第15話 僕と、友達になろう
【木造橋】
橋板状態:悪
支柱状態:良
接合部:一部破損
地盤状態:良
通行状態:不可
表示された情報を。
一つずつ見る。
橋そのものが。
壊れたわけではない。
川の中央付近。
橋板が。
大きく落ちている。
その周辺の。
接合部も。
いくつか外れていた。
だが。
橋を支える。
太い支柱は。
まだ生きている。
俺は。
少し離れて。
橋全体を見る。
完全に直すなら。
時間がかかる。
材料も。
人もいる。
「橋が直るまで、二日はかかるぞ」
近くにいた男が。
言った。
「村から大工を呼ばねえと俺たちだけじゃ無理だ」
別の男も。
橋を見ながら。
首を振る。
人が。
十数人。
足止めされていた。
商人。
旅人。
農民。
馬を連れた男。
荷車も。
三台ある。
その少し後ろには。
作りが良い馬車が一台――。
俺は。
橋へ近づいた。
「おい、坊主」
商人が。
俺を見る。
「危ねえぞ」
「分かってる」
橋の手前で。
しゃがむ。
《解析眼》。
【橋板】
材質状態:良
腐食状態:軽微
破損状態:一部
橋板の。
全部が。
使えないわけではない。
次に。
橋の横を見る。
綱。
荷車。
積み荷。
使えそうなものを。
探す。
橋の隅の方に
長い板材が。
積まれていた。
橋の予備材だろう。
「その板」
「こっちに持ってきて?」
「は?」
男が。
目を丸くした。
「何に使うんだ?」
「橋」
「橋?」
周りの大人が。
俺を見る。
「向こう側へ渡れればいいんだろ?」
商人が。
眉をひそめた。
「そりゃそうだが……」
俺は。
もう一度。
橋を見る。
必要なのは。
完全復旧ではない。
応急復旧。
人と。
軽い荷物だけでも。
安全に通せれば。
足止めは。
解消できる。
《叡智庫》。
前世の記憶を。
検索する。
大学で学んだ。
基礎的な力学。
構造。
荷重。
支点。
補強。
会社を経営してからも。
建設会社向けの。
システム開発に。
関わったことがある。
現場調査で。
仮設通路を。
見たこともあった。
もちろん。
俺は。
大工ではない。
だから。
できることだけを。
やる。
「綱は?」
「あるけどよ」
「長いやつ」
農民の一人が。
荷車から。
太い綱を出した。
俺は。
板材を見る。
《解析眼》。
【木材】
硬度:良
乾燥状態:良
使用状態:良
使える。
「この板を三本」
「横に並べる」
「その下に」
「短い板を二本」
「綱で固定する」
男たちは。
動かない。
俺を見るだけだ。
まあ。
当然だ。
八歳の子供に。
いきなり指示されて。
動く大人の方が。
珍しい。
「坊主」
商人が。
苦笑する。
「遊びじゃねえんだぞ」
「知ってる」
「落ちたら怪我じゃ済まねえ」
「だから」
俺は。
橋を指した。
「壊れてるところだけ」
「仮の通路を作る」
「支柱は残ってる」
「そこに荷重を逃がす」
「……かじゅう?」
「重さ」
言い直す。
「壊れた板だけに」
「重さがかからないようにする」
男たちが。
橋を見る。
それでも。
動かない。
説明しただけでは。
人は動かない。
前にも。
学んだ。
俺は。
大人たちを見る。
「このまま待ったら」
「今日中に向こうへ行けない」
「そうだな」
「板を使えば」
「人だけなら」
「今日中に渡れるかもしれない」
男が。
少し考える。
「……本当だろうな?」
「うん」
「なら」
「やってみるか」
一人が動くと。
空気が変わる。
「俺も手伝う」
「綱なら、こっちにもあるぞ」
「板を運べばいいのか?」
人が。
動き始めた。
俺は。
橋を見る。
次に。
人を見る。
体格。
持っている道具。
できること。
それぞれ違う。
「そこの二人」
「板を運んで」
「綱を持ってる人は、こっち」
「橋には、まだ乗らないで」
役割を。
簡単に分ける。
大人たちが。
動く。
俺は。
橋の端から。
位置を確認する。
板を渡す。
固定する。
一度。
止める。
《解析眼》。
【仮設通路】
固定状態:普
荷重分散:普
安定状態:普
安全状態:普
まだ。
弱い。
「もう一本」
「ここに入れて」
「綱も」
「二重にする」
「分かった」
やり直す。
もう一度。
見る。
【仮設通路】
固定状態:良
荷重分散:良
安定状態:良
安全状態:良
これなら。
人は渡れる。
だが。
いきなり人を渡す必要はない。
俺は。
仮設した板の端に。
片足を乗せる。
少しずつ。
体重をかける。
板が。
わずかに沈む。
固定は。
外れない。
次に。
両足で乗る。
もう一度。
《解析眼》。
【仮設通路】
固定状態:良
安定状態:良
安全状態:良
問題ない。
俺は。
一番体格のいい男を見る。
「次」
「一人で、ゆっくり渡って」
「俺が?」
「ゆっくり」
「一人で」
「お、おう」
男が。
恐る恐る。
橋へ乗る。
一歩。
二歩。
仮設した板へ。
足を乗せる。
板が。
少しだけ。
沈む。
だが。
固定は。
外れない。
男が。
向こう側へ。
渡り切った。
「おお……」
誰かが。
声を出した。
「渡れたぞ」
次に。
もう一人。
