でもない。
では。
何だ。
その時。
中庭の。
端に。
人影が見えた。
木の下。
一人の。
女子生徒が。
座っている。
リナだった。
……。
泣いている。
俺は。
足を止めた。
面倒だ。
関わる理由は。
ない。
そのまま。
通り過ぎようとする。
その時。
リナが。
顔を上げた。
目が。
合った。
……最悪だ。
「……何よ」
目が。
赤い。
「別に」
俺は。
歩き出そうとする。
「笑えばいいじゃない」
……。
何で。
そうなる。
「何をだ」
「試験」
リナが。
膝を抱える。
「火魔法」
「12位だった」
……。
「24人中」
「12位」
「半分じゃない」
声が。
震えている。
俺は。
少し考える。
「だから」
「風魔法をやれと」
「言っただろう」
リナが。
俺を。
睨んだ。
「分かってるわよ!」
「……」
「分かってる」
「でも」
「できないの」
「なぜだ?」
「前にも」
「言ったでしょ」
「私の家は」
「火魔法の家系なの」
「それが」
「何の関係がある」
リナが。
唇を。
噛んだ。
「私の村は」
「火属性の魔術師を」
「輩出して」
「暮らしてるの」
……。
「色々な町や村」
「時にはダンジョンに」
「火魔法を使える人を派遣して」
「そこにいる」
「みんなを」
「助けてきたの」
リナは。
ゆっくり。
話し始めた。
「私のおじいちゃんも」
「お父さんも」
「火魔法使い」
「親戚の」
「お姉ちゃんは」
「すごく優秀で」
「国の」
「護衛魔術師として」
「働いてる」
「だから」
「小さい頃から」
「ずっと」
「聞かされてきた」
「リナも」
「いつか」
「立派な火魔法使いに」
「なるんだって」
「それで」
「王立学園に入って」
「もっと」
「火魔法を学んで」
「大魔術師になる」
「それが」
「私の夢だった」
……。
夢。
また。
その話か。
「村のみんなも」
「期待してくれた」
「お金だって」
「出してくれた」
「王立学園に」
「行ってこいって」
「大魔術師に」
「なってこいって」
「だから」
「私」
「絶対」
「火魔法で」
「強くならないと」
「いけないの」
「風では」
「駄目なのか?」
「駄目よ!」
即答だった。
「どうしてだ」
「風魔法で」
「強くなればいい」
「お前には」
「その才能がある」
「そんな村の考えを」
「見返してやればいい」
「違う!」
リナが。
声を上げた。
「火じゃなきゃ」
「駄目なの!」
「村では」
「火魔法使いじゃなきゃ」
「意味がないの!」
……。
分からない。
結果が。
出ない。
別の道なら。
結果が出る。
なら。
変えればいい。
それだけだ。
「でも」
リナの。
声が。
小さくなる。
「全然」
「伸びない」
「毎日」
「練習してるのに」
「小さい頃から」
「ずっと」
「やってるのに」
「今回だって」
「12位」
「アイアンクラスで」
「12位よ」
涙が。
頬を伝う。
「私」
「どうしたらいいの?」
……。
俺は。
答えようとした。
風魔法を。
やればいい。
そう。
言えばいい。
だが。
言葉が。
出なかった。
リナは。
火魔法を。
やりたい。
風魔法では。
駄目だと。
言う。
だが。
火魔法では。
伸びない。
《潜在解析》では。
そう見えている。
では。
どうする。
……。
分からない。
「ねえ」
リナが。
俺を見る。
「私」
「どうしたらいい?」
……。
なぜ。
そこまで。
火魔法に。
こだわる。
向いているものを。
やればいい。
その方が。
結果が出る。
だが。
こいつは。
それを。
選ばない。
火魔法に。
こだわっている。
なぜだ。
村の期待?
家族との約束?
大魔術師になるという。
夢?
……。
そんなもの。
結果が。
出なければ。
意味がない。
そう。
思う。
だが。
泣いている。
リナを見て。
その言葉を。
口にすることが。
できなかった。
……。
何だ。
これは。
どうしろと。
いうんだ。
才能が。
ない。
それでも。
やりたい。
なら。
どうすれば。
いい。
《叡智庫》
俺は。
前世の記憶から。
答えを。
探す。
だが。
何も。
出てこない。
その時。
ふと。
あの教師の。
言葉が。
頭をよぎった。
――才能があることと。
――その人が。
――それを。
――やりたいことは。
――同じではありません。
……。
ネクシラ。
また。
あいつか。
「レオン?」
リナが。
俺を見る。
「……知らん」
「え?」
「だったら」
「自分で考えろ」
それだけ。
言った。
そして。
歩き出す。
「ちょっと」
「レオン!」
呼び止める。
声がする。
だが。
振り返らない。
……くそ。
何なんだ。
これは。
◇◇◇
寮の。
自室。
ベッドに。
横になる。
天井を見る。
リナの。
言葉が。
頭に残っている。
火じゃなきゃ。
駄目なの。
……。
分からない。
俺なら。
結果が出ないなら。
やり方を変える。
仕事を変える。
人を変える。
配置を変える。
結果が出る。
方法を探す。
それだけだ。
前世でも。
そうしてきた。
だが。
リナは。
違う。
結果が。
出なくても。
火魔法を。
捨てようとしない。
なぜ。
そこまで。
一つのものに。
こだわる。
……。
俺には。
分からない。
ネクシラの。
言葉が。
頭に浮かぶ。
――あなた自身は。
――何を。
――やりたいのですか?
……。
俺が。
やりたいこと。
そんなものは。
必要ない。
結果を。
出せばいい。
一番に。
なればいい。
だが。
今日の。
試験結果。
一番は。
一つもない。
俺にも。
才能は。
ないのかもしれない。
……。
だったら。
どうする。
諦めるのか。
そんなわけが。
ない。
剣で。
一番になれないなら。
別の方法を。
考える。
魔法で。
一番になれないなら。
それ以外の。
方法を。
考える。
俺は。
戦うためだけに。
この世界に。
来たわけじゃない。
前世でも。
剣など。
使えなかった。
魔法も。
使えなかった。
それでも。
俺は。
会社を。
年商三百億まで。
大きくした。
なら。
この世界でも。
方法は。
あるはずだ。
俺には。
《解析眼》がある。
そして。
《叡智庫》がある。
見る。
調べる。
足りないなら。
探す。
学ぶ。
そして。
答えが出るまで。
考える。
俺に。
何の才能が。
あるのか。
今は。
分からない。
なら。
見つければいい。
なければ。
別の方法を。
探せばいい。
俺は。
この世界でも。
トップを。
目指す。
戦闘で。
駄目なら。
別の方法で。
必ず。
一番に。
なってやる。
《解析眼》と。
《叡智庫》で。
必ず。
答えを。
見つけてやる。




