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第41話 軍師・ムウ

「アラヴィヤ王国軍に、不穏な動きあり!」

 その一報が、ロドス島付近を偵察航行していたルーマン法皇国の艦船から、皇都ルーマにもたらされた。

 アラヴィヤ王国本土から、複数の軍船が兵士を満載してロドス島に入港したというのだ。

 ロドス島の守りを固めるにしては、その兵士の数は多過ぎた。何らかの対外戦略を企んでいる証左だった。

 法皇宮殿では、緊急御前会議が召集された。

 ユイルもガリアから呼び戻され、末席に座る。

 一同の関心は、増大したアラヴィヤ王国軍がどこを攻めるかにあった。

 直接ルーマを攻めてくる、という意見もあった。手薄な海岸に上陸し、ガリアを攻めるという見方もあった。確定するには情報が不足しており、会議は堂々巡りを繰り返した。

 他の都市国家が標的なのではないか、という楽観論まで出たが、少数派であった。

 アラヴィヤ王国にとっては、ルーマン正教の中心地、ルーマン法皇国の皇都ルーマを攻めてこそ、政治的にも軍事的にも大きな成果を挙げることができるのだ。

 楽観論は退けられた。

 どちらが目的かわからない以上、ルーマとガリア双方に充分な兵力を配備する必要があった。戦力分散の愚を冒すことになるが、致し方ない。

「どちらかが攻められたら、他方の兵力を救援に向かわせればいいのだ。結果的には、それで兵力を集中できる」

 そんな発想の転換もあった。

 ユイルは腕を組んで会議の推移を見守っていた。戦況がどう転んでも、大軍を相手にすることになりそうだった。

 今まで自分が戦ってきたのは、少人数か一対一の一騎打ちだった。一軍を指揮しての戦いは、初めてである。個人戦ならば、どんな敵とも渡り合える自信があったが、集団戦となると勝手が違うだろう。

 自分以外に軍師が必要だな、と考えて、ユイルは一人の青年を思い出していた。

 オッドアイのムウ。彼は自分のことを軍師と呼んでいた。彼を、配下に招こう。

「ガリアには、兵士一千を配する。ユイル子爵、そなたが指揮せよ」

 レオ三世が独断する。

「残兵はルーマを守れ。ロドス島の敵軍の動きを、厳に警戒するのだ」

 法皇の決断は絶対である。

 アラヴィヤ軍の思惑は不明ながら、ルーマン軍は行動を開始した。

 

 ユイルは宮殿を出ると、ムウを捜しにギルドに赴いた。

 果たして、そこにムウはいた。

「これはユイル殿。私に御用ですか」

「ああ。貴方に軍師を頼みたい」

 単刀直入に、ユイルは依頼した。

「アラヴィヤ王国軍が攻めてくるのですね」

 その情報は国家の機密事項だったが、ムウがすでに知っていることに、もうユイルは驚かなかった。

 ムウとは、そういう人なのだ。

「詳しい話は、ガリアで」

 ユイルは多くを語らなかった。それでも、ムウには通じるのだ。

「かしこまりました」

 ギルドを後にするユイルに、ムウは付き従った。

 ユイルは愛用の黒馬でルーマに駆けつけていた。

 自分が騎乗すると、ムウを馬上に引き上げ、後ろに座らせる。

 馬腹を蹴って、ガリアに急いだ。

 ガリアに着くと、守りを固める鉄扉の開門を命じる。

 きしんだ音を立てながら、門が開かれる。

 ユイルは黒馬を門の隙間に滑り込ませた。

 ムウと共に下馬すると、乗馬は馬丁にまかせ、新たな軍師を伴って正門砦の二階に上がった。

 ムウは二階からの眺望を確認するように、ぐるりと四方に視線を向けた。

「・・・西方に海岸線が見え、南北・東方は地平線まで木々や建物など、何も遮るものはないですね。敵を見張る場所としては、申し分ありません」

 ムウが太鼓判を押す。

「ここには弓兵を詰めさせましょう。裏門砦も同じように。私の予想では、敵軍は主に正門から攻めてきます」

 ムウは冷静に述べた。

「ガリア村の広さでは、篭城できる兵に限りがあるからです。法皇からは、何人兵を預かりましたか?」

「千人だ」

「それぐらいが限界でしょうね。それに対して、敵は最低でも二倍の兵で攻めて来るはずです。兵力に余裕がある以上、正面から正攻法で寄せて来るでしょう」

「兵の配置はどうしたらいい?」

「正門に八百、裏門に二百」

 ムウは即答する。

「それから、ユイル殿、ラーム殿、レオン殿は正門で敵を待ち受けて下さい。激戦が予想されますので、撃破力と火力に長ける御三方が、敵主力を迎え撃つべきです」

「分かった」

「カテリーナ様と、リィナ殿は、比較的安全な裏門砦に。危険は正門ほどではありませんが、手薄になりますので、万一の際の回復力を確保しておくと良いでしょう。私自身は、ユイル殿の傍に侍ります」

 ムウは小気味良く、てきぱきと意見を具申した。その提案は、おおむねユイルの意にも適った。

 ムウの献策どおりに、兵士の配置を整える。

 ルーマの自宅に使者を送って、ラーム、レオン、リィナも呼び寄せた。

 カテリーナは、敵の侵攻が現実になった時点で合流する手はずとなった。

 法皇宮殿の中枢からは、偵察によって得られた敵軍の情報が次々ともたらされた。

 アラヴィヤ軍の主力はガレオン船と呼ばれる大型の艦船で、定員は五百人。それが十隻で船団を組み、ついにロドス島を発進したという知らせがまず飛び込んできた。

 大船団の行き先を、ルーマン軍は注視した。

 ロドス島からルーマまでは船で七日かかる。一日毎に近づいて来る脅威に、緊張が高まった。

 六日目、敵艦隊に動きがあった。六隻と四隻に、船団を分けたのだ。

 徐々に接近してくる艦影を見て、ルーマン軍はアラヴィヤ軍の狙いを察知した。艦船六隻の主力でルーマを攻め、四隻の別働隊でガリアを落とす作戦だ。二点同時攻撃である。

 このタイミングで、カテリーナがガリア村のユイルたちと合流した。

 ルーマ近海に現れた六隻の主力艦船は、海岸線に接近してはカタパルトで石弾を撃ち込み、こちらがカタパルトで反撃しようとすると沖に遠ざかる、という波状攻撃を繰り返した。

 別働隊四隻は、全速力でガリア最寄りの海岸に接岸すると、小船などの揚陸艇も活用して二千名の兵を上陸させた。

 その手際は鮮やかで、ルーマン側は何も妨害工作を行うことができなかった。

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