その次。
一人ずつ。
渡る。
荷物も。
人が持てる量だけ。
分けて運ぶ。
さっきまで。
止まっていた人の流れが。
動き始める。
俺は。
その様子を見る。
問題は。
完全には。
解決していない。
だが。
今必要な状態には。
変えられた。
それでいい。
「坊主」
さっきの商人が。
俺を見る。
「お前、大工の息子か?」
「近くの村の農家」
「農家?」
「そう」
商人が。
橋を見る。
俺を見る。
また。
橋を見る。
「……農家って、橋を直せるのか?」
◇◇◇
人が。
ほとんど渡り終わった。
だが。
まだ。
終わりではない。
俺は。
橋の手前に。
木の枝を立てた。
綱を張る。
「何してる?」
商人が聞く。
「荷車が入らないようにする」
「渡れないのか?」
「人は渡れる」
「でも」
「荷車は重すぎる」
「このまま通したら」
「また壊れる」
商人が。
自分の荷車を見る。
「じゃあ、どうする?」
「荷物を分けて」
「人で運ぶ」
「荷車は」
「橋を直してから」
「……面倒だな」
「橋ごと落ちるよりいい」
「それはそうだ」
さらに。
近くの村の男を探す。
「この橋」
「誰が管理してる?」
「向こうの村だ」
男が。
川の先を指した。
「村長に伝えて」
「今日のは」
「応急処置だから」
「このまま使い続けない方がいい」
「分かった」
「あと」
俺は。
壊れた接合部を。
指す。
「ここ」
「ここも」
「それから」
「向こう側の二か所」
「確認した方がいい」
「また外れる可能性がある」
男が。
真剣な顔で。
うなずいた。
「村長に言っておく」
「できれば」
「大工にも見てもらって」
「分かった」
これで。
今の問題と。
次の問題。
両方に。
手を打てる。
俺は。
橋を見た。
《解析眼》。
【木造橋】
橋板状態:悪
支柱状態:良
接合部:一部破損
仮設通路:良
通行状態:条件付き可
十分だ。
俺も。
自分の村に帰ろう。
その時――。
「ねえ、君」
後ろから。
声がした。
子供の声。
振り返る。
少年が。
立っていた。
俺と。
同じくらいの年齢。
金色の髪。
青い瞳。
整った顔。
綺麗な服を。
着ている。
近くには。
男が二人。
少し離れて。
立っていた。
俺は。
少年を見る。
《解析眼》。
【個体名:???】
種族:人間
年齢:八歳
健康状態:良好
身体能力:C
魔力量:B
魔法適性:C
戦闘適性:C
剣術:B
八歳。
俺と。
同じ年。
なのに。
高い。
魔力量と。
剣術。
普通ではない。
それに。
後ろの男たち。
護衛か。
どこかの。
貴族の子供。
そんなところだろう。
「何?」
俺が聞く。
少年は。
橋を見る。
それから。
俺を見る。
「見てたよ」
「え?」
「橋を直すなんてすごい」
「直してない」
「人が渡れるようにしただけ」
少年が。
笑っている。
「同じだよ」
「大人でもできなかった事を」
「君はやってのけた」
そんな。
大げさな事ではない。
「俺がやったのは」
「今日」
「ここにいる人が」
「向こう側へ渡れるようにしただけ」
少年が。
橋を見る。
「どうして」
「やり方が分かったの?」
「農家なんでしょ」
俺と。
大人たちの。
やり取りを聞いていたのか。
「別に」
「応急処置をしただけだ」
少年は。
じっとこちらを見ている。
なんだ。
こいつ。
俺は。
橋を見る。
「すごいよ」
「何が?」
「みんな」
「困ってたんだ」
少年が。
橋を見る。
「橋が壊れて」
「どうすればいいか分からなくて」
「僕も」
「どうすればいいんだろうって」
「ずっと考えてた」
俺は。
少年を見る。
「でも」
「君は」
「何が壊れているのかを見て」
「今できることを見つけて」
「みんなを動かして」
「あっという間に」
「渡れるようにした」
少年は。
俺を見る。
青い瞳が。
少しだけ。
大きくなっていた。
まるで。
ずっと探していたものを。
ようやく。
見つけたような。
そんな顔だった。
そして。
少年は。
嬉しそうに。
笑った。
「だから」
「すごいって思ったんだ」
俺は。
当たり前のことしか。
していない。
現状を見る。
問題を分ける。
優先順位を決める。
できる方法を探す。
実行する。
いつも。
やっていることだ。
「別に」
「普通だろ」
少年が。
首を横に振る。
「普通じゃないよ」
笑っている。
変な奴だ。
「君」
「名前は?」
名前まで。
教える必要はない。
そう思ったが。
このまま黙っていても。
諦めそうにない。
「……レオン」
少年の顔が。
少しだけ。
変わった。
「レオン――」
驚いたような。
納得したような。
そんな顔。
「やっぱり」
「何が?」
「ううん」
少年は。
また笑った。
「僕はアレン」
「そう」
「よろしく」
「うん」
会話が。
終わった。
俺は。
村へ帰ろうとする。
「待って」
呼び止められる。
振り返る。
「まだ何かある?」
少年。
アレンは。
少しだけ。
考えるように。
俺を見た。
そして。
笑った。
「レオン」
「僕と、友達になろう」
「……は?」




