<エピローグ> ルーマンの宝剣
そこには、みんながいた。
レオ四世が。
レオンハルトが。
リィナも駆けつけている。
航海長イブラヒム。
ユイル配下の将軍たち、兵士たちも。
そして、数え切れないほどの民衆が、ユイルを待ってくれていた。
ユイルの勝利と生還とを。
大聖堂の入り口で、ユイルは言葉を紡ぎ出す。
「オレは、レオを倒した。レオが、皆を騙した大悪人だったからだ。オレはまた、人を殺してしまったけれど、レオを倒すことで、今までオレが手にかけた人々への贖罪になれば、と思う」
深く息を吸う。
「許されないことだったかもしれない。でも、他の方法が、オレには見つからなかったんだ」
深く息を吐く。
「レオ三世を、オレは殺した・・・。法皇を・・・」
ユイルの述懐が終わると、民衆の中から、まるで大地から湧き出すかのように、言葉が上がった。
「ユイルを王に! 法皇を倒したユイル伯爵こそ、新しい王に相応しい! どうか、我らの王に!」
別の民が声を上げる。
「我らの王、ユイル! そして、カテリーナ様を王妃に!」
おお、という賛同の声が、周囲に広がる。
顔を赤らめて、視線を交わすユイルとカテリーナ。
しかし、ユイルはキッ、と前を見て、こう語り出したのだった。
「何度も言うが、オレはただの剣士、ただの人殺しだ。伯爵の地位も、戦いの末に得たものに過ぎない。オレには、王になってみんなを統治する資格なんてない」
深く息を吸って、ユイルは続ける。
「でも、みんなを、このルーマンを守ることはできる」
一人の兵士が、ユイルのルーマンの正剣を大聖堂から運んで来ていた。彼に手渡す。
「父から受け継いだ、この剣と」
別の兵士が、ルーマンの副剣をユイルに手渡す。
「師から授かった、このデュランダルで」
ユイルは両手の剣を力強く構えた。
「オレは、この二つの剣で、ルーマンを守る剣となる。それが、これからのオレの使命だと思う」
はっきりと告げるユイル。
「ルーマンの剣・・・」
民衆の誰かが声を漏らす。
別の誰かが言う。
「いや、ユイル殿は、ルーマンの誇るべき宝だ!」
そして、別の誰かが。
「ルーマンの宝、ルーマンの剣・・・」
そして、その呼び名が、誰というわけでもなく、この世界に誕生した。
『ルーマンの宝剣』
「そうだ、ルーマンの宝剣だ!」
「ユイル殿は、ルーマンの宝剣なのだ!」
「ルーマンの宝剣!」
十人ほどが、その名を叫ぶ。
「ルーマンの宝剣!!」
次は百人ほどが。
「ルーマンの宝剣!!!」
次は千人ほどに。
「ルーマンの宝剣!!!!」
ついには一万人以上の大歓声が、ルーマの街に響き渡ったのだった。
涙を流している民がいる。抱き合って喜ぶ民がいる。踊り出している民もいる。子供たちは訳も分からぬまま、その場で飛び上がっている。
ルーマの住民全員が、ユイルを、この後、歴史上、『ルーマンの宝剣』と呼称される、若き英雄の誕生を祝福していた。
両手の剣を背中の鞘に収めると、ユイルは歓声を鎮めるように右手を挙げた。
民衆が声を潜め、ユイルの言葉を待つ。
「みんな! オレを『ルーマンの宝剣』と呼んでくれてありがとう。過分な呼び名だけど、ありがたいし、とても嬉しい」
少しはにかみながら、ユイルは続ける。
「だけど、この国は法皇国だ。誰かが法皇位を継がなきゃならない。レオ三世は悪人だったけれど、ルーマン正教の教えには正しいことが多いと、信じて良いものだと、オレは思っている」
滔々と語るユイル。
「そして、今この場に、新法皇に相応しい人物がいる──レオ四世だ」
ユイルはレオ四世に顔を向け、自分とカテリーナの間に来るよう、いざなった。
カテリーナも、優しく甥を手招きする。
おずおずとした足取りでレオ四世は歩み、ユイルとカテリーナに守られる形で二人の間に立った。
「レオ四世の善良さは、みんなが知っていると思う。幼い彼の発案で、「救民院」が造られた。それで、多くの貧しい人、孤児、体や心を病んだ人、奴隷、戦で傷ついたり病んだ人が救われた。
彼は「学習院」も造った、全ての子供に、教育の機会を与えるために。そして、無料で開放された「図書院」も。
この国は、レオ四世のお陰で良くなった。そして、これからも良くなっていく。
それに何より──」
ユイルは言う。
「彼は、父であるレオ三世の秘密をオレに教えてくれた。奴の本体、生命が隠されていた、ルーマンの神体のことを。あの告白が無ければ、オレは奴を倒すことができなかった・・・」
ユイルは視界に入る全ての人々に視線を向けた。
「どうだろうか? オレは、このレオ四世を新法皇として推挙したい。ただ、彼はまだ幼い。だから、これからはオレとカテリーナが、彼のことを本当の子供のように愛し、守り、育てていく。ルーマン法皇国と共に。だからみんな、彼を認めてくれないか? 彼を新法皇として、迎え入れてはくれないだろうか?」
数秒の沈黙。
そして。
歓声が爆発した。
「レオ四世、万歳!!」
「新法皇様、万歳!!」
民衆の万歳の連鎖が、ルーマの街を満たしていった。
レオ四世が、喜びのあまり泣き出す。
そんな新法皇を、ユイルとカテリーナは、優しく二人で抱き上げ、民衆の大歓声に応えたのだった。
数日後。
新しく製作された、銀色の十字架を神体として祭った大聖堂で、レオ四世の新法皇就任式が厳粛に執り行われた。
それに続いて。
新法皇を証人とした、ユイル伯爵とカテリーナ嬢の結婚式が、盛大に執り行われた。
歴史書は、「最も正しく凛々しき新郎」と、「最も優しく美しき新婦」の結婚式であったと伝えている。
ルーマンの未来は、この三人の若者の、そして、多くの民衆の手に委ねられた。
──新生ルーマン法皇国の歴史が、ここに始まる。
<完>




