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第35話 ナポレ王国へ

 翌朝。

 ユイルの黒馬、レオンの栗毛の馬、リィナの芦毛の馬に、数日分の保存食や携帯寝具を積んでいると、来客が屋敷の門を叩いた。

「カテリーナ」

 ユイルたちの前に姿を見せたのは、法皇の妹だった。彼女は愛馬の白馬で来訪した。その手には、大きな木製の盾が携えられている。

「この盾は?」

 ユイルが尋ねる。

「高位プリーストにお願いして、徹夜で作ったの。火炎攻撃を防ぐ魔法がかけてあるわ」

 魔法の盾、ファイアー・レジスト・シールドだった。

「ユイルは二刀流だから、盾は邪魔かもしれないけれど、今回は防御力を高めたほうがいいと思うの」

 カテリーナの指摘は正しい。レッド・ドラゴンと戦うのに、この上ない強力な餞別だった。

「ありがとう、カテリーナ。大切に使わせてもらうよ」

 少女は、愛する少年のためにできるだけのことをしてくれた。それが、少年には嬉しかった。

 最高の手向けを手に、ユイルは馬上の人となった。レオン、リィナが騎乗して続く。

 ユイル邸の門前で、カテリーナとラームは、一行の姿がルーマ市外に消えるまで、無事の祈りを込めて見送ったのだった。


 ルーマからナポレまでは、石畳で舗装された街道が通じている。身軽な三頭の馬とその主たちの旅程は軽快かつ順調だった。

 二つの都市の距離は、馬の速度で約五日だ。ユイルたちは野宿もしたが、小さい街や村で宿屋があるところでは、体を良く休めるために宿泊施設に泊まった。

 そして五日目。ユイル一行はナポレに到着した。都市の周囲は、高い防壁に囲まれている。大きな正門で、ユイルは法皇から託されたルーマン法皇国の紋章が施された親書を提示して、入国を許された。

 ナポレはルーマンほどではないが、かなり繁栄している国家だった。王宮へと続く大通りは、賑やかな市場となっていて、多くの人々が往来している。多数並んだ店舗では、豊富な肉、新鮮な野菜、色とりどりの果物などが山のように積まれ、客の目を引いている。

 ユイルたちも、美味しそうな食べ物の数々に目を奪われながら、雑踏の中、馬を進めた。

 人海を渡って、王宮へと辿り着く。ナポレの王権の強さを示すかのような、立派な城塞だった。

 門衛に親書を示すと、どんどん奥へと案内された。途中で馬を降り、馬丁に預ける。

 大回廊を徒歩で通り抜け、謁見の間に入る。

 赤い絨毯が長く前方へと続き、ステップを十段ほど登った場所に立派な玉座が据えられていた。

 玉座には、ナポレ国王・ロベルトが座している。

 小太りの壮年で、笑顔を見せてはいるものの、その底に何かを秘めていそうな、掴みどころのない人物だった。

「良くぞ参られた。余がナポレ国王、ロベルトじゃ」

「ルーマンの使者、ユイルと申します。こちらは、法皇猊下からお預かりした親書になります」

 ユイルはステップを上がり、跪いて親書をロベルトに手渡した。

 親書に目を通したロベルトは、

「法皇猊下におかれては、ご壮健なご様子。このロベルト、安心致した」

柔和な表情を見せた。

 この王が、オレを利用しようとしているのか。ユイルは思った。悪い人には見えないが、計算高い人物のようには感じられた。

 こんなところで腹の探り合いなどしていても意味がない。ユイルは本題に入った。

「今回は、ただの使節ではなく、倒すべき化け物がいるとか」

 ロベルトは小太りの体を前に乗り出した。

「そうなのじゃ。先月、離宮にレッド・ドラゴンが襲来し、宝物を奪った上、一人娘のルクレチアをさらっていったのじゃ」

 人質がいるのか。一人娘と言うことは、この王国の王位継承者ということだ。

 無事に救出しなければなるまい。また一段、任務のハードルが上がった気がした。

「レッド・ドラゴンの棲み処は、判明しているのですか?」

 ロベルトは残念そうに首を横に振る。

「いずこかの山の火口だろうとは目星がついておるのじゃが・・・。今一度、離宮に財宝を巻き、奴をおびき寄せようと考えておる」

 ドラゴンは、金銀財宝に目がない。その収集欲は底なしだ。悪い作戦ではない。

 離宮は、ナポレ市外の湖畔にあるという。

「そなたたちだけを戦わせはせぬ。離宮の周りにバリスタ(大型弩砲)と兵士を配する。ドラゴンの翼を傷つけて、飛行できないようにする手筈じゃ」

 飛べないドラゴンならば、戦いようもあるか。あとはブレスさえ防げれば。勝機が少し見えてきたように、ユイルには思われた。

「部屋を用意させた。今夜はゆっくりと休むが良い。明日、わが国の兵士と共に離宮に出陣してほしい」

 宴も準備したかったのだが、それは戦いの後に、と、ロベルトは続けた。

 ユイル、レオン、リィナの三人は、賓客として遇され、それぞれ清潔な客室をあてがわれた。

 天蓋付きの豪華なベッドで、三人は真っ白なシーツにくるまれ、安眠を貪ったのだった。

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