第11話 天才レオン・アルヴァ
天授の儀から。
数か月が経った。
俺の生活は。
特に変わらなかった。
だが。
俺の知らないところで。
俺の名前が。
村の外へ。
広がり始めていた。
◇◇◇
最初は。
商人だった。
作物を買いに来た商人が。
俺を見て言った。
「君がレオンか?」
「そうだけど」
「本当に子供なんだな」
失礼な奴だ。
商人が笑う。
「いや、すまん」
「この村の収穫量を増やした子供がいるって聞いてな」
それだけではない。
商人は。
天授の儀の話も知っていた。
「固有スキルを二つ持ってるんだろ?」
「そうだけど」
「やっぱり本当なのか」
商人の目が変わる。
面白いものを見るような。
そんな目だ。
「すごいな」
「七歳の天才か」
天才。
悪くない。
前世でも。
似たようなことは。
何度も言われた。
若き経営者。
天才経営者。
時代の寵児。
俺は。
そう呼ばれることが。
嫌いではなかった。
◇◇◇
商人だけではなかった。
ある日。
一人の男が。
村へやって来た。
隣の村の農民だった。
「レオンって子はいるか?」
畑にいた俺のところへ。
リアムが連れてきた。
「こいつだ」
男が。
俺を見る。
「……本当に子供じゃないか」
またか。
「何の用?」
俺が聞くと。
男は。
少し困った顔をした。
「うちの村でも、作物の収穫を増やしたいんだ」
なるほど。
仕事か。
◇◇◇
話を聞いた。
隣の村でも。
この村のやり方を。
真似し始めているらしい。
種を選ぶ。
間隔を空ける。
水を管理する。
乾燥方法を変える。
俺たちが作った。
木の板も。
見よう見まねで。
作ったらしい。
だが。
「うまくいかない」
男が言う。
「収穫が増えない?」
「むしろ、前より悪くなった畑もある」
おかしい。
やっていることは。
間違っていない。
少なくとも。
俺たちの村では。
成果が出ている。
なら。
同じことをすれば。
同じ結果が――。
そこまで考えて。
俺は止まった。
違う。
俺たちの村と。
この村は。
同じではない。
土地。
水。
作物。
人数。
道具。
気候。
全部違う。
同じ方法を使えば。
同じ結果になる。
そんな保証はない。
前世でも。
同じだった。
他社の成功事例を。
そのまま導入する会社。
流行している制度を。
そのまま入れる会社。
他社で成功した。
だから。
自社でも成功する。
そんなわけがない。
重要なのは。
答えではない。
答えを出すまでの。
考え方だ。
「村を見せて」
俺は言った。
◇◇◇
数日後。
俺は。
リアムと一緒に。
隣の村へ向かった。
まず。
一つの畑を見る。
《解析眼》。
【北側農地】
土壌状態:普
水分状態:悪
排水状態:悪
生育状態:悪
生育均一性:悪
なるほど。
次の畑。
【中央農地】
土壌状態:良
水分状態:普
排水状態:良
生育状態:普
生育均一性:普
違う。
同じ村でも。
畑によって。
状態が違う。
村の他の畑を一通り見て回った。
だが。
《解析眼》だけでは。
足りない。
俺は。
村人に聞いた。
「去年は、どれくらい採れた?」
「正確には分からん」
「記録は?」
「ないな」
やはり。
まずは。
現状を知るところからだ。
「この畑は、いつ水をやってる?」
「朝だ」
「毎日?」
「そうだ」
「雨の日も?」
「昔からそうしてる」
なるほど。
「この畑は?」
「夕方」
「なぜ?」
「父親からそう教わった」
やはり。
見るだけでは。
分からない。
《解析眼》で。
現在の状態は見える。
だが。
なぜ。
その状態になったのか。
すべてが分かるわけではない。
だから。
聞く。
見る。
記録する。
比較する。
その情報を。
組み合わせる。
俺は。
頭の中で。
《叡智庫》を使う。
農業。
水分管理。
排水。
作業工程。
標準化。
前世の知識を。
引き出す。
《解析眼》で。
現状を見る。
《叡智庫》で。
解決策を探す。
そして。
この村に合う形へ。
変える。
◇◇◇
問題は。
いくつもあった。
水をやりすぎている畑。
排水が悪い畑。
種の間隔が狭い畑。
乾燥が不十分な場所。
だが。
全部を。
一度には変えない。
効果。
難しさ。
必要な費用。
失敗した時の影響。
それを考える。
最初に。
三つだけ。
試すことにした。
水の量。
種の間隔。
排水。
それぞれ。
担当を決める。
「水は?」
「俺がやる」
「種は?」
「私が見るよ」
「排水は?」
「じゃあ、俺だ」
誰が。
何をするのか。
決める。
そして。
一週間後。
もう一度。
集まることにした。
◇◇◇
一週間後。
また。
村へ行った。
水を減らした畑。
《解析眼》。
水分状態。
悪から。
普。
生育状態も。
少し改善している。
種の間隔を変えた畑。
まだ。
大きな変化はない。
排水を改善した畑。
状態は。
明らかに良くなっている。
「これ」
村人が。
驚いた顔をする。
「本当に変わってるな」
「まだ分からない」
俺は答える。
「収穫まで見る」
途中で良くても。
最後に。
成果が出なければ。
意味がない。
だから。
続ける。
試す。
確認する。
修正する。
また試す。
◇◇◇
数か月後。
結果が出た。
村全体ではない。
試した畑だけだ。
だが。
収穫量は。
確実に増えた。
村人たちが。
騒いでいる。
「本当に増えたぞ!」
「去年より多い!」
「うちでもやりたい!」
その言葉を聞いて。
俺は。
少し笑った。
ここからだ。
成功した方法を。
整理する。
誰でもできる形にする。
そして。
他の畑へ。
広げる。
俺たちの村で。
やったことと同じだ。
現状を見る。
問題を決める。
原因を探す。
優先順位をつける。
小さく試す。
結果を見る。
良ければ広げる。
問題が違えば。
答えも変わる。
だが。
問題を解く手順は。
変わらない。
農業でも。
経営でも。
やることは。
同じだ。
◇◇◇
帰り道。
リアムが。
俺を見る。
「お前、本当に七歳か?」
「七歳だよ」
「そういう意味じゃねえ」
意味が分からない。
リアムが。
笑う。
「村の連中、お前のこと天才って言ってたぞ」
「そう」
「嬉しくねえのか?」
嬉しい。
当然だ。
「悪くない」
俺が答えると。
リアムが笑った。
「素直じゃねえな」
俺は。
少し、笑った。
◇◇◇
それから。
更に一年が経った。
俺は。
八歳になった。
この一年。
俺は。
他の村でも。
いくつかの成果を出していた。
そして。
俺たちの村でも。
五歳の時。
俺は。
一つの目標を決めた。
――アルヴァ家の年間所得を、二倍にする。
そして。
その先に。
もう一つの目標を置いた。
――村全体の収穫量と所得を増やす。
二つとも。
達成した。
結果を出した。
そして。
レオン・アルヴァという名前は。
さらに広がった。
村の収穫量を増やした子供。
別の村の問題まで解決した子供。
二つの固有スキルを持つ子供。
話は。
商人から商人へ。
旅人から旅人へ。
村から町へ。
少しずつ。
形を変えながら。
広がっていった。
やがて。
こんな噂になった。
――どんな問題でも解決する。
天才レオン・アルヴァ。
そして。
その噂を。
遠く王都で。
一人の少年が。
耳にすることになる。




