第10話 天授の儀
七歳になった。
収穫祭から。
少し経った頃。
村の七歳の子供たちは。
近くの町にある神殿へ集められた。
天授の儀。
この世界では。
七歳になると。
神殿で。
自分の《固有スキル》の有無を確認する。
生まれながらに持つ。
その人間だけの力。
前世でいえば。
人事評価をやるようなものか。
だが。
この世界では。
天授の儀の結果によって。
将来の職業。
学校。
仕える家。
場合によっては。
結婚相手まで変わるらしい。
つまり。
人生を左右する評価だ。
◇◇◇
神殿の中には。
俺たちと同じ年頃の子供が。
二十人ほど並んでいた。
俺の村だけではない。
近隣の村からも来ている。
子供の後ろには。
父親。
母親。
家族。
皆。
落ち着かない顔をしている。
俺の横には。
リアム。
マリア。
そして。
グレースがいた。
「レオン、緊張してる?」
グレースが聞く。
「別に」
俺は。
自分の固有スキルを知っている。
《解析眼》。
《叡智庫》。
アステリアから。
転生するときに与えられた。
二つの力。
「俺の方が緊張するな」
リアムが言う。
「何で父さんが?」
「親ってのは、そういうもんだ」
理解できない。
俺の能力なのに。
なぜ父親が緊張する。
「何が出てもレオンはレオンよ」
マリアが笑った。
何が出ても。
同じ。
前世なら。
あり得ない考え方だ。
能力が違えば。
評価は変わる。
成果が違えば。
報酬も変わる。
当然だ。
だが。
収穫祭のかけっこを思い出す。
二位でも。
母さんは怒らなかった。
俺は。
その記憶を振り払った。
今は。
天授の儀だ。
◇◇◇
白い法衣を着た神官が。
祭壇の前に立った。
中央には。
大きな水晶が置かれている。
「これより、天授の儀を執り行います」
神殿が静かになる。
神官が。
子供たちを見回す。
「人は、生まれながらに特別な力を持っています」
「それが――固有スキルです」
「固有スキルは、一人に一つ」
「その人だけが持つ、特別な力です」
一人に一つ。
だが俺は。
二つ。
◇◇◇
儀式が始まった。
一人目。
少年が。
水晶に手を置く。
淡い光。
神官が結果を読む。
「《火属性強化》」
少年の父親が。
小さく呟いた。
「……強化系か」
少しだけ。
顔を曇らせる。
固有スキルがあっても。
その種類によって。
評価は変わるらしい。
分かりやすい。
前世と同じだ。
人事評価。
A。
昇格。
高年収。
重要ポスト。
C。
現状維持。
D。
降格。
俺自身。
前世では。
徹底的に部下を評価した。
数字で。
成果で。
能力で。
人を分けた。
何人かの子供の後。
俺自身の順番が来た。
「次」
神官が名簿を見る。
「レオン・アルヴァ」
呼ばれた。
◇◇◇
祭壇へ進む。
後ろから。
マリアの声がした。
「レオン、頑張って」
頑張ることではない。
測るだけだ。
俺は。
水晶の前に立つ。
神官が言う。
「右手を水晶へ」
触れる。
冷たい。
次の瞬間。
水晶の内部に。
光が走った。
一度。
そして。
二度。
神官の顔が変わる。
「……え?」
水晶を見る。
俺を見る。
もう一度。
水晶を見る。
「どうした?」
別の神官が近づく。
「二つ……」
「何が?」
「固有スキルが……二つある」
神殿が。
静かになった。
すぐに。
ざわめきが広がる。
「二つ?」
「そんなことあるのか?」
「聞いたことないぞ」
俺は知っている。
アステリアから。
与えられた力。
俺が。
既にこれまで使ってきた能力だ。
ただ。
これらの固有スキルは。
万能ではない。
一つ目。
《解析眼》。
人。
物。
土地。
目の前にあるものの。
現在の状態を解析する。
だが。
人の感情。
本心。
愛情。
行動の本当の理由。
そういった。
人の内側までは見えない。
そして。
俺自身も解析できない。
自分へ意識を向ける。
――何も表示されない。
二つ目。
《叡智庫》。
前世の黒崎玲司として。
俺が知ったことを検索できる。
忘れていた記憶も。
必要な時に取り出せる。
だが。
知らないことは出てこない。
《解析眼》は。
現状を見る。
《叡智庫》は。
解決策を探す。
だが。
何を目指すのか。
何のためにやるのか。
それは。
俺次第だ。
◇◇◇
「レオン?」
神官の声で。
意識が戻る。
周囲を見る。
全員が。
俺を見ていた。
どうやら。
頭の中の情報を確認している間。
俺は。
しばらく水晶に手を置いたまま。
止まっていたらしい。
神官が。
震える声で読み上げる。
「解析系固有スキル――《解析眼》」
ざわめき。
「さらに」
神官が。
息を飲む。
「記憶・知識系固有スキル――《叡智庫》」
神殿が。
完全に静まり返った。
「二つの固有スキル……」
別の神官が呟く。
◇◇◇
儀式が終わると。
村人たちは。
俺の周りへ集まった。
「レオン!」
「やっぱりお前、すごかったんだな!」
「固有スキルが二つなんて聞いたことがないぞ!」
「王都でも話題になるんじゃないか?」
悪い気はしない。
能力を認められる。
成果を認められる。
それは。
今でも好きだ。
俺は。
自分の力が。
証明されたことに。
満足していた。
その時。
少し離れた場所で。
泣いている少年が見えた。
さっき。
天授の儀を受けた子供だ。
固有スキル。
《火属性強化》。
父親が。
少年へ言う。
「仕方ない」
「お前には、もっと期待してたんだがな」
少年が。
俯く。
期待。
結果。
失望。
今日。
水晶に手を置いた。
スキルが分かった。
それだけで。
見る目が変わる。
能力が低い。
だから。
その人間の価値も低い。
本当に。
そうなのだろうか。
グレースの顔が。
一瞬。
浮かんだ。
◇◇◇
俺は。
村に戻る前に。
神官へ聞いた。
「固有スキルはずっと変わらないの?」
神官が。
答える。
「固有スキルそのものは変わりません」
「ただ」
「ただ?」
「本人の努力や成長によって、固有スキルのレベルを伸ばすことはできます」
「……伸びる?」
スキルは。
成長する。
今の力が。
完成形ではない。
それを聞いて。
俺の胸は高鳴った。
◇◇◇
帰り道。
リアムが。
俺の頭を乱暴に撫でた。
「二つか」
「そうみたい」
「すげえな」
マリアも。
笑っている。
「何が出てもレオンはレオンって言ったでしょ?」
「……」
何が出ても。
同じ。
俺は。
まだ。
その考え方を。
完全には理解できない。
能力がある方が。
いい。
成果を出せる方が。
いい。
勝つ方が。
いい。
その考えは。
変わっていない。
ただ。
負けても。
怒られなかった。
能力が低いからといって。
その人間まで。
価値が低いのか。
今の俺には。
まだ分からない。
そして。
もう一つ。
今日。
分かったことがある。
《解析眼》。
《叡智庫》。
二つの固有スキル。
どちらも。
まだ。
発展途上。
俺には。
まだ先がある。
もっと見える。
もっと知れる。
もっと大きな問題を。
解決できる。
俺は。
少し笑った。
◇◇◇
この日。
ある村で。
二つの固有スキルを持つ子供が現れたという話は。
村人たちの口から。
商人へ。
旅人へ。
そして。
村の外へ。
少しずつ。
広がり始めた。




