第18話 正しい判断
「アレン!」
山道を。
走る。
前には。
金色の髪。
「待て!」
「早く!」
「だから待て!」
聞いていない。
本当に。
こいつは。
人の話を聞かない。
俺は。
アレンの背中を。
追いながら。
地面を見る。
《解析眼》。
【地面】
小型足跡:有
大型足跡:複数
進行方向:北西
まだ。
足跡は続いている。
「左だ!」
アレンが。
曲がる。
山の中へ。
道は。
次第に。
細くなる。
木々が。
増える。
村から。
離れていく。
何度か。
足跡を見失う。
そのたびに。
《解析眼》で。
地面。
草。
折れた枝。
残された痕跡を。
確認する。
そして。
辿り着いた。
岩肌。
その奥に。
黒い穴。
「……ダンジョン」
アレンが。
入り口を見る。
「ここにいるの?」
俺は。
地面を見る。
《解析眼》。
【地面】
小型足跡:有
大型足跡:複数
進行方向:内部
間違いない。
足跡は。
中へ続いている。
「可能性は高い」
「じゃあ、行こう」
アレンが。
入ろうとする。
俺は。
肩を掴んだ。
「待て」
「ここから先は」
「もっと慎重に行く」
「でも」
「見つけても」
「すぐ飛び出すな」
「状況を確認する」
アレンは。
ダンジョンの奥を見つめている。
「分かった」
返事だけは。
素直だ。
嫌な予感がする。
俺たちは。
木剣を握り。
ダンジョンへ。
足を踏み入れた。
◇◇◇
中は。
薄暗い。
岩壁。
湿った空気。
奥から。
水の落ちる音がする。
俺たちは。
足音を抑える。
しばらく進む。
分かれ道。
《解析眼》。
地面。
右。
足跡がある。
俺は。
指を差す。
アレンが。
頷く。
さらに。
奥へ。
その時。
声がした。
「だから言っただろ!」
男の声。
俺とアレンは。
同時に。
足を止める。
少し先。
岩陰。
俺たちは。
身を低くする。
「こいつじゃねえ!」
別の男の声。
「俺たちが欲しかったのは」
「村のレオンってガキだ!」
……俺?
アレンが。
俺を見る。
何か言おうとしている。
俺は。
口元に。
指を当てる。
黙れ。
岩陰から。
そっと。
覗く。
少し開けた場所。
男が。
四人。
その奥に。
子供。
手を。
後ろで縛られている。
村の子だ。
間違いない。
探していた。
少年。
「どうすんだよ」
「こいつ」
「知らねえよ」
「レオンってガキは」
「頭がいいって町でも噂になってる」
「商人に売れば」
「いい金になるって話だっただろ」
「だから」
「村から連れてくるはずだったんだ」
「こいつじゃ」
「売っても大した金にならねえ」
……なるほど。
狙いは。
俺だった。
「じゃあ殺すか?」
少年の肩が。
びくりと。
動いた。
アレンの表情が。
変わる。
俺は。
すぐに。
アレンの腕を掴んだ。
動くな。
男の一人が。
首を振る。
「待て」
「こいつの親から」
「金を取れるかもしれねえ」
「村のガキなら」
「家族はいるだろ」
「身代金か?」
「少しくらいは出すだろ」
「出さなきゃ」
「その時考えりゃいい」
男たちが。
笑う。
少年は。
俯いたまま。
震えている。
隣で。
アレンの手が。
強く。
木剣を握った。
俺は。
小さな声で。
言う。
「戻るぞ」
アレンが。
俺を見る。
「居場所は分かった」
「人数も分かった」
「大人に知らせる」
「父さんと護衛を連れてくれば」
「確実に助けられる」
アレンが。
少年を見る。
「それじゃ遅い」
「遅くない」
「今すぐ殺すつもりはない」
「身代金を取るつもりだ」
「時間はある」
「でも」
「さっき」
「殺すって言った」
「一人が言っただけだ」
「でも」
アレンが。
