第13話 世界を取るために
ある日の夜。
俺は。
一人で。
机に向かっていた。
目の前には。
何枚もの紙。
この世界では。
紙は安くない。
だから。
普段は。
木の板を使うことも多い。
だが。
これは。
紙に残しておきたかった。
俺は。
紙の一番上に。
文字を書く。
――目標。
その下に。
一つの言葉を書く。
世界の頂点へ。
俺は。
しばらく。
その文字を見た。
転生した時。
俺は。
決めた。
もう一度。
上へ行く。
前世よりも。
もっと高い場所へ。
この世界の。
頂点へ。
だが。
この世界に生まれてから八年。
俺がやってきたことは。
家族の生産性向上。
村の農業の改善。
そして周辺の村の問題解決。
もちろん。
無駄ではない。
この世界でも。
俺のやり方が。
通用する。
それは。
証明できた。
だが。
俺が欲しいのは。
村ではない。
前世なら。
会社を大きくするために。
市場を調べた。
競合を調べた。
顧客を調べた。
法律を調べた。
知らない市場へ。
いきなり。
飛び込んだりはしない。
なら。
今回も。
同じだ。
俺は。
新しい文字を書く。
――現状。
俺は。
手を止めた。
そして。
気づく。
「……まだ何も知らないな」
思わず。
声が出た。
そうだ。
俺は。
この世界を。
知らない。
世界の頂点に立つ。
そう言いながら。
その世界が。
どうなっているのか。
俺は。
ほとんど知らない。
話にならない。
俺は。
紙に書いた。
――まず、世界を知る。
◇◇◇
翌日から。
俺は。
情報を集め始めた。
最初に聞いたのは。
父さんだった。
「父さん」
「ん?」
畑仕事をしていた父さんが。
顔を上げる。
「この世界には、どんな国がある?」
父さんが。
止まった。
「……お前、急にどうした?」
「知りたい」
「何を?」
「世界を」
父さんが。
俺を見る。
「また変なこと考えてるだろ」
失礼な。
「勉強だよ」
「八歳が世界の勉強ねえ」
父さんは。
頭を掻いた。
「俺も、全部知ってるわけじゃねえぞ」
「知ってる範囲でいい」
「そうだな」
父さんは。
鍬を置いた。
「大きく分けりゃ、七つだ」
七つ。
アステリアから聞いていた通りだ。
俺は。
持ってきた板に。
書く。
固有スキル《叡智庫》がある。
一度。
俺が知ったことなら。
必要な時に。
検索できる。
だが。
整理することには。
意味がある。
情報は。
持っているだけでは。
役に立たない。
使える形に。
整理する必要がある。
父さんが。
話し始めた。
俺たちが住む。
アルセリア王国。
自然と資源が豊富。
次に。
軍事力が強い。
ヴァルガ帝国。
そして。
魔法研究で知られる。
エルディア魔法国。
鉱山と鍛冶の。
ガルド王国。
宗教の影響が強い。
セレスティア聖王国。
北方に広大な領土を持つ。
ノルディア王国。
海と交易の。
ラグナ海洋国。
七つ。
俺は。
名前を書いた。
「どこが一番強い?」
「知らん。俺は学者じゃねえ」
使えない。
そう思った瞬間。
「とにかく」
父さんが言う。
「世界を知りてえなら、他の奴に聞け」
「じゃあ、誰に聞けばいい?」
「知らん。」
……本当に使えない。
◇◇◇
それから。
俺は。
村を訪れる人間を。
捕まえるようになった。
旅人。
冒険者。
行商人。
最初は。
みんな。
変な顔をした。
八歳の子供に。
世界のことを聞かれるとは。
思わないのだろう。
だが。
俺が。
本気で聞いていると分かると。
意外と。
話してくれた。
前世ではなかった概念もある。
戦技――。
身体。
武器。
魔力。
それらを組み合わせた。
戦闘技術のことだ。
そして。
――魔法。
火。
水。
風。
土。
光。
闇。
基本となる。
六つの属性。
初級。
中級。
上級。
その上に。
最上級。
複数の属性を。
組み合わせる魔法もあるらしい。
そして。
ダンジョン――。
世界各地に存在する。
魔物が発生する。
特殊な空間。
深くなるほど。
強い魔物が現れる。
魔石。
鉱石。
希少な素材。
そういったものも。
手に入るらしい。
この村の近くにも。
一つある。
ただし。
村人は。
ほとんど近づかない。
俺は。
板に。
次々と。
書いていく。
知れば。
知るほど。
知らないことに。
気づく。
前世も。
この世界も。
同じだ。
そして。
一つ。
大きな問題が。
見えてきた。
俺は。
弱い。
◇◇◇
この世界には。
魔物がいる。
そして。
人間同士の争いもある。
国と国。
領主と領主。
時には。
村と村でさえ。
最後にものを言うのは。
武力だ。
前世では。
俺自身が。
戦う必要はなかった。
会社を経営するのに。
剣は必要ない。
魔法も必要ない。
だが。
この世界は違う。
どれだけ。
頭が良くても。
どれだけ。
知識があっても。
死ねば。
何の意味もない。
この世界で。
頂点に立つには。
必ず。
戦う力がいる。
俺は。
新しい紙を出した。
そして。
書く。
――自分自身の能力を上げる。
◇◇◇
翌朝。
父さんは。
家の前で。
薪を割っていた。
俺は。
その前に立つ。
「父さん」
「ん?」
「頼みがある」
父さんが。
斧を止める。
「珍しいな」
「何が?」
「お前が俺に頼み事するのが」
そうだろうか。
「何だ?」
俺は。
父さんを見る。
《解析眼》。
【リアム・アルヴァ】
種族:人間
年齢:三十八歳
健康状態:良好
身体能力:A
魔力量:C
魔法適性:C
戦闘適性:A
剣術:A
危険察知:A
農業技術:B
論理的思考力:E
計画力:D
数値管理:D
農業技術。
計画力。
数値管理。
以前より。
上がっている。
父さんも。
成長している。
だが。
今日。
見ているのは。
そこではない。
剣術。
A。
戦闘適性。
A。
俺の目の前には。
最高の教材がいる。
「父さん」
俺は。
言った。
「俺に、剣を教えて」
父さんが。
固まった。
数秒。
俺を見る。
そして。
「……なんで?」
「強くなりたい」
「なんで強くなりたい?」
俺は。
少し考えた。
別に。
隠す必要はない。
「やりたいことがある。そのために、力が必要なんだ」
父さんは。
黙った。
俺を見る。
「……そうか」
しばらくして。
父さんが言った。
「分かった」
「教えてやる」
俺は。
頷いた。
世界の頂点に立つ。
そのための。
準備を。
始める。
まずは。
剣だ。
俺は。
この日から。
父さんに。
剣を習い始めた。




