第16話 俺の嫌いなタイプ
「僕と、友達になろう」
「……は?」
「友達」
「聞こえてる」
「じゃあ、よろしく」
「ならない」
即答した。
アレンが。
首を傾げる。
「どうして?」
「必要ない」
アレンは。
しばらく。
俺を見ていた。
そして。
笑った。
「じゃあ」
「今度、村に遊びに行くね」
「来なくていい」
「またね」
話を。
聞いていない。
◇◇◇
橋で会った少年。
アレン。
綺麗な服。
それに。
二人の護衛。
おそらく。
貴族の子供だ。
前世でも。
何人も見てきた。
親の会社。
親の金。
親の地位。
最初から全て用意されていただけなのに。
自分は何も成していないのに。
それを。
自分の力だと。
勘違いする人間。
そして。
大した苦労もせず。
幸せそうな顔をして。
我が物顔で生きている。
俺の最も嫌いなタイプだ。
当然。
仲良くなる理由はない。
俺には。
やることがある。
◇◇◇
数日後。
「遅い」
父さんの木剣が。
俺の肩に。
触れた。
「……もう一回」
木剣を。
構え直す。
その時。
「レオン!」
聞き覚えのある。
声がした。
振り返る。
金色の髪。
青い瞳。
笑顔。
「……なんでいる」
「約束通り」
「遊びに来た」
アレンだった。
後ろには。
あの二人の男。
「約束してない」
「来なくていいって言っただろ」
「でも」
「来るなとは言われてない」
アレンは。
笑っている。
「同じだ」
父さんが。
俺とアレンを見る。
「友達か?」
「違う」
「友達になる予定です」
「ならない」
父さんが。
笑った。
◇◇◇
アレンが。
楽しそうに。
俺の剣術の練習を見ている。
しばらくたって。
父さんが。
俺を見て言う。
「せっかくだから」
「二人で模擬戦でもしてみたらどうだ?」
アレンが。
嬉しそうに。
答えた。
「やってみたい」
俺は。
正直。
やりたくない。
だが。
俺は。
アレンを見る。
《解析眼》。
【個体名:アレン】
種族:人間
年齢:八歳
健康状態:良好
身体能力:C
魔力量:B
魔法適性:C
戦闘適性:C
剣術:B
やはり。
高い。
八歳で。
剣術B。
相手としては。
悪くない。
それに。
俺は。
自分自身を。
《解析眼》で見ることができない。
なら。
強い相手と。
実際に戦う。
その結果から。
今の自分を測ればいい。
俺は。
木剣を取った。
「やる」
アレンが。
嬉しそうに。
笑った。
気に入らない。
だが。
これは。
いい機会だ。
今の俺が。
どこまでやれるのか。
試してみる。
◇◇◇
二人で木剣を構える。
「始め」
俺から。
仕掛ける。
踏み込む。
右から。
振る。
アレンが。
半歩。
動いた。
空振り。
次の瞬間。
胸に。
木剣が。
触れた。
「一本」
「……」
速い。
「もう一回」
「うん、いいよ」
二回目。
負けた。
三回目。
負けた。
四回目。
また。
負けた。
……こいつ。
強い。
「もう一回」
アレンが。
笑う。
「レオン」
父さんが言う。
「熱くなるな」
「相手を見ろ」
分かってる。
見る。
足。
肩。
重心。
剣の軌道。
観察する。
試す。
修正する。
次は。
さっきより。
長く持った。
それでも。
負けた。
「くそ……強いな」
思わず。
口に出た。
アレンが。
嬉しそうに笑う。
「ありがとう」
その笑顔が。
気に入らない。
◇◇◇
昼を過ぎても。
アレンは。
帰らなかった。
好きにすればいい。
俺には。
やることがある。
俺は。
家の裏で。
魔法の練習を始める。
右手を。
前へ。
水を。
イメージする。
「ウォーターボール」
前よりは少し大きな。
水球。
飛ぶ。
板に当たり。
水が弾けた。
「すごいね」
声がして。
横を見る。
アレンが。
俺の手元を。
興味深そうに見ていた。
「魔法も使えるんだ」
「まだ練習中だ」
「水魔法?」
「そう」
アレンが。
少し嬉しそうに。
俺の隣に並ぶ。
「じゃあ」
「僕もやろう」
アレンが。
右手を。
前へ向けた。
空気が。
少し。
熱くなる。
「フレイムアロー」
炎が。
集まる。
細長く。
形を変える。
次の瞬間。
炎の矢が。
飛んだ。
木の板に。
突き刺さる。
ぼっ。
炎が上がった。
俺は。
板を見る。
同じ下級魔法だが。
俺の魔法より。
明らかに。
威力が高い。
アレンが。
得意げに。
笑う。
……気に入らない。
だが。
結果は。
認めるしかない。
八歳で。
この威力。
そして。
魔力量:B。
少なくとも。
魔法も。
俺より先を行っている。
「もう一回」
「え?」
「今の魔法」
「もう一回やって」
アレンが。
不思議そうに。
俺を見る。
「いいけど」
右手を。
前へ向ける。
「フレイムアロー」
再び。
炎の矢が。
放たれる。
今度は。
魔法ではなく。
アレンを見る。
構え。
呼吸。
魔力を集める時間。
発動までの動き。
俺とは。
何かが違う。
「もう一回」
「わかった」
三度目。
「フレイムアロー」
炎の矢が。
飛ぶ。
やっぱりだ。
発動が。
速い。
それなのに。
力んでいない。
自然に。
魔力を使っている。
俺も。
真似する。
「ウォーターボール」
水球が。
さっきより。
早く。
できた。
……なるほど。
悔しいが。
こいつからも。
学べる。
◇◇◇
それから。
アレンは。
何度も。
村へ来るようになった。
来れば。
一緒に。
剣を振る。
魔法の練習をする。
気づけば。
それが。
当たり前になっていた。
そして。
「礼儀正しくて、かわいい子ね」
母さんにも。
すっかり気に入られ。
練習が終わると。
そのまま。
うちで飯を食べていくことも。
増えていった。
「アレン君って」
姉さんが聞いた。
「レオンのお友達?」
「うん」
「違う」
同時に。
答えた。
グレースが。
笑う。
「仲良しなんだね」
「うん」
「違う」
同時に。
答えた。
アレンも。
笑っている。
なんなんだ。
こいつら。
◇◇◇
夕方。
「じゃあね、レオン」
アレンが。
手を振る。
「また来るよ」
「だから」
「来なくていい」
「またね」
俺は。
手を振らない。
だが。
遠ざかる。
アレンの背中を。
見ていた。
翌朝。
一人で。
木剣を振る。
一回。
二回。
三回。
アレンに。
負けた動きを。
思い出す。
重心。
踏み込み。
剣の軌道。
もう一度。
振る。
ふと。
村の入り口を見る。
誰も。
いない。
今日も。
来るのだろうか。
そう考えて。
手が止まった。
……何を考えてる。
別に。
来なくていい。
俺は。
木剣を。
振り直した。