俺を見る。
いつもの。
笑顔はない。
「大丈夫じゃない可能性もある」
「……」
「レオン」
「今」
「あの子は」
「怖がっている」
「それとこれは別だ」
「別じゃない」
アレンが。
木剣を握る。
「おい」
「待て」
アレンが。
岩陰から。
飛び出した。
嫌な予感が
的中した。
「お前ら!」
「その子を放せ!」
……こいつ。
本当に。
馬鹿だ。
◇◇◇
「なんだ?」
男たちが。
振り返る。
アレンが。
木剣を構える。
「子供?」
「もう一人来たぞ」
「つけられたか?」
「どうする?」
「こいつも捕まえるか?」
男たちが。
笑う。
俺は。
頭を抱えたくなった。
だが。
もう。
アレンは。
男たちの前にいる。
今から。
俺だけ戻って。
大人を呼ぶ。
その間。
アレン一人で。
四人を相手にすることになる。
それでは。
遅い。
選択肢は。
一つしかない。
俺は。
木剣を握り直す。
そして。
岩陰から。
出た。
「レオン!」
少年が。
俺を見る。
男の一人が。
目を見開く。
「レオン?」
「お前が」
「レオンか?」
「馬鹿なやつだ」
「自分から来たぞ!」
「捕まえろ!」
男たちが。
動く。
俺は。
全員を見る。
《解析眼》。
【個体名:???】
種族:人間
健康状態:良好
身体能力:C
戦闘適性:D
剣術:D
次。
【個体名:???】
種族:人間
健康状態:良好
身体能力:D
戦闘適性:D
剣術:E
次。
【個体名:???】
種族:人間
健康状態:良好
身体能力:C
戦闘適性:C
剣術:D
次。
【個体名:???】
種族:人間
健康状態:良好
身体能力:D
戦闘適性:D
剣術:E
四人。
一番危険なのは。
三人目。
戦闘適性C。
剣術D。
四人の中では。
こいつが一番上だ。
それでも。
アレンより低い。
俺自身の数値は。
分からない。
だが。
三か月。
何度も戦った。
相手の動きを見る。
足。
肩。
重心。
剣の軌道。
やることは。
同じだ。
「アレン!」
「右の奴から!」
「分かった!」
アレンが。
走る。
「ガキが!」
男が。
剣を振る。
アレンが。
半歩。
ずれる。
木剣。
一閃。
男の手首。
「ぐっ!」
剣が。
落ちる。
続けて。
腹。
「がっ!」
男が。
膝をつく。
速い。
やっぱり。
こいつは。
強い。
「この!」
別の男が。
俺へ来る。
見る。
肩。
重心。
右足。
剣が。
来る。
見える。
アレンの剣より。
遅い。
俺は。
一歩。
横へ。
避ける。
木剣を。
振る。
手首。
外した。
だが。
腕に当たる。
「痛え!」
男が。
怯む。
もう一度。
踏み込む。
膝。
男の体勢が。
崩れる。
そのまま。
脇腹。
木剣を。
叩き込む。
男が。
倒れた。
「……」
できた。
父さんとの。
練習。
アレンとの。
模擬戦。
全部。
無駄じゃない。
俺は。
戦える。
「レオン!」
振り向く。
三人目。
一番強い男が。
俺へ。
剣を振り下ろしている。
間に合わない。
その時。
木剣が。
横から入った。
男の体が。
よろける。
アレン。
「前見て!」
「分かってる!」
二人で。
男を見る。
男が。
舌打ちする。
「ガキのくせに……」
来る。
今度は。
アレンへ。
速い。
木剣と。
鉄の剣。
まともに。
受ければ。
不利。
アレンが。
剣を受け流す。
俺が。
横から。
足を狙う。
男が。
避ける。
その先。
アレン。
木剣が。
男の腹へ。
入る。
「ぐっ!」
男が。
前へ折れる。
俺は。
そのまま。
肩へ。
木剣を。
振り下ろす。
男が。
倒れた。
残り。
一人。
そう思った。
「動くな!」
声。
振り返る。
