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第48話 告発の行方

 カテリーナは、地面に膝をついて、手から滑り落ちた紙の束を慌ててかき集めた。

 余りのことに気分が悪くなり、吐き気がした。兄・レオ三世、父・レオ二世が、こんなにも邪悪な人間だったなんて。

 にわかに信じられなかったが、もう一人の兄・“影”の記した文書は、整然とした筆致で真実を告発していた。

 書簡を箱に戻し、薬草の入った籠を取り上げると、カテリーナは急いで甥・レオ四世の寝室に戻った。

 薬草を煎じて薬を作り、甥に飲ませる。

 効き目があったのか、しばらくしてレオ四世の呼吸が穏やかなものになり、健やかな寝息を立て始める。

 甥の枕元で、カテリーナは蝋燭に火を灯し、秘密の文書を読み直した。

 深いため息をつく。到底、一人で抱えきれる問題ではなかった。

 胸中に嵐が吹き荒れ、時間は遅々として進まなかった。

 甥の額に乗せた濡れ布巾を手に取り、たらいで絞る。少し熱が下がってきたようだった。

 カテリーナは、甥の目覚めを待った。肉親として、今後のことを相談したかった。

 じりじりと融けていく蝋燭を見つめ、カテリーナは時を待った。

 少しうとうとしかけたとき、レオ四世の意識が戻った。

「・・・叔母上。看病して下さったのですね」

「少し眠れたみたいね。気分はどう?」

「大分良いです。かなり楽になりました」

 レオ四世はベッドに半身を起こした。

 カテリーナが水を満たした杯を手渡すと、四世は一気に飲み干した。

「目覚めたばかりで悪いのだけれど、貴方に読んでほしいものがあるの」

 カテリーナは切り出した。

「私に?」

 四世は、差し出された文書に視線を落とした。

 長い時間をかけ、彼は問題の書簡を読み終えた。しばらく言葉を発しない。内容を消化するのに、かなりのエネルギーを費やしている様子だった。

「・・・これは、事実なのですか?」

 振り絞るように声を出す。

「恐らくね。尖塔の最上階にいる、もう一人の兄上──貴方にとっては叔父上ね──に会えば、はっきりするのだけれど」

「あの塔には、簡単には登れません。しかし、これだけの文書、捏造とは考えにくい。信じたくはありませんが、真実なのでしょう」

 四世は、興奮で頬を紅潮させていた。

「レオ四世、貴方は、この書簡をどうしたら良いと思う?」

 カテリーナが難しい問いを発する。

 長い思案の末に、苦悩の色も濃く、四世は口を開いた。

「ユイル伯爵に届けて下さい。父上に対抗するには、私たちは非力すぎる。彼の力が必要です」

 その結論は、カテリーナが内心辿り着いたものと一致していた。

「分かったわ。貴方はもう少し休んでいて」

 カテリーナは文書を懐に仕舞い、外に出た。厩舎から愛馬を引き出し、騎乗する。

 太陽が東の空を明るく照らし始めていた。

 カテリーナは馬でユイルの屋敷に乗り込んだ。

 留守番をしていたリィナが起きてくる。

「カテリーナさん、どうしたの、こんなに朝早く」

 挨拶もそこそこに、カテリーナは書簡をリィナに手渡した。

「何も言わずに、これを読んでちょうだい」

 カテリーナの剣幕に、リィナも姿勢を正して文書を読んだ。

「これは事実なの? こんな恐ろしいこと・・・」

 ユイルたちは兄弟仲が良い。血は繋がっていないが、互いに愛し合っている。法皇の異常な兄弟関係が、すぐには信じられなかった。

「この書簡を、ユイルに届けたいの。アズライルを貸してちょうだい」

 ラームの死後、アズライルとチャンドラはユイル邸で養われている。二頭は、ラームに代わる新たな主としてユイルを選んだのだ。

 カテリーナとリィナは、ベランダに出た。

 リィナが叫ぶ。

「おいで、アズライル!」

 たちまち、精悍な一頭の鷲が飛来して、リィナの肩にとまる。

 カテリーナは、竹の筒に自分の署名を刻んで、中に書簡を仕込んだ。

 アズライルの足に、しっかりと掴ませる。

「お願い、飛んで! ユイルの元へ!」

 カテリーナが叫ぶ。

 アズライルは、その声に背中を押されたように、雄々しく空へと舞い上がったのだった。

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