最後の男が。
少年を。
抱えていた。
首元に。
剣。
「来るな!」
少年の顔が。
青ざめている。
俺とアレンが。
止まる。
男が。
荒い息をする。
「ガキども……」
「好き勝手やりやがって」
「村に帰れ!」
「村に帰って」
「金を持ってこい!」
「金を持ってきたら」
「こいつは返してやる!」
状況が。
変わった。
人質。
距離。
およそ。
五メートル。
男の剣。
少年の首。
俺が。
踏み込めば。
間に合わない。
アレンを見る。
動くな。
そう。
言おうとした。
だが。
アレンが。
一歩。
前へ出た。
「おい!」
「来るな!」
男が。
叫ぶ。
アレンは。
止まらない。
「その子を放して」
「来るなって言ってるだろ!」
「アレン!」
「止まれ!」
聞かない。
一歩。
また。
一歩。
「こいつがどうなってもいいのか!」
男が。
少年を抱える腕に。
力を込める。
「うっ……」
少年の顔が。
苦痛に歪む。
アレンは。
笑顔で。
少年を見ている。
「大丈夫」
「必ず助けるから」
「ふざけやがって!」
男が。
剣を。
少年から離す。
そして。
アレンへ向けた。
切っ先が。
アレンの額に。
触れる。
「動くな!」
額から。
赤い血が。
一筋。
流れた。
「アレン!」
それでも。
アレンは。
引かない。
男を見る。
いや。
違う。
男じゃない。
少年を。
見ている。
「大丈夫」
もう一度。
言った。
「もう少しだから」
……何を。
やってる。
なぜ。
引かない。
怖くないのか。
死ぬかもしれない。
そんなこと。
分かっているはずだ。
男の意識が。
完全に。
アレンへ向いている。
少年からも。
俺からも。
意識が外れている。
今なら。
俺は。
周囲を見る。
考えろ。
助ける。
方法を。
《解析眼》。
【岩壁】
状態:悪
亀裂:有
安定性:低
上。
男の。
真上。
亀裂。
小さな岩が。
今にも落ちそうだ。
木剣では。
無理だ。
魔法。
右手。
水。
狙うのは。
男じゃない。
岩。
「ウォーターボール」
水球が。
飛ぶ。
男が。
俺を見る。
「何――」
水球が。
岩に当たる。
亀裂。
広がる。
ごっ。
岩が。
落ちた。
「ぐあっ!」
男の肩に。
直撃。
剣が。
落ちる。
「アレン!」
アレンが。
動く。
少年を。
男から。
引き離す。
俺も。
走る。
男が。
立ち上がろうとする。
木剣。
振る。
腕。
もう一度。
腹。
男が。
倒れる。
動かない。
静かになった。
◇◇◇
「何やってんだ!」
俺は。
叫んだ。
アレンを見る。
額から。
血が出ている。
「剣を向けられてただろ!」
「少し間違えば」
「死んでたぞ!」
アレンは。
俺を見ない。
「おい!」
「聞いてるのか!」
アレンは。
答えない。
そのまま。
少年の縄を。
解く。
少年は。
震えている。
声も。
出ない。
アレンが。
そっと。
少年を。
抱きしめた。
「怖かったね」
少年の肩が。
震える。
「もう大丈夫」
アレンが。
背中を。
ゆっくり。
叩く。
「大丈夫だから」
少年の目から。
涙が。
溢れた。
「う……」
「うわあああああ!」
泣き声が。
ダンジョンに。
響く。
アレンは。
何も言わず。
抱きしめている。
俺は。
その姿を。
見ていた。
さっきまで。
頭の中で。
考えていたこと。
危険だ。
無謀だ。
合理的じゃない。
大人を呼ぶべきだった。
俺の。
判断は。
間違えていない。
今回は。
たまたま。
上手くいっただけだ。
全部。
正しい。
はずなのに。
泣いている少年と。
その少年を。
抱きしめているアレンを見て。
俺は。
何も。
言えなかった